ソフィアが乗って来た次元トレインとは、数多の次元世界を結ぶ裏の鉄道機関である
裏という言葉通り、駅員に専用のパスカードを提示しなければ利用する事が出来ない
故に公にはされておらず、事実一般の人間と呼ばれる者達にはその存在すら知られていない
その様な理由がある訳で
ソフィー「(取り敢えず誤魔化せたけど、何かドッと疲れた~)」
漸く肩の荷が下りた
この世界では人外という呼称はあまり広まっておらず
それに加えて他の次元に移り住んだ者は過去の例から見ても、せいぜい三、四人
次元トレインはその運営からしても謎が多く、また乗る者が百年単位で存在しなくとも毎日ホームに乗り入れて来る
そんな不思議な列車である
ソフィー「(お婆ちゃんが言うには、それでも世界の理に即しているから何の問題も無いらしいけど・・・)」
まあ、現在の状況を鑑みるとそんな小難しい話は端にでも置いておけという事なのだが・・・
ソフィー「ねえフィーナ、この街って何時もこんな感じなの?」
こんな感じとは今の状況その物である
マンホールが空高く跳ね上げられ、何メートルもの水柱が其処彼処から上がっている
更に先程まで快晴だった空は曇天模様に変わっていき、今に雨でも降るんじゃないかという天気
ちなみにテッドとレリクスはソフィーの継ぎ接ぎだらけの説明に納得はしていなかった
ただ右も左も分からない女の子を無理に問い詰めるのも如何かと思ったのか、踵を帰すかの様に揃って路地裏にあるというバーへと去って行った
フィーナ「そんな訳無いでしょうが。誰が如何見たって異常事態じゃない」
その返しはご尤もである
トウマの国の水道事情は結構しっかりしている
央都政府の指示の下、下水は地下に設置された巨大なパイプに集約され処理施設にまとめられる
早い話がマンホールはパイプの点検作業に使われるだけで、下水道と呼ばれる物は存在しないのだ
更に件のパイプは水圧程度ではビクともしない材質で作られており、今回の様な事例は極めて稀
というより、ありえない事態なのである
そして天気の急激な変化と同じ位不可解な点があった
フィーナ「それにしたって意図も原因も不明過ぎるわ。水柱を見た感じだと下水という訳でも無さそうだし、まるで海から持って来た様な透明さだし」
そう、不可解な点というのは水の透明度
下水とはどんな物かと訊かれた時、不純物が混じっているとか、黒く濁っているだとか、そんな事をイメージすると思う
だが迸る水柱は透明その物と言ってもいい。つまり下水ではないという事になる
ソフィアはその光景に少しだけ既視感を覚えた。でもソレが何なのかが分からない
何が原因かは分かっている。しかし己が引き金ではない事も同時に理解している
ソフィー「快晴から曇天に変わった事と、海から持って来た様な水柱には何か関係がある筈」
街の喧騒を余所に己の中に埋没して推理する
ソフィアはどちらかというと頭の回転は良い方だ
普段は世間一般の女の子と変わりはしないが、とあるジャンルにおいては誰よりも秀でていると言っていい
ソフィー「天気の急激な変化で湿った空気が発生、そこに冷えた水柱が組み合わされば・・・・・・まさかこれが狙いか!?」
私が解に辿り着いたのと同時にテレティアの街がすっぽり霧に包まれた
そしてそれを合図に道の向こうから現れたのは正体不明の奇怪な女性
双眸は風にたなびく鮮血色の布に塞がれ、両腕は完全に義手であり、その両手首にはブレードがトンファーの様に備え付けられている
私はこんな人は知らない。でも何故か解る
目の前の女性は私と同じカテゴリに属している
「―――我はキリガラ、貴様の力・・・試させて貰う」
何の匂いも感じられない
金属の義手の匂いも、鮮血色の布の匂いも、人間特有の肉の匂いも
まるで"体その物が匂いをかき消している"かの様に・・・
第八雨
「霧空-kirigara-」
完