それは泡沫の夢
一日だけ存在を許された儚い夢物語
過去にも現在にも未来にも当てはまらない時間軸
しかしその全てを内包する世界が其処にはあった
「いーーーやっほーうっ!♪」
一人の少女が全力疾走で風呂に飛び込んだ
湯船には水柱が大きく立ち、水飛沫を激しく散らして迷惑この上ない
「でっかいお風呂に国際色豊かな美人や美少女美幼女がた~くさん。さ~いこ~だね~♪」
少女は腹を上にしてプカプカ浮かびながらのほほんと呟く
その体にはタオルの類は一切纏っておらず、生まれたままの姿
そのボディーはなだらかと言えば聞こえは良いが、早い話が起伏が全く無いツルペタだった
ミラ「あっちから聞き覚えのある声がした様な気がするわ・・・」
我等がミラ姫は気の所為であれと思いつつ少しネガティブな気持ちになった
確かめようか悩んでいると声のあった方からポニテの女性と、その女性に首根っこをつままれたミナが来た
正直気の所為の方がよかった
ケイカ「こいつアンタんトコのだよな。飛び込むのは一向に構わないんだが、他に誰か居るのを確認してから突っ込む様に言っておけ」
ミラ「姉が大変ご迷惑をお掛けしました」
ミナ「にゃはは~、ごめんちゃ~い♪」
ケイカ「元気があり余ってるとかいうレベルじゃないだろう。遊びたいんなら此処より向こうのアスレチックに行った方がいいと思うが?」
ミナ「あ~、駄目だよあっちは。あっちは今恐いのが居るから」
ミラ「恐いの?」
ミナの言葉通り、アスレチックエリアには恐いのがいらっしゃった
断罪「むぅ、いつもと変わらん状態の筈なのに余計なのが一、二と居るとゆっくり過ごせもせんな」
充「とはいえマスター、此処には僕等しか居ない様ですから肩肘張らなくても大丈夫そうですよ」
断罪「そうなのか?確かに他の奴等の気配を近くに感じんが・・・」
祝福「誰も喜び勇んで袋小路に入ろうとは思いませんからね」
断罪「貴様は何を言っておる」
季由香「それはそうとお兄ちゃん、断罪ちゃんに汚いモノ当ててないわよね?」
実の兄だろうと私怒るわよ?と言って、完全に座った目で睨み付ける
断罪ちゃんは私の嫁とか普段から言ってる妹なので、その無言の圧力たるや熟練の冒険家の様である
実際の所当たってるかどうかでいえば当たっているのだが、事実を言ってしまうと切断されかねないので飲み込む事にする
いや、だってお尻がスベスベ過ぎてその気が無いのにムクムクと自己主張をするのだもの
・・・なんて口が裂けても言えない
続く
スレイド「・・・・・・え?今何つった?」
アナカリス「だから俺はお前なんだって。同一人物。イコール。過去と未来。オーケー?」
スレイド「凄え認めたくねえ。・・・が、もう何でもありなのがこの状況見りゃ手に取る様に分かるぜ」
アナカリス「あー、まあ、お前もその内嫌って程理解する事になるさ。どっかの誰かさんの所為でな」
朱鷺江「うふふ、それは私の事かしら」
アナカリス「イエ、トキエサンニハタイヘンオセワニナッテイマスノデ、ソノヨウナコトハトテモトテモ」
朱鷺江「あらそう?それなら帰ったらご褒美をあげないといけないわね、うふふ♪」
アナカリス「ソレハウレシイナア。ダイスキナトキエサンニゴホウビヲイタダケルナンテ、オレハナンテシアワセモノナンダロウ」
スレイド「一体未来の俺は何をされたんだ・・・」
リィス「青年よ、強く生きろ」
ポンとスレイドの右肩に女性の手が置かれた
見るとエメラルドグリーンの髪色をした少女とも取れなくない女性だった
いや、見る角度で髪の色が銀にも黒にも見える所、こいつは人間ではないのかもしれない
アナカリス「キヲツケロ、カコノオレヨ。オレガコウナッタノモ、ソイツガダイタイノゲンインダ・・・」
スレイド「なん・・・だと・・・」
リィス「人聞きの悪い事を言うな。私は死神としての心得を手解きしたに過ぎん」
人間じゃないとは思っていたがまさか死神だとは・・・
世の中何があるか分からんな
まあ、俺も殺人鬼やってるし死神が居てもおかしくないか
・・・・・・いや、如何考えてもおかしいな
アナカリス「しれっと嘘を吐くんじゃねえっ!ええい、斐綱放せ!!コイツは一発殴らんと俺の気が済まん!!!」
斐綱「落ち着けカリス!あと人の女房を黙って殴らせるとか旦那失格だろうが!!」
ギャーギャーと言い争う男二人を余所に我関せずという風に温泉に浸かる少女二名
斐綱の娘・夜深とその義妹・黒音である
夜深「ふぃ~、温泉ってなんでこう・・・な~ん~で~こ~お~♪」
黒音「姉さん、結局何が言いたいんですか?」
夜深「うにゅ~?な~ん~で~こ~お~、あったまる~のもそ~だけど~、なぜだかとってもきもちい~♪・・・って言いたかったんだよ」
黒音「成程。そういえば以前も家族皆でお風呂に行きましたけど、あの時は今とは違う気持ち良さだったと思います」
何だったんでしょうね?と小首を傾げる黒音
それに対して少し驚いた表情で答える夜深
夜深「くーちゃん、ソレ本気で・・・言ってるんだよね」
黒音「?」
夜深「(父上も鈍感だけど、くーちゃんもある意味鈍感なのかも・・・)」
黒音「あ、母さんの『閃』が出ましたね」
夜深「そりゃあ黙って殴られる様な人じゃないからねえ(苦笑)」
続く
千影「こ、これはなんてミステリアスな・・・」
無名「普通におかしいって言えよ」
総勢30名以上の大所帯だというのに全く芋洗い状態にもならない湯船
それを湯船の外から眺める千影と無名
フミカネ「うわあ、凄いですね。ウチはかなりの大所帯なので全員入れるか危惧していたんですが・・・」
ムネタダ「おいキヨマサ!サウナで耐久勝負と洒落込もうぜ!!」
キヨマサ「分かった、分かったから引っ張るな。フミカネ様、そういう事ですので暫くお暇を頂きます」
ゲッコウ「おお!フミカネ、我が浸かっても湯が溢れんぞ。此処の風呂は五つ星級だ!!」
なんか凄く気が緩みまくっていた
というよりネジが外れまくっているのか?
