剣帝は類稀なる魔導技術の使い手である
全ての剣士が目指す頂である剣聖
その頂きに最も近く、反面最も遠い称号が魔導剣士。つまりこの男を指す
魔導剣士は魔導、剣、それぞれの技術に秀でたとして容易に名乗る事は許されず
緻密な制御技術が必須である為、その称号を持った者は歴史を浚っても片手で数える程度となっている
自国の地下から発掘された二組の双剣だけでは、己の手は広範囲を救えない
なればこそ、この浮動剣はこれ以上無い切り札となる
あの日届かなかった手を、必ず届かせる為に、彼は浮動剣での鍛錬を欠かさなかった
それが今、届く
剣帝「まだまだ!」
確かに届いた。浮動剣の五つの切っ先は正確に相手を貫いた
それだけでは終わらせず、彼は双剣を巧みに操り反撃も防御も許さぬ剣戟の嵐を浴びせる
剣帝はかつての英雄を目指した
傷付き倒れてもまた立ち上がり、国を救った剣聖のその背中を
憧れたその瞬間から妄信するかの様にひたすら目指した
だから彼は気付かなかった
浮動剣は確かに届いた。だがそれは、いわゆる一つの通過点
■■『六煉爪・歪』
剣帝「っ!?」
直感が囁いた。今すぐ身を伏せよ
斬りつける腕を無理矢理急停止させ、上半身を無理矢理捩じる様に、不格好ながらも首を前のめりにその場に伏せた
直後、頭上を掠める六の斬裂
後少しでも遅ければ剣帝の頭は上半身から別たれていた事だろう
頭を上げる間際、何かが見えた。異形の竜爪に似たナニカが
剣帝「(今のは、一体・・・?!)」
冷や汗が背中を伝わる
トウマの国にも竜は居る。鋼竜と呼ばれる一般的な貴族のペットとしてだが
だが黒威・創破の"腹から生えた"その竜の爪は、竜であって何処か竜ではない違和感を拭えぬモノ
しかも恐るべきは、
黒威「ふむ・・・許可無く出るな。別段命にかかわる状況でもない、余興の様なものだ。汝は後で罰を与えるから肝に銘じておけ」
■■『・・・諒解』
どうやら相手の意思とは関係無く発現したものらしい
剣帝は目の前の推定ヒトガタが理解出来なくなってきた
体内に竜を飼っているのか、はたまた魔物を植え付けているのか
どちらにせよ人の形をしているだけで、真に人ではないのだと確信した
剣帝「・・・っ」
心臓の動悸が少し早まった
獣人だろうが竜だろうが広義の意味では人である
トウマの国ではそう定義されている
なんせこの国では淘汰も廃絶も絶滅も起きていない、いわば進化しか起きていないのだ
とはいえ四足が二足になった訳では無く、元から二足だった故に人と定義された
この国の者にはその発想すら生まれないが、別の世界の視点でいえばとても歪な世界構造であった
退化も後進も無いのなら、この世界は一体何処から始まったのか
ある日唐突に生命が生まれ、世界が生まれる訳は無いのだから、それはやはり歪なのである
ミラ「思考の沼に沈んでいる所悪いのだけれど・・・暁紅、瀑布、青銅、略式希う!・・・そろそろ支援をお願い出来るかしら?私一人じゃあ、流石に業鎖ノ王相手に勝ち星取るなんて荷が重いわ」
ハッとした。間隙無く行われる攻撃から目の前の少女がずっと護ってくれていたのだ
いつから自分は彼女の言う様に思考の沼に沈んでいたのか
目の前の事を隅に置いやって、それで誰かを救えるのか
否、私はこの世界の人ではあるが、今は無辜の民を救える力持つ者だ
戦闘に集中しろ。理不尽な暴には同程度の武で応えるしかないのだ
救いは衝突の先にある。今はいなし、躱し、退けてからだ
考えるのは全てが終わってからでも出来る
剣帝「かたじけない、何者かは存ぜぬが、ここより最大限の支援を開始させて頂く!」
民に慕われる王としてはとても不甲斐無いが、こちらの攻撃が物理的には届いても、衝撃的には届かないのだから無理も無い
ここは割り切って支援行動に回った方が得策である
黒威「ふむ、我としてはまだまだ遊び足りんが。これ以上暴れた所で目当ての者は来そうにないし、どうだ、次で終いにせんか?」
ミラ「ちょっと気になる単語が聴こえた気がするけれど、確かにそれは嬉しい申し出ね。このままだと私も本気出さざるを得ないから少々困るのよね」
黒威「汝の本気か。かの噂に名高き異力(ちから)は見たいが、なに、別の機会に取っておこう。・・・黒威収斂―――六竜重点・飢餓皇」
黒威・創破の宣誓に六匹の竜が一つの塊に成り、その悍ましき頭蓋が満開の華の様に開ききる
それは巨大な砲身だ
恐らくフロータードパレスタなど一溜まりも無く消滅させる威力を誇るだろう
この暴威に対してミラはというと
ミラ「紫雲、宵闇、虹。私が願う―――極まり変(まじ)れ」
平然と、軽やかに、かつ心を込めて言い放った
超弩級の雷雲が辺りをすっぽりと覆った
周囲には三人以外には誰も居ない
当然である、住民はこの加虐なる災害に巻き込まれぬ様に既に全員避難しているからだ
であるからして、この様な超広範囲かつ無差別なる攻撃が行えるのだ
まあ、誰かが居たとしても彼女はこの機会を決して逃さず、諸共消し飛ばすという可能性も無きにしも非ずだが
剣帝「む・・・?ま、待て少女よ!これでは私も巻き込まr」
言い終わる前に魔導が発動した
剣帝は焦った様な表情を浮かべたまま真白き閃光に包まれた
残念、剣帝の冒険はここで終わってしまった様だ!
ミラ「大丈夫よ、誰彼関係無く殺す訳無いじゃない。これでも昔は貴族名乗ってたのよ?無辜の民を見捨てるなんて薄情な事しないわ」
黒威「(流石は同種、それっぽい言葉に聞こえるわ。かくいう我もさっきまで存在すら忘れていたものなあ・・・)」
上位存在は大抵力の及ばぬ者を埒外に放る事に定評があったりする
かくして世にも奇妙なバケモノ同士の舞踏劇は終わった
のちの世はこう評す
星々の煌めきなんて生易しい表現で形容してはならない
ソレは生命を塵芥の様に扱う地獄を煮詰めたスープだ
我々では干渉出来ず、我々には感知出来ず、また我々の理外の事柄である
悪戯に手を出すな、身を滅ぼしたくないのなら
第二十七雨
「一旦決着、また後日どっかでやろう」
完
