―――交じる事の無い、けれども振り返る事の出来たあの日。
道の真ん中で狐につままれた様な顔をした少女が一人
そしてポツリと一言
夜宵「・・・夢でも見てたのかな?」
時刻は逢魔ヶ刻を過ぎた頃だった
千草「あ、無事に見付かりましたね」
玖雨「全く、迷子になるなんてわたしよりも子供なの」
夜宵「・・・・・・」
千草「如何したんですか?」
夜宵「あ、うん。帰ったら話す」
二人「?」
立川家
表向きは幟月と斎しか暮らしていない事になっているが、実際は他の妹達も一緒に暮らしている
妹達が行動する時間帯は近所の生活リズムとかなりのズレがあるので、そうそう人に見付かる事も無いのである
夜宵は部屋に入ると真っ先に幟月に今日あった事を話した
話を聞き終わると幟月は興味ありげに呟いた
幟月「それは多分並行世界と呼ばれる物だろう」
夜宵「並行世界?」
幟月「言い方を変えるならば、パラレルワールドが一番適しているかな」
千草「つまりそのパラレルワールドに迷い込んだ、と?」
幟月「夜宵の言う天神町という場所は、昔は実在したんだが現在はダムの底に沈んでいてね。地図上からは姿を消しているのさ」
丁度この辺りだったかなと日本地図を取り出し指差しながら言う
そこには天神町という名前は無く、ただ藤鳴ダムとだけ書いてあった
幟月「昔の新聞に載ってたんだが、何時の頃からか神隠しが頻発するという事で最後は廃村同然になっていたみたいだよ」
夜宵「じ、神社位は残ってるんでしょ?!だって私遊びに行ったのよ!?」
幟月「それは夜宵が行った世界の話だろう?こちらではダムの計画が始まる前に神主と巫女が行方不明になってね。後継者も居ないという事でそのまま潰されたと聞いてるよ」
夜宵「そんな・・・」
幟月「神主の名までは分からないが、確か巫女の方は如月弥生だったかな?」
その名前を聞いた瞬間、夜宵はショックに身を包まれていた
しかし此処とは違う世界の出来事
自分が出逢った人達とは違う
でも何処か辛かった。悲しかった
幟月「逢魔ヶ刻は在り得ないものを引き寄せる時間だ。私は引き当てた事が無いから断定は出来ないが、お前は普通では決して体験出来ない様な事に遭遇したんだ」
だからそれを誇れと、幟月は努めて優しく言った
夜宵もそれに応えるべく前を向いて頷いた
それでも目尻には少しだけ、涙が滲んでいた
第四十一話
「壁の向こうの世界」
完