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―――その人の全てを愛せる人は、本当はそんなに居ないんじゃないかな。

 

翌日から乾恋花と辰巳朋康が二人で居る所が度々目撃された

他のクラスの連中からしてみれば、目下変態で通っている辰巳に彼女が出来たと話題騒然

しかし彼女はまだ返事待ちの段階であり、一方の辰巳は多少げんなりしていた

転校生への質問攻め。アレとよく似ている状況だといえば分かるだろうか?

ただし彼女からの質問には好きな食べ物は何かとか、勉強で解らない所があるんだけどとか

正直お前は何を言っているんだと問い返したい物まで含まれていた

告白の返事というものは待たせれば待たせる程に期待が膨らむ物だ

無論その場合の結論はOKという事になるのだが・・・

放課後になってクラスメートもまばらになった教室で、辰巳は恋花の前で返事をした

 

辰巳「・・・ごめん、君とは付き合えない」

 

その答えは彼からしてみれば当然の事で

同じクラスの人間からしてみれば衝撃的な事で

ずっと不安な気持ちで居た少女からしてみれば一安心だった

一人だけ全く違う反応をしたのは言わずもがな恋花だけ

 

恋花「・・・・・・理由を聞かせて貰ってもいい?」

 

辰巳はその言葉に一瞬言葉に詰まった

果たして奈美菜と付き合っている事についてこの場で言っていいのか?

結果、自分をよく知る人間の前で暴露するのは、彼女にも迷惑が掛かるだろうという考えに至った

なので無難にぼかして答えた

 

辰巳「好きな人が居るんだ」

 

無難だ。付き合っているとも言ってないし、相手の名前も出していない

言葉のニュアンス的に「付き合っている人が居る」と取れなくもないが

だが次に恋花が言った言葉は流石に予想の範囲外だった

 

恋花「その人の事、そんなに好きなの?」

 

辰巳「ああ、俺の全てを愛してくれる人だから・・・俺も彼女の全てを愛してる」

 

結果的には予想外の言葉だったのに、何故かスラスラと言葉が口をついて出て来た

それは自分の本心であり、何よりも真っ直ぐな気持ちだった

小さく「そっか」と呟いた恋花はカバンを引っ掴むと静かに教室を出て行った

その後の帰り道で辰巳と奈美菜が腕を絡めながら歩いている所を月子が目撃したのだが、それはまた別のお話

 

 

第五十一話

「相思相愛」

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