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―――まだ早い、まだ終わりを作るには早過ぎる。

 

普通の一軒家のとある一室

所狭しと機械類が置かれており、何処かの研究室かと見紛う程だった

そして部屋の真ん中には天井まで伸びる培養槽が鎮座している

端に置かれているコンピューターは終始音を立て、培養槽の中の物体からは時たま水泡が出ていた

培養槽の中の液体は透き通った緑色をしており、まるでホルマリン漬けの標本だった

 

六耀「博士、やはりデータが足りません。基礎部分を形作る情報は確定していますが、成長過程で必要になるであろう卵巣変化情報の収集が困難なのが原因だと思われます」

 

幟月「まあ、そうなる事は予測していたよ。観測対象がそもそも性別からして違うんだ。私や千草の方が適任なんだろうが、如何せん私もこの子も受精というものを体験した事が無い」

 

千草「申し訳ありません博士、私が至らないばかりに・・・」

 

幟月「お前が謝る事じゃないさ。こればかりは私の人間関係が災いしたと言えるしね」

 

研究とあの人しか見えていなかったからな、と苦笑しながら付け足す

 

幟月「それに・・・研究の為だからと嫁入り前の娘を、何処の骨とも知れない男共の歯牙には掛けたくないしね」

 

その母親然とした言葉に六耀と千草は口を揃えて言う

 

二人「斎はいいんですか?」

 

幟月はその切り返しに一瞬止まり・・・

 

幟月「城戸少年はまだ荒削りで青臭い所もあるが信頼出来る。彼なら大丈夫だろうし、それに・・・」

 

二人「それに?」

 

幟月「斎が幸せなのだから、親だからとはいえ第三者が口を出す事でもなかろう?」

 

成程と二人が納得したのを見てから付け加える

 

幟月「まあ、それはそれとして・・・嫁入り前だというのに体を重ねる時間が多い事については少し説教が必要だろうな」

 

メガネをくいっと指で押し上げながら言う

窓から差し込む月光を反射してメガネが怪しく輝く

その横顔を見ながら、千草は少しだけ遼亮と斎が不憫に思えた

 

 

第四十三話

「終わりに向けて」

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