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フィーナ「これは・・・雨?」

 

何の予兆も無しに雨が降るなんて別段おかしな事ではない

太陽が出ている時でさえ雨は降る。俗に言う天気雨、狐の嫁入りだ

これでテレティアの街に現在発生している物は雲、霧に続いて雨の三つになった

フィーナは広場の中心に目をやる

霧が発生しているとはいえソフィアの姿もキリガラと名乗った女の姿も視認出来る

それがまだ救いだった。これで見えなければ濃霧というよりも白煙と言った方が早い

 

コルネリア「お嬢様、霧に続いて雨まで降ろうものならソフィア様が危険です」

 

霧とは即ち雲である

地面に接していない物が雲であり、地面に接している物が霧と定義される

山道を歩く者が霧に遭遇したというのは、転じて其処に雲が移動したという事だ

そして雨は雲から降り落ちる物であり、つまり霧と雨は互いに関わりを持つのである

 

コルネリア「降雨量によっては霧がかさ増しされて、視界が完全に塞がる恐れが・・・!!」

 

フィーナ「なっ・・・それじゃあ、早く何とかしないと!」

 

ソフィー「大丈夫だよフィーナ。私は・・・雨巫女だから」

 

直後、霧を裂く様に天上から白刃が降り注いだ

大型の雹か霰でも落ちて来たのかと思う程の轟音

それが丁度二十に差し掛かった頃、あんなに街を覆っていた霧が晴れた

そして広場に現れたのは・・・

 

キリガラ「そう、これこそ我が求めた雨。天雲の一族の御技!」

 

ソフィー「よく知ってるね、私だって知らないのに」

 

キリガラ「っ・・・ならば、やはりあの話は本当だったか。天雲の里は既に・・・」

 

ソフィー「うん、私は覚えてないけど・・・お婆ちゃんの話によれば何も残ってなかったって」

 

キリガラ「・・・・・・」

 

二人の間を分かつ様に、銀色の刀身をその身に宿した二十もの剣が地上に刺さっていた

しかしそれらが刺さっているにも拘らず、地面には亀裂もヒビさえも入っていない

刺さっているのに被害の痕跡さえない

それは異常な事だ。全ての幻想が集まるとされるトウマの国でもそんな事例が確認された事は無い

 

ソフィー「私は雨巫女が如何いう存在で、この力がどんな物なのか十分解ってるつもり。時の権力者が里を滅ぼしたのも納得がいくよ」

 

ソフィー「貴女が何者なのかも解ってる。でもね、私は今の私が、お母さんに名付けて貰ったソフィアって名前の普通の女の子が好きなんだ」

 

キリガラ「それが、我等が仕えるべき主君の望みなら」

 

ソフィー「うん、次は試しとか戦闘とか無しで、平和に街の中で出会おうよ」

 

言ってニカッと笑った

キリガラはそれを呆気に取られたかの様に眺めた後、フッと微笑むと一言

 

キリガラ「平時の我を見破れるとは思えませんがね」

 

ソフィー「なにおう!?」

 

キリガラ「・・・フィーナ殿にコルネリア殿、ひいてはテレティアの住民方、お騒がせして誠に申し訳無い。しからば御免」

 

そんな時代劇みたいな言葉を残して風の様に去って行った

残されたソフィアがフィーナ達の方に振り返ると同時に、地面に刺さっていた二十もの剣は音も無く霧散していた

これがトウマの国でソフィアが体験した最初の事件であった

 

第十雨

「剣の雨、飛来す」

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