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天神町
総人口7000人弱の田舎町
天神高校
天神町に存在する、一般人と能力者が共に通う高校
その高校に一人の少年が在籍していた
少年の名は小向井優也。彼もまた能力者だった

 

「う・・・まただ」

 

隣の席から声がした
今は丁度昼休みに入った所で、皆弁当を広げたり購買に買いに行ったりしている
そんな和気藹々としている時に哀愁感漂う声がしたのだ
嫌でも気になるという物だ

 

小向井「如何したんだ、麗本?」

 

携帯を片手に俯き気味な彼女の名前は麗本魅泣(うららもと みなき)
小向井達とは違って一般人の女の子だ
声を掛けてきた主が分かると、ゆっくりとだが事情を話し始めた

 

魅泣「一週間位前から変な電話が掛かって来てて・・・気持ち悪いから電話番号変えたんだけど・・・」

 

小向井「それでも掛かって来る、か」

 

魅泣「うん。やっぱり警察に届けた方が良いのかな」

 

んー、と首を傾げて数十秒考えると席を立ち上がった

 

小向井「よし、俺達に任せな。麗本の不安拭ってやるぜ!」

 

言うが早いか麗本の手を掴んで隣のクラスに連れて行く
突然の事に事態を飲み込めないまま引っ張られていく

 

小向井「メー子、タゴサク、お前らの力ぁ貸してくれ!」

 

メー子「なになに?今回はそっちの子がターゲット、ロックオーンって感じ?♪」

 

タゴサク「タゴサク言うな!・・・で、今回は如何いう内容だ?」

 

口の中でチュッパチャップス舐めてる元気一杯な方は繰波羊子(くるなみ ようこ)
皆からはメー子という名で呼び親しまれている
そして柔道部かと見紛う程のゴツイ体格と強面を持つ方は田五沼恭作(たいぬま きょうさく)
皆からはタゴサクという忌み名で呼ばれている不遇の男だ
そんな二人に麗本から訊いた事情を話す

 

メー子「うわ、何それ、気持ち悪っ!」

 

タゴサク「番号変えても意味が無いって事は、それだけ情報収集能力があるか・・・そういう能力持ちかもな」

 

小向井「電話番号検索ってか?デジタルな世界で結構アナログな能力だな」

 

タゴサク「そういうのが居ないって訳じゃないだろ。ほら、この前のニュース」

 

小向井「ああ、IDとパスワードを自分の能力で見付けたってヤツか」

 

何日か前にそんなニュースがあったのだ
銀行の口座から不正に現金が取り出されたという事件があった
犯人は監視カメラにバッチリ映っていたので、すぐに逮捕されたのだがそいつは能力者だったのだ
自分の能力を使って他人のIDとパスワードを検索したとか如何とか

 

メー子「んー、でも今回は電話だよね。ゆうやんは解決法をヒラメキしてるのん?」

 

小向井「つかお前等の得意分野だと思うんだけどな」

 

タゴサク「・・・成程、その話乗った」

 

メー子「恭ちゃんがやるんなら、わたしもやる~♪ピリピリ飛ばしちゃうよ~♪」

 

続け

 

 


如何にかする、とは言ったものの
電話が掛かって来なければ動くものも動けないとは世の真理
取り敢えず放課後まで待つ事にした

 

「ねえねえ、聞いたー?この前のいざこざ解決したのって・・・」

 

「うんうん、聞いた聞いた。噂のトライでしょ、どんな人達なんだろ」

 

「この学校に昔から居る何でも屋って聞いたぜ」

 

「はあ?幽霊なんじゃね?」

 

「メンバーの中に髪の長い女性が居るとか、実は正体は地球防衛軍だとか言われている奴等だろ?」

 

昼休みだからか、喧騒に混じって色々な噂話が聞こえて来る
ソレをあまり聴かない様にして小向井は菓子パンに噛り付く
結局は噂話、皆が皆本当の事だとは思っていない
虚実の境界が分からない話が噂という物だ

