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あれから100年が経った

1年や2年なら何が如何変わる訳でもない

しかし100年も経つと流石に人間は誰も生きていない

年を取らない種族であっても、やはりその中身はそれ相応の時を刻んでいる

この街もそうだった

相変わらず大勢の種族が入り乱れ、永遠に楽しき夜を求める幻想世界

 

「此処が・・・トウマの国」

 

様々な次元を結ぶ列車から降り立った少女は、駅から見える眺めを見て言った

空には青き月と虹色の星々が瞬き、少女が今まで見たどんな物よりも幻想的だった

右手に提げた旅行カバンが重い

しかしそんな事は気にもならない位、少女の胸は期待に膨らんでいた

此処が私の始まりになる

意識はしていなかったが、心の何処かでそんな事を感じていた

そう、此処は彼女にとって始まりの舞台であり、何時か還って来るそんな場所

トウマの国とは・・・

怪物が棲み、獣人が闊歩し、人間が笑い、妖精が舞う

魔導が発展し、科学が興り、技術が進歩した

此処はそんな世界のそんな国

 

少女は夢見る蛙だ

井戸の底で夢を見て

足掻き藻掻き井戸を這い出た蛙

初めて見る外の世界は自分を虜にする世界で

それが時には不幸を招き

それが時には出逢いを呼んで

だから少女は笑いながら逝くだろう

生きた世界に、飛び出た自分に

最大の感謝と敬意を払って

 

此処はトウマの国

彼女の母親が愛した世界

 

 

第一雨

「さあ、題名を決めよう」

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