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これは、斐綱がリィスと出逢う前の
とても心が温もる・・・そんなお話

 

【闇本Another-それは始まり-】

 

俺の名前は斐綱
皆がそう呼ぶからそうなのだろう
だから俺は斐綱なのである

 

「今日も雨か」

 

親は居ない
親類も訪ねて来ない
兄妹は居ない
俺は物覚えがつく頃から独りである

 

「この頃青空を見ていないな」

 

『そうですね、これじゃあ洗濯物も乾きませんし』

 

彼女の名前は無い
名前は無いが愛称はある
クライ
確か意味は愛だったか
血の繋がっていない他人である

 

『斐綱兄さん、今日の昼餉は如何しましょうか?』

 

「そうだな・・・お隣さんから肉でも貰うか」

 

彼女を拾った日も今日の様に雨だった
土砂降りの中、一人道に立って呆っと空を眺めていた
その姿は何処か物悲しくて
何か自分と同じものを見た
だから声を掛けた
同じ様な感覚だったから

「明日も雨かな・・・」

『晴れたらいいですね』

そして、今に至ると・・・

 

第一声

 

 

 


斐綱とクライの心温もるお話
ちょっとまったりペーストでお送りしたい今日この頃

 

【闇本Another-泥にまみれろ-】

 

俺は斐綱
何だか最近本当は飯綱なのではないかと不安でしょうがない

 

「夜か・・・」

 

起きれば夜
別に寝坊した訳ではない
普通に朝起き、昼を食べ
暇なので寝ただけである
暇といえば暇か・・・

 

「山の麓にある村だからなぁ・・・」

 

そういう事である

 

『はい?何か言いました?』

 

「いや、別に・・・・・・そんじゃあ畑でも行って来る」

 

『あ、それじゃあ私も行きますよ』

 

「汚れるぞ?」

 

『大丈夫ですよ、汚れても平気ですから』

 

畑仕事は大変だ
服が汚れるし、何より腰に来る
そして一番の問題は・・・

 

「分かった、暗いからはぐれるなよ」

 

『手を繋げば大丈夫ですよ、斐綱兄さん』

 

道が暗いのである
途方も無い位に
外灯なんてある訳ないし
そもそも山ですから

 

「(落とし穴が多いんだよなぁ・・・)」

 

何気に二メートルはあるし
結構アレはアレで猪とか獲れるんだよなぁ
とか思っていたら・・・

 

『あわっ!・・・あいたたた・・・』

 

横で本当に落ちる奴が居るんだよ

 

第二声

 

 

 


斐綱とクライの海の幸山の幸
・・・訳が分かりませんがそういう内容です

 

【闇本Another-豊穣祈願-】

 

午前中の野良仕事も終わり
昼餉を食べて、村から少し離れた社に行く

 

『こんにちは、ニールさん』

 

社に着くと初老の神主が出迎えてくれた
月に一度は社に出向き、掃除を手伝っている
実はこの社、ニールさん一人で管理しているそうだ
ご苦労な事である

 

「今日は豊穣祈願も兼ねているんで、短めにお願いします」

 

何時も長いから
しかも半分押し付け気味・・・
爺様じゃなかったら殴ってる
いや、マジ本気で
俺の流儀に反するが、神様もこれだけは目を瞑ってくれる筈だ・・・多分

 

『兄さん、兄さん』

 

「ん、如何したクライ?」

 

『ニールさんに「何時も手伝ってくれて有り難う」って貰ったの』

 

クライの手には鈴があった
これがまた破魔矢に付いてる様な小さな鈴で
まあそんな事よりも・・・

 

「俺には何のお礼も無しか・・・」

 

まあ、そこまであの爺様に期待はしてないが

 

『~♪』

 

(クライが嬉しそうにしてるんだから別にいいか・・・)

 

山は紅葉に包まれ、紅色に化粧をしていた

 

第三声

 

 

 


斐綱とクライの心温もるお話
泣ければあなたは優しい人です

 

【闇本Another-それが私の願い-】

 

その日は雨が降っていた
それだけなら普通の事だったけど
その日は異常なまでにクライが暗みがかっていて
比喩ではなく
全身が本当に暗かった

 

「如何したんだお前、何か病気にでも罹ったのか?」

 

心配そうに言う
少し間を置いてクライは言葉を紡いだ

 

『兄さん・・・私、兄さんと出逢えて良かった。兄さんの妹になれて本当に良かった』

 

その言葉に一瞬我を忘れた
何を言っているんだと
妹は一体何を考えているんだろうかと

 

「お前、何言って・・・」

 

『兄さんに初めて逢った時、私とっても嬉しかった。私と同じ気持ちを持ってる人は兄さんだけだったから』

 

よくは分からないが
クライは自分と俺を重ねて見ていた様だ
その理由は定かじゃないが、それはクライにとって心の支えだったんだろう

 

『兄さん・・・これ』

 

差し出されたのはあの時の鈴
それはチリンと小さく鳴った

 

『兄さんと過ごした一年間、凄く楽しかった。でもね・・・もう行かなきゃ、私が居ないと皆が困るもの』

 

「行くって・・・」

 

『この鈴を私だと思って持ってて。私は空から兄さんを見守るから・・・だから、お願い』

 

分かってたんだ
いつかは別れが来る事なんて
分かってた筈なのに・・・俺は・・・
だけど、例え赤の他人だって
本当の妹じゃなくたって
たった一人の家族の願いを卑下にする気は毛頭無い

 

「分かった、それが俺の流儀だからな」

 

『うん』

 

笑顔で
涙を目尻に溜めながら
静かにクライは消えた

 

「     」

 

初めて泣いた
人の為に泣く事なんて
一生俺には無いだろうと思っていたのに
長いようで短かった二人の生活
残していった物は少ないけど
この心に残った物は沢山あった

 

「―――今度は、俺が・・・」

 

俺の大切な人を守るんだ
そう心に誓って

空は晴れ
大きな虹がかかっていた
それはとても美しい
――――――月の光の様な虹だった

 

そして時は流れて
青年は出逢うだろう
守るべき大切な人に
再び誓うだろう
絶対に悲しませないと
―――今も鈴は鳴っている


闇本Another

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