その光景を言葉で表現するのなら
戯れと言った方が正しいのだろうか?
不敵な笑みを崩した男と
いたずらを覚えたかの様な笑顔の男
それは死合いをしているなんて微塵程も感じさせない
そんな光景だった
【五裏武誅】
最初に口を開いたのは誰かって?
我最でも如月でもなかったよ
成り行きを見守っていた門下生の一人だ
一瞬呆けていたがすぐに我に返り一言
「ソウマ、今まで何してたんだよ!師範代すんごい頑張ってたんだぞ!?」
蒼麻「おおぅ、悪ぃ悪ぃ。だがヒーローっていうのは、遅れて登場するものだ!!」
自信一杯にそんな事を言われた
門下生達は揃って呆れている
如月蒼麻とはこういう男なのだ
世の中を楽しんでいる
どんな凄い事が起こっても
予想外な展開になっても笑い飛ばす
そんな性格を持ってもいるのだ
我最「つー事は師範はお前か」
蒼麻「ご名答♪稽古には実質一回も出てない癖に師範をやってる」
門下生一同「自分で言うな!」
8人全員に言われれば形無しである
それでも蒼麻は雰囲気を崩さない
それがこの男の平常
他人がおかしいと思う事が
この男にとっては普通なのである
蒼麻「椚(くぬぎ)、竹刀を取ってくれ。禁忌を犯したコイツに痛い目を見せてやる」
椚「へいへい、全く・・・人使い荒いなオイ」
蒼麻「はっはっはっ、いつもの事じゃないか♪」
そう、蒼麻と門下生達はいつも一緒に遊んでいる仲である
だから人使いが荒いのはいつもの事である
蒼麻は門下生と話す為に後ろを向いていた
割り込みとはいえ死合いは続いている
最中に背後をがら空きにする等油断大敵である
それを見逃す我最ではない
その背中に向かって剣を振り上げ
勢いよく振り下ろした
普通ならここで終了
相手は死に勝者が決まる
我最「な・・・に?!」
そこで終わらないのが蒼麻クオリティ
渾身の力で振り下ろされた剣を
後ろ向きのまま左手で受け止めた
言葉通り、真剣を左手で受け止めたのだ
それは正気の沙汰じゃない
真剣という事は斬撃においてトップクラスである
もちろん傷が出来るし
手の平といえども多量の血液が漏れる
それを平然と口まで運び啜る
「いや、止血しろよ」
蒼麻「それはちょっとばかし無理な相談だな。朱里(あかり)、お前は己の体液を循環させるという考えはないのか?」
朱里「いや、それはお前だけだろ」
ツッコミを入れられた
そんな光景を見ながら我最は愕然としていた
今まで自分の剣を素手で受け止めた者が居たか
答えは否
全てその一刀の下に葬ってきた
だからそんな事は一度も無かった
「五巻」
終