top of page

ホロッホー、ホロッホー
近くでフクロウの声がする

今は夜なのだから当然だが、それよりも今この場が天井と壁によって仕切られていないというのも一つの要因だ

 

「それにしても露天風呂とは。サザンカ、汝の拠点にも良い所があるではないか」

 

サザンカ「いやいや姐さん、このミルドヘッドは地形的に超有利だし攻める側にとっちゃこれ以上ねえ場所に建ってるんすよ?良い所目白押しじゃないっすか?!」

 

「ああ、妾そういうの興味無いからの。確かに立地はネビュラよりは良いとは思うが、要塞と城を比べるのはおかしいしの」

 

サザンカ「う・・・ま、まあ、内外問わず城の方が色々とハイスペックっすけど」

 

「ふむ、その様な事より汝はまた領土を増やしたと聞いたが」

 

サザンカ「はい、姐さんの武勇伝に倣って真正面からブチかましてやりましたよ!」

 

サザンカは豪快に笑う
その顔はとても嬉しそうで、まるで母親に自慢をする子供の様である
だが女性はサザンカの話を聞き終えると静かにこう言った

 

「サザンカ、妾を慕ってくれるのは嬉しいがの・・・あまり妾の後を追おうとする物ではない」

 

お猪口に酒を注ぐとそれを空に掲げて眺めながら女性は言う

 

「妾達は古来よりこの地で栄えてきた高貴なる種族ではあるが、“あの時”より妾は一族から不出来なる存在と判を押され生きてきた。その様な誇りすら捨てる者に憧れてはならんよ」

 

目を細めたのは月の光が目にしみたのか
女性はグイッと酒を飲み干すと、一息吐いた
サザンカは何も言えなかった
女性の言う“あの時”をこの目で見た訳ではない
そもそも彼女が生まれるよりも以前の事である
ただ歴史書によればソレはトウマの国において初めての事で、同時に種族にとって極めて異例な事だった
故に当時は様々な憶測が流れ、真偽も分からぬ噂が流され、彼女は種族の中で孤立していった
だが、と彼女は言う

 

「憧憬と親交は違う。一方的か相互的かの些細な違いではあるが、妾は汝の事を一人の友人として想っておる。憧れが悪い事とは言わんが、度が過ぎる行為は向けられる側も心苦しいと心に留めよ」

 

サザンカ「姐さん・・・」

 

今宵の月は満月
青き色が一層映えて、虹色の星々が天蓋をこれでもかと覆っている

 

「星がよく見えるのは空気が澄んでいるからか。ふむ、山の上の拠点というのも中々褒められた物だな」

 

夜はまだ続く
満天の星空の下、いつか来る出逢いを信じて

 


終わり

bottom of page