普段からは想像出来ない様なレベルで各々楽しんでいる
七紙「ここは僕等の世界と同じで平穏な世界なんだね、良い事だよ。それと分からない人も居るかもしれないけど、サウナに行っちゃ駄目だからね?」
無名「あん?何でだ兄弟?」
七紙「知らないままの方が幸せだったと後で悔やませたくないからね」
千影「なんとなく私には分かるわ」
無名「なんでお前に分かるんだよ。俺にゃサッパリ分かんねえんだが?」
千影「私は恋をしているから分かるのよ」
無名「はあ?わっけ分かんねえ・・・」
一方その頃
遼亮「へえ、色んな風呂があるんだな。アスレチックエリアってのはコンセプトがよく分からないけど」
斎「先輩、ジャグジー入りましょうジャグジー!」
月子「電気風呂もあるしスライム風呂もあるみたいです。中々興味をそそられますね」
たっつー「スライム風呂とは一体・・・うごごごご」
奈美菜「と、ともくん・・・コレってもしかして、いつも見慣れてるアレなのでは・・・」
体を洗う場所にあったのは沢山の風呂桶と沢山のイスと、それにまじって不自然感がバリバリ伝わって来る一つの変わったイス(ピンク)
座る面の中心が四角に窪んでいるこの形状のイスは何処から如何見ても・・・
たっつー「何故こんな所にさも当然の様にスケベ椅子があるのか」
某界隈で万能椅子として映像付きで紹介されていたという
その話はたっつー自身小耳には挟んでいたが、まさか件のソレを自宅以外で見る事になるとは予想していなかった
そう、自宅にあるのである。主に一般的な使用法で使っているので奈美菜も知っているのだ
この変態め
琴音「城戸さん、私めがこの椅子で貴方様にご奉仕を!」
瑞華「寝言は寝て言えと以前も言ったでしょうが」
瑞華さんの手刀が琴音の首に音も無く刺さった
グラリと琴音は体を傾けると浴場にパタリと倒れた
白目をむいていたが何処か幸せそうな表情である
よかったな、夢の中で思う存分ご奉仕して来い
誰かがそう思った気がした
続く
蒼麻「お?」
奏覇「え?」
???「ふむ」
なんか似た雰囲気を持つ者が十字路で鉢合わせた
一人は天星世界の抑止力・如月蒼麻
一人は千年後の世界の代表・木更木奏覇
一人は果ての先の住人・???
紅葉「急に立ち止まって如何した。通行の邪魔になるから脇にどけ、て・・・」
蒼麻「あれ、アンタどっかで?」
白帝「如何したんですか師匠?早く行かないと弥生さん達が待ってますよ?」
???「こっちへ行きたいんだろう?ほら、譲るぜ」
一人の男が言って脇にどける
何か思い当たる節があるのか蒼麻は一瞬考え込むが、遅れてしまうのも駄目だと思い好意に甘える事にした
男の横を通り過ぎる刹那
???「大事にしてやれよ。失ってから後悔したんじゃ遅いからな」
蒼麻「え?」
小さな声で囁かれ、後ろを振り向いた時には男の姿は忽然と消えていた
狐にでも化かされたかと思ったが、此処は夢の世界も同然
そんな事が起こってもおかしくはない
なので深くは気にせず先を急いだ
その後方で奏覇の母・紅葉は何か懐かしい物でも見たのか目を細めて、今しがた通り過ぎて行った彼等の背中を見詰めていた
奏覇「母ちゃん行こうぜ。父ちゃんも爺ちゃんも待ってるし、九香もリコも巴も待ってるしさ」
紅葉「・・・・・・ああ、分かっている。それにしても此処は風呂というよりプールと言った方が正しいな」
奏覇「まあ、入浴施設にアスレチックは無えわな」
そして十字路には誰も居なくなり
???「少し介入し過ぎたな。ま、どうせ夢の中だし起きたら忘れてるだろ」
折角だしちょっとだけ眺めていくかなー
男はそう呟くと蒼麻達が向かった方に去って行った
この邂逅はとても重要であまりにも反則じみていた
ただし夢なので全て忘れる
記憶にも残らないし、何の記録も残らない
これはそういう世界のお話
終わり
■後日談■
???「帰ったぜ~」
■■■「お帰りなさい。此度の介入は些か度が過ぎたのではないですか?」
???「ぐ・・・見てたか」
■■■「ええ、壱から萬まで確りと」
???「一夜限りの物語なんだ。警告した所で記憶には残らねえよ」
■■■「果ての先に至る事は必然事項なのですよ?些細な事であっても矛盾材料は排すべきです」
???「お前は考えが古いんだよ、スキュラだってもうちと前向きだぞ」
■■■「あの子が此処を旅立って3万5760周期になりますね」
???「そろそろ出逢えるといいが」
■■■「ええ、きっともうすぐ・・・」