 

小向井「だからって地球防衛軍は無えだろうよ」

 

呟きを漏らす
髪の長い女性は多分思い当たる所があるので否定はしないが、後者はズバ抜けておかしい
後自分達は何時の間にそんな名で呼ばれているのか
トライ。三人で行動しているからそう呼ばれているのだろうが・・・

 

小向井「(捻りが無さ過ぎだろ・・・四人だったら何て呼ばれてたんだ)」

 

その後、電話が掛かって来る事は無く当初の予定通り放課後に期待する事にした
そして俺達四人を残してガランとなった放課後の教室にけたたましい電子音が鳴り響いた

 

麗本「も、もしもし・・・」

 

携帯の近くで耳をそばだてる
ボソボソと男の小さい声が聞こえる
ソレを聞いて麗本が途端嫌な表情をしたので、反射的に携帯を引っ手繰って怒鳴り散らしていた

 

小向井「おいコラ、何処の誰だか知らねえが、人の女にちょっかい出してんじゃねえぞ?!ああ!?」

 

言いながらチョイチョイと後ろに控える二人を呼ぶ
音を立てない様に俺の隣まで来ると、俺は静かに携帯の口を当てる部分を二人に向けた
タゴサクの逞しい腕に触れながらメー子は小さく何かを呟く
そのままの状態で数秒間待っていると、通話相手が突然奇声を上げた

 

小向井「・・・もしもし?」

 

先程とは打って変わって普通に話し掛けると、相手は慌てた様に「ごめんなさい、番号間違えました」と申し訳無さそうに言って電話を切った
俺は三人に向かってガッツポーズを取ると、麗本にこれで大丈夫だと告げた

 

続け

 

 


蒼姫「・・・それで、その後その子に変化は?」

 

神都市にある和服喫茶・桜燐で蒼姫を相手に先日あった事を話すメー子とタゴサク
噂の中で登場した髪の長い女性というのは蒼姫であり、たまに相談役として会う事があるのでそれが真相だろう
この日の蒼姫は営業中という事もあってか、女言葉を崩さずに話してくれている

 

メー子「いや~、何でかゆうやんと付き合う事になっちゃって~」

 

タゴサク「一週間と持ちませんでしたけどね」

 

如何やら二人の話によると小向井が勢いで言った一連の言葉にクラリと来たらしい
吊橋効果みたいなのも十分含まれているのだろう

 

蒼姫「じゃあ今回の依頼は終わりって事ね。具体的にはどんな事をしたの?」

 

あくまで聞き手として内容を訊いてくる蒼姫に、二人は何でも無い事の様に答える

 

タゴサク「特に大それた事はしてません、俺の持ってる能力『記憶操作』をコイツの能力『電波乗算』で相手に飛ばしたんです」

 

メー子「私の能力って脳ミソにダイレクトアタックしちゃうみたいで、命中率とか関係ナッシングなんですよ~♪」

 

二人の話を聞く分だと相手の記憶を書き換えて、件の少女に関する事を人為的に消したらしい
電子戦であるならばこの二人に敵う者はそうそう居ない事だろう

 

蒼姫「ふ~ん、成程了解。あ、メー子ちゃん、コーヒーのおかわり要る?」

 

メー子「恭ちゃんの貰うからいいです♪」

 

タゴサク「お前ブラックは飲めないんじゃないのか?」

 

メー子「恭ちゃんのだから多分飲めるよ!多分!」

 

タゴサク「多分の所を強調するな。蒼姫さん、おかわり下さい」

 

メー子「あ、砂糖は4つでお願いしま~す!♪」

 

三人が何でも屋を始めた時に聞いた事だが、二人はそれより前から付き合っていたらしい
小向井は性格上彼女が出来てもすぐ別れてしまうらしく、何かと不満があるとの事だ
彼に幸せが来るとしたら、相手が『引力』とか『超重力』とか持っている能力者でないと難しい
なにせ彼の能力は『斥力』なのだから・・・

 

終わる

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