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ソフィー達が屋敷地下で刑事ドラマのワンシーンを繰り広げているのと同時刻
屋敷の南方に位置する枯れた古井戸の底に音も無く黒い杭が刺さった
それは鳴動していた
無機物の筈なのに心臓の鼓動の様に一定のリズムで鳴いていた

 

鎖暗「・・・・・・」

 

影楼「ああ、準備は整った。夜が来ない内に始めよう・・・」

 

トウマの国の計八箇所に刺さった杭がズブズブと地面に沈んでいく
そしてそこから黒い影状のナニカが立ち昇った
影は徐々に形を造り始め、それは何処からどう見ても竜だった
既存の竜と少し違ったのは生気も四肢も翼も無かった事だ
言うなれば首だけ。体の無い首だけの竜だった
それが八匹分出現した

 

影楼「央都を喰らうぞ」

 

言うが早いか既にその場には誰も居らず
代わりに央都中心部・フロータードパレスタに正体不明の黒いヒトガタが出現していた
ヒトガタはその右手を頭上に掲げ宣言した

 

「我は黒威・創破。これより我が竜の顎門にて央都を喰らう。力ある者は挑め、無き者はここで死ね」

 

パレスタに住む者はこれを何かの冗談だと思った
ここは央都政府の息が一番かかった場所
その様な暴挙に出れば早々に政府直属の騎士団によって粛清されてしまうからだ
だが、それは相手がただのヒトだった場合だ
黒威が掲げた右手を勢い良く振り下ろすと、先程出現した竜の首が集まって来た
それは最早先程までの塗り潰された黒一色ではなく、様々な色に体を染めた原色の八竜
体色や細かな点こそ違えど、その姿は別次元の神話存在とされる八つ首の大蛇の如き姿に酷似していた

 

黒威「黒点・八音戦咬、これこそ貴様等を喰らう我が最荒にして最狂の必滅技。さあ・・・誰から来る?騎士か?獣人か?不死者か?それとも過去の英雄か?」

 

言いながらも竜の首は周囲を壊し、潰し、蹂躙する
凄惨というべきか。ここにきて漸く人々は事の重大さを理解した
挑まねば殺される。しかし挑んでも勝てる見込みは少ない
何故ならばその黒威と名乗る黒きヒトガタは紛いなりにも竜を八匹も使役しているからだ
トウマの国において竜という種族は不死者を除くどの種族よりも勝っている
百年前、とある逸話を持つ少女が鋼竜と呼ばれる竜を飼っていた
制御が難しくヒトに懐くのも珍しいといわれており、事実その少女がどうなったのかを知る者は居ない
何故ならば少女が住んでいた屋敷は跡形も無く消失していたからだ

 

黒威「吐息で焼くか。瞳で睨むか。牙で頭蓋ごと噛み千切るか。ククク、久方振りの殺劇だ。存分に啼いて、喚いて、命の花を盛大に撒き散らせ!我を楽しませろ!!」

 

笑い声が木霊する
壊れている。と誰かが思った
心も体も正常ではあるが、あの黒きヒトガタには一般的な常識という物が欠落している
戦いこそが自らの存在意義であり、また日常なのだろうと
誰かがそう推測し、その推測を誰かが受けた
誰が受ける?騎士か?獣人か?不死者か?英雄か?
否、

 

剣帝「民に危害を加える者は王たる私がここで討伐する」

 

黒威「剣帝ジュネーサ=アラトリオン、か。クク、面白い、トウマ最強剣士の力・・・とくと味わわせてもらう!」

 


第二十三雨
「激突!黒き蛇と孔鉄王」

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