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―――甘味系なのに香辛料とはこれ如何に。

 

如何にかこうにか緊張の波は何処かに去ってくれた

というか斎が一緒に居るってのに俺がパニックになってたら駄目だろう

 

斎「あ、先輩、お帰りなさい」

 

水斗「お早いお帰りで」

 

遼亮「はい、どうもすいませんでした」

 

完全に自分の所為なので素直に謝った

それに水斗さんだって仕事を抜け出してここに居るのだから申し訳無い気持ちになる

 

水斗「それでだ。どうだ、美味いか?」

 

美味いかという質問なのだからケーキの事を言っているのだろう

これに対する答えはもちろん美味いで返す

正直この街で一番美味いと思える

 

水斗「それは言い過ぎだ、俺もまだまだ修行中だからな。まあ、でも褒められて悪い気にはならないかな」

 

水斗さんは俺の言葉が嬉しかったのか笑顔で言う

その表情を見て女性客の8割が逝きかけた

・・・いや、訂正しよう。その内の5割はイきかけたと言った方が正しい

それだけ殺人級のスイートスマイルなのだ

何でこの人、彼女とか居ないんだろうか?絶対損してる

 

水斗「あのな遼亮、俺は他の奴等と違ってケーキが恋人みたいなモンなんだ」

 

遼亮「え、それじゃあケーキと結婚するんですか?」

 

俺は驚いてそんな事を訊ねた

 

水斗「同業者の中にはそういう事を言う人も居るが、流石にそこまでご執心じゃないさ。ただ同じケーキ職人だったら話は合うかもしれないし、もしかしたらそのままゴールインするかもしれない。ま、何が起こるか分からないのが人生ってモンだ」

 

斎「と、いう事は・・・女性のケーキ職人がこの街には少ないという事ですか?」

 

俺の隣で斎は思った事をズバリ訊ねる

確かにそう考えるのが当然だ

俺の勝手なイメージかもしれないが、ケーキ職人はどちらかというと女性の方が人口が多い気がする

なのにお相手が居ないという事は、この街には担い手が少ないのかもしれない

 

水斗「まあな、ケーキなんて祝い事か何かの時じゃないとあまり作らないしな。俺としてはもっと人口が増えて欲しいとは思ってるかな」

 

中々理想と現実が合致しないけどな、と付け加える

そして話が一段落したので、そのまま店の奥に戻って行った

その日からだろうか

我が街の製菓学校に女性の入学志望が殺到したのは・・・

何というか、乗せられやすいというか一途というか

その行動力だけは見習いたいと思った

 

 

第四十六話

「良い意味でこの街のスパイス」

 

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