―――日常にヒビが入る時。
俺は呆然としていた
今しがた聴かされた言葉はそれだけのものだった
遼亮「斎が人間じゃないって・・・」
幟月「そう。私の細胞から造り出された、いわばクローンみたいなモノだ」
電流が走った様な感覚だった
心臓の鼓動が早くなっていく
声を出そうにも口の中がカラカラに渇いて一言も出ない
感情がごちゃ混ぜになって襲って来る
幟月「そして斎は製造10年にも満たない人造生命、という事実も知っていて貰いたい」
幟月は遼亮の顔を見ずに言う
幟月「いや~、あの子に感情という物をあげてから全然機能していなかったんだけどね。それが君と出会ってからは、息を吹き返したみたいに元気に動き始めてね。正直君には感謝しているんだ」
初めて会った時と変わらない笑顔で言った
「それに、最も困難だと思われていたルート3Aへの移行を果たしました。これは我々にとって良いデータとなりました」
横からツインテールの女の子が話に割り込む
遼亮「データ?一体アンタ達は何者なんだ!?斎を使って何をしようって言うんだ!?」
幟月「あの子には三種類の結末を用意してある。一つ目は0からやり直す道。二つ目は君と肩を並べて歩く道。そして三つ目が・・・感情を排した殺人鬼、殺戮人形(キリング・ドール)となる道」
遼亮「・・・・・・この人でなしが・・・」
幟月「捕捉対象が人間ではないからね。その不名誉な肩書きは些か間違いだと思うんだが」
「・・・貴方は、あの人を普通の人間というカテゴリにはめ込みたいだけ」
遼亮「違う!斎は・・・」
「違いません。それが貴方の内に眠る欲望なのですから」
遼亮「俺は、俺は斎に・・・普通の人生を送らせてやりたいだけだ!」
「それをお節介というのです。己の欲望を他人に強制させる貴方の方が、私は人でなしだと思いますが」
遼亮「俺は・・・」
心の何処かでは解っていたのかもしれない
だが、見えない様に蓋をしていた
もしかしたら自分は、斎の事を好きになってはいけなかったのではないかと
今の遼亮はその言葉に押し潰されそうになっている
幟月「そんな君に朗報がある。今斎との関係を断ち切れば、あの子は三番目の結末に至らなくなる。愛情と憎悪は相対的な位置に在るからな」
幟月「如何かな?君が最良だと思う選択をすれば、あの子は儚い未来を確かな物に出来る。それは君にとっては悪くない事だろう?」
俺は斎が好きだ
出会った時から、話している時も、笑っている時も
色んな斎を見てきた
俺は、斎の事が好きだ
俺は・・・・・・
第二十八話
「分岐点」
完