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始まって数十分、未だ勝負はつかない

ずっと響いていた歓声は鳴り止み、司会者はポテチを食べ続け、主催者は愛車を磨き始めた

もう色々ツッコみたいけど敢えてスルーした

仕掛けた技は三。最近使ってない技を使おうとしたら、色々条件があったので結局使えていないのが実際の所である

あと大体自分が持っている技は剣技ばっかりだったという事実を知ってしまったというのもある

 

蒼麻「(竜桜撃も駄目、閃刃掌散も駄目、骸蒼鉄堅脚も駄目。後当たりそうなのは烈閃斬空掌とか・・・ああ、駄目だ!鉄山靠でブッ飛ばした後に繋げるモンだから無理に決まってる!!)」

 

あれこれ考えては無理という結論に達している原因は真崎謙悟の防衛能力に起因している

それというのも全て防がれるからだ

何というか的確過ぎて逆に怖い。魔桜・霊武の後の先よりもスペック的に上なんだから本当に怖い

んで、最終的に蒼麻が達した結論はというと

 

蒼麻「(先人の行動を習えだ!)」

 

早い話が白帝が取った行動を真似る事である

ただし蒼麻は神族ではないので神力なんて使えないし、神速なんていうデタラメな能力も行使出来ない

なので別の何かを速さ的なものに創り変える事にした

 

蒼麻「(片方は去年の冬以来として、もう片方はぶっつけ本番ってトコか。良いね、分の判らない賭けは嫌いじゃねえ!)」

 

真崎「・・・ん?風の濃度が、違う?」

 

蒼麻の周りに風が収束していく

神の力は操れないが、神の風は操れる

そう・・・紫金の刃である

しかし所詮神風だろうと風は風、防がれれば無意味となる

だから蒼麻は風を放つのではなく、『纏う』事にした

 

蒼麻「―――装纏、紫金の刃!!」

 

風が己を包むのが解った

轟風もあるしそよ風もある

台風みたいなのもあるし木々を揺らす程度の風もある

それら全てを纏う

故にソレが通れば全て波の如く震える

 

真崎「風を纏うなんて聞いた事が無い。君は一体何者なんだ?」

 

その言葉に風に揺れる前髪の奥で前を見詰めながら答える

 

蒼麻「ただの人外さ。とある人間に憧れを抱いて、その人と一緒に旅をしたかった変わり者だがな」

 

風が動いた気がした

正確には動いた形跡等無かった

誰の目から見ても1mmも動いていなかった

だが風は動いた

誰よりも速く、何よりも速く、

 

真崎「・・・・・・あれ?」

 

瞬きをした次の瞬間には居なかった

さっきまで目の前で風を纏っていた相手が居ない

そして次の瞬きをするよりも早く、男は自分が膝をついているのを知った

 

蒼麻「震速・氷月」

 

そう呟いた相手の声は膝をついた自分の背中側から聞こえた

そこで漸く理解した

人間がどんな事をしようと風に速さで勝つ事なんて出来ない

どんなに超常の力を手に入れたって人間が自然に勝てるなんて夢幻でしかない

膝をついたままそれを理解して困った様に笑う

 

真崎「悔しいな、やっぱり時代は僕を必要としていないみたいだ。・・・僕の負けだよ蒼麻くん、強くなったね」

 

後ろを振り向くと自身の両目から零れ落ちる涙で静かに頬を濡らしている、とても寂しそうな少年が立っていた

 

蒼麻「俺は、ただ・・・アンタと一緒に居たかったのに・・・・・・何でそんな簡単に死んじまったんだよっ!」

 

俯いて涙を流す少年は落としてきた何かを責める様に言葉をぶつけてくる

 

蒼麻「アンタ言っただろ!いつか仕事が一段落したら・・・一緒に世界を見に行こうって・・・」

 

真崎「・・・うん、言ったよ」

 

蒼麻「大人だからって約束破るんじゃねえよ!・・・少しは破られた奴の事も考えろよっ・・・・・・」

 

尚も俯き涙を零して責め立てる少年の頭にポンと手を置いた

顔こそ見えないが、ビクリと体を震わせた少年に僕は言う

 

真崎「僕はね、人外とは違うんだ。人間だから・・・」

 

蒼麻「人間だから・・・?」

 

真崎「人間だから簡単に死んじゃったんだよ」

 

蒼麻「人外は・・・簡単に死ねないよ」

 

真崎「そう、だから僕は人間を辞めなかったんだ。何時か人間は死を迎えるものだから。死んだ後もう一度人生を楽しむ為にね」

 

蒼麻「人生を楽しむ・・・」

 

真崎「君は楽しくないのかい?」

 

ゴシゴシと目を擦って顔を上げる

其処には涙の跡を顔に貼り付けた少年の顔があった

 

蒼麻「楽しくない訳無い!自慢の弟が居て、大好きな女の子が居て、大切な家族が居る。自慢出来る程毎日が楽しいよ!!」

 

真崎「だったら君は人間さ。簡単に死ねなくても歳を取らなくても立派な人間だ、人間の僕が保障するよ」

 

もう一度頭をポンと撫でられる

突然だったのでビックリして顔を下げてしまう

 

蒼麻「何言ってんだよ、アンタもう死んで・・・」

 

顔を上げた時にはもう居なかった

昔助けられた時もそうだった

何時の間にか居なくなっていた

まるで正義のヒーローみたいな感じに、用事が終わったら音も無く去って行く

だから憧れたんだ、その背中に

空を見上げながら自身の頭に手を置いた

涙はもう出て来ない

流れる雲を見詰めていたら、その雲の向こうであの人が笑っている様な気がした

 

蒼麻「ありがとう、真崎さん。そしてさようなら、俺のヒーロー」

 

蒼麻「・・・・・・って、何で皆して爆酔してんだよ!!」

 

試合開始からゆうに二時間は経っていたからであった

そして次は決勝。やっとこの物語も終わりを迎えるのである

 

続け 

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