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竜がその顎門を開きジュネーサ王を捉える為に迫る
だがそれをヒラリとかわすと眉間目掛けて右の剣を勢い良く突き刺した
剣はズブズブと抵抗無く突き刺さり、そのまま反対側に突き抜けた
元々影からなった物なのだから実体が無くてもそれ程不思議には感じない
しかしそうなると、どうやって傷を負わせばよいものか?

 

黒威「クク、我が知らぬと思っているのか?貴様のその左の聖剣、影程度ならば容易に屠れるだろう?」

 

ジュネーサ「(敵の言葉に踊らされるのは不本意だが、それ以外に対処する術が無いか。)・・・ならば見せよう、我が孔鉄王国に伝わりし光輝なる聖剣の力を!」

 

光芒剣アークライズ
孔鉄王国が出来た時代に対となる影業剣リライトと共に地中より発掘された双剣の片割れ
刃こぼれ一つせず、刀身は鏡の様に輝き、特に闇や影に対して切れ味が増す聖剣の類である

 

黒威「眩いな、その眩さは最高の浄化の光だろう。さしもの昏き色の竜もそれには耐えられん。・・・だが、他の色の竜は消えぬまま、聖剣とはいえ万能とはいかん様だな」

 

ジュネーサ「その為に右の魔剣と私が居る。光で全てを滅せなくとも剣そのものが折れた訳ではない!」

 

黒威「如何にも。クク、では再開といこう。八が七になろうと我には同じ事だ、剣帝を降し央都を喰らう」

 

残った竜の首が我先にと突っ込んでくる
それをかわし、かわし、かわし、かわし、かわして、かわし抜いて、はたと気付く
数が足りない・・・
確かに突っ込んでくる瞬間に見た際は七つ全てが自分に向かっていた
だが、今かわし続けた結果は六
最後の一匹は何処に行ったのか、その答えに行き着く前に天上から残った一匹が顎門を大きく開いて降って来た

 

黒威「時間差攻撃というものがある。一つだけ間を置いてから攻勢に出させる事だ。なあ剣帝よ、これも兵法の一つだぞ?」

 

唇を三日月形に歪ませてククッと笑うヒトガタ
表情は分からない。ただただ人の形をした黒く塗り潰された影が揺れているだけ
実体が無いのか
それとも影自体が実体なのか、それすらも・・・

 

ジュネーサ「国家転覆等という愚行を犯すテロリスト如きが、幾万の兵を従える王たる我に兵法を説くとはお門違いにも程がある」

 

黒威「テロリスト・・・この世界にもその様な言葉が存在するとは。クク、面白い、やはりこの世界は面白い」

 

ジュネーサ「世迷言を。貴様もこのトウマの国に生を受けた身であろう、大戦直後の不安定な情勢の中テロ行為が頻繁に行われた事は知っておろうに」

 

黒威「生を?この国に?ククク、それは冗談にしては程度が劣るというものよ」

 

ジュネーサ「貴様何を言っている?」

 

その物言いに訝しむジュネーサに黒いヒトガタは言い放つ

 

黒威「我はこの世界の外側・・・正しくは、この世界に連なる世界・・・つまり異世界から来た」

 

ジュネーサ「それは個人の創作や御伽噺に登場する架空の世界であろう」

 

黒威「否、それは確かに在る。異世界の存在を認識せぬ者は井の中の蛙と同じ、所詮箱庭の住人よ」

 

ジュネーサ「(今までその様な事を考えた事は無い。歴史書にも記されてはいないし、科学者連中も同様だろう。我が国以外の国家ですら考えもしなかった筈だ。ならば・・・)」

 

ならば、これは事実だ
相当に眉唾物である
全くもって信用に値しない人物からの言葉でもある
だが、これは真実であると自分の勘が言っている
幾多の戦場を経験した自分の勘だけは何よりも信頼出来るものだ
故に、私は異世界の存在を信じる事にした
しかし、である

 

ジュネーサ「異世界を認識する事と、貴様が敵であるという認識は別件だ」

 

黒威「違いない。我も強者を求めてこの世界に来ただけ、戦わずしてこの昂ぶりは止められぬ!」

 

???「なら私が代わりにお相手をしてあげるわ。何か問題があって?業鎖ノ王?」

 

突然かけられた声に視線を移すと其処には少女が居た
長い黒髪の赤い瞳の少女
それを見止めた瞬間、ヒトガタは剣帝の時よりも更に歪な笑顔を作った

 

黒威「ある訳も無し。これ以上の褒美を求むるは愚か者のする事也!」


 

第二十五雨
「世界とは」

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