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―――興味の無い話程、酷な物は無い。

 

遼亮はここまでの経緯を語る

その日の朝は普通であった

休日だからといって昼まで寝るなんて事もせず、朝食を食べて自分の部屋で読書でもしていた

事件が起こったのは時間が昼に差し掛かった頃だった

突然部屋が揺れたのだ。しかしただ単に少し揺れた程度

地震だろうと思って、念の為月子の様子を見に行った

部屋のドアを開けるとそこには・・・

 

斎「上半身真っ黒になった月子ちゃんが居た、と」

 

遼亮「ああ、何事かと思ったよ。確かに実験の失敗で何度か黒煙が出た事はあったけど、小爆発とはな・・・」

 

月子「あっちの友達に譲って貰った物の中に、三硝酸グリセリンが混じっていたみたいです」

 

斎「さんしょうさんグリセリン?」

 

日常生活では絶対聞かない様な単語が出て来た

 

月子「一般的にはニトログリセリンとも呼ばれています。でも正確には三硝酸グリセリンじゃなくてニトロ剤だったみたいですが」

 

遼亮と斎は二人してよく解っていないみたいだ

その証拠に何だか困った様な複雑な表情をしている

しかし尚も月子の話は続く

 

月子「ニトロ剤というのは緑黄色野菜等に含まれる硝酸塩にセルロースを加えて出来た化合物の事です。そのニトロ剤に酢を合わせるとニトロマイトと呼ばれる爆発物が出来るのです。ニトロマイトはニトログリセリンよりも威力は弱いのですが、過敏ではないという特徴があるので今回は私の不注意が原因だと思われます。そもそも私は・・・」

 

月子が普段からは想像も付かない程物凄く饒舌に喋る

その状態に慣れている二人からしてみれば物理の課外授業である

しかも二人とも物理にそんなに興味は無い

なのに月子は科薬者の知識を喋りまくる。聞いている身としてはたまったもんじゃない

しかし遼亮は兄であるし、斎は親友の様な間柄である

目の前でこんなに目を輝かせながら喋っている人の話を中断する勇気は無かった

ただもう少し勢いを緩めてくれればいいのにな、と心の中で思う

 

月子「であるからして科薬者達はこの技術を人類の未来に有効利用を・・・・・・すいません、少々話に花を咲かせてしまった様ですね」

 

我に返ってみると目の前でダウナー状態になっている二人の姿が目に入る

如何も彼女は自分の専門分野の話題になると、周りの事が全く見えなくなる様だ

 

月子「ところで斎にゃんは何の用件で我が家へ?」

 

ズレた眼鏡をくいっと元の場所に戻すと斎に問う

まだダウナーから微妙に戻っていないのか誰もツッコまないが、斎に対する呼び方は公式である

 

 

第三十九話

「科薬、再び」

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