廻廊の奥深く
今では誰も知らない心臓部にソレは居た
風も無いのにゆらゆらとたゆたうソレは、黒く塗り潰され顔の一部を三日月状に歪ませた
と、不意に全身が大きくわなないた
合計四つの波紋めいた現象を起こすと、もう既に其処にはソレは居なかった
代わりに居たのは四人のヒト
背格好や顔立ちに差異はあれど、一人として欠ける事無く全員が漆黒の髪色
一人が言う
「それじゃあ手筈通りに二人一組で行動するぞ。クロキとアンコは北から西にかけてを、俺とサクラは東から南にかけてを担当する」
「了解」
「ん」
「・・・・・・」
四者四様。互いが返事を返すのを見てから四人はそこで別れた
後に残るは静寂だけ
誰も知らない、誰も来る事の無い、静かな部屋だけが残った
それと時を同じくして、央都駅のとある線路が静かに軋み始めていた
一方その頃ソフィーはというと・・・
コルネリア「ソフィー様、何処かへお出掛けですか?」
ソフィー「あー、えっと・・・駅まで人を迎えにね」
フィーナ「大丈夫なの?」
ソフィー「うぐ・・・ま、まあ、問題無いと言えば嘘になるかも」
フィーナ「・・・やっぱり。まあ、こんな事もあろうかと手配はしておいたわ」
ソフィー「手配って・・・何の?」
ソフィーが?マークを頭の上に浮かべるのと、件の人物が現れるのは同時だった
テッド「よお、また会ったなソフィー」
ソフィー「テッドさん?」
フィーナ「暇だって言うから付き添いを頼んでおいたのよ」
テッド「頼まれたっつーか、有無を言わさぬ半端無え圧力を感じたけどな・・・」
テッドはそう言うと肩を落として苦笑した
だがその顔はどちらかというと仕方無いなという風で、1mmたりとも邪険には思っていない様だ
ソフィー「・・・というか、今初めてこの話したよね?先見の明とかそういうスキル持ってる系?」
コルネリア「昨晩館の見回りをしていた際に部屋の前を通り掛りましたら、ソフィー様がどなたかと話されている声が聞こえましたので。申し訳ありませんが私の独断でお嬢様にご報告させて頂きました」
サラッと申し上げるメイド
そんなに大声で話してなかった様な・・・と心中思うソフィー
フィーナ「ごめんなさいね。でも危ないでしょう?色々と」
『色々と』の部分が指しているのは先日の事件に関する事だろう
あれがまた起こるなんて事は、キリガラ自身が証明しているのだから恐らくはもう無いだろう
しかし同じではないとはいえ、事件が起こらないというのは100%ありえない
なんたって此処はトウマの国だ
幻想が存在し、科学と魔導が共存し、多種多様な種族が入り乱れる
何かしらの不和が起こらないとは限らない
ソフィー「ん、そだね。ありがとうフィーナ、素直に感謝しておくよ」
テッド「ま、俺に任せときゃ大体大丈夫さ!そんじょそこらの大型客船にも負けねえ位の安心感でエスコートしてやるさ!!」
ドンと胸を叩いて言い張るテッド
その頼もしい言葉にソフィーは一人心の中で思った
大型客船って映画とかで真っ先に事故に遭うよね、と
何つー身も蓋も無い発言なんだ
第十二雨
「二対の影、暗躍」
完