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左腕で体を薙ぐ

ソレは上と下に分かれ、声も無く倒れる

血は赤、正常な色

否、正常などこの世界で通じるのか?

群青色の空

荒れ果てた大地

それだけでも異常だというのに

戦っている者は、どこまでもこの世界にとって不釣合いだ

その顔は輝きに満ちた白い肌

金糸の髪が風でなびく

瞳は前をジッと見据え

その刃はソレを捉える

もう一度言おう

―――左腕でソレを薙いだ

戦っている者は女だった

それだけならまだ正常と異常の狭間だった

しかし、女の左腕は如何見ても刃だった

銀の刀身は鏡の様で

血糊が付く事は無かった

 

親密な関係にある男性に聞かれた事がある

 

「なあ、何でお前は戦うんだ?」

 

それが私の役割だと答えた

男性は首を傾げ、また聞いてきた

 

「じゃあ、何でそんなに悲しい顔をするんだ?」

 

それは気付いていなかった

男性によると私は戦いに赴く際に

何時も悲しげな表情を浮かべるらしい

戦う事は長姉としての私の役割だと思っていたし

他の妹達にそんな事はさせられないと思っているからだ

その答えに男性は柔らかな笑みを浮かべ

 

「優しいな、お前は」

 

と私の頭を撫でながら言った

何故だかその感触がくすぐったくて

私はまともに男性の顔を見れなかった

そんな彼の存在意義は戦いの為

戦う為に神様に生み出されたのだ

しかし、そんな境遇を素直に受け入れなかった彼は

今も平和に家族と共に日々を暮らしている

それを見て私も聞いた

 

「私も貴方みたいになれるかしら?」

 

彼はあの柔らかい笑みを浮かべて答えてくれた

 

『出来るさ。だってお前は人の死を素直に悲しめるんだから』

 

今では辛い事があった時の支えになっている

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