―――この物語には、兄弟姉妹が多い気がします。
廊下を歩いていると声を掛けられた
それは城戸さんのクラスの教師である炎馬椿という女性だった
その方は上下の服が何時もジャージで、色気という物を出していないにも拘らず男女共に人気があった
そんな方に声を掛けられた私はこの学校の三年生、つまり上級生である
城戸さんは私の後輩にあたるので、何故私が呼び止められたのかが分からない
炎馬「天木、丁度良い所に来てくれたな」
琴音「丁度良い・・・何かご用件でも?」
炎馬「ああ、いやな。手っ取り早くメイドに訊こうと思ったんだが、今日は姿が見えないからな」
メイド、この場合は言わずもがな瑞華の事である
天木家には多数のメイドが雇用されているが、琴音専属のメイドはただ一人瑞華だけである
その彼女の姿が見えないと何か不都合なのだろうか?
琴音「彼女は家の都合で二、三日程仕事を休むそうです」
正確には幼い頃に世話になっていた親戚が亡くなったそうで、通夜と葬式の手伝いに行ったらしい
彼女の詳しい経歴は私には分からないが、物心付いた時には既に傍らに居たので知ろうとも思わなかった
炎馬「そうか、ならお前に訊けばいいな」
そこではたと思う
この方は一体何の事を訊ねようとしているのだろうかと
炎馬「私の所に来た手紙には詳しい日時が書かれていなくてな。お前になら何時帰るかとか言ってると思ってな」
そこの所如何なんだ?と炎馬先生は訊ねてくる
その問いに私はただ思った事を投げ掛けた
天木「あの、話が見えないのですが?何の事を仰っているのですか?」
炎馬「おいおい、お前の姉が帰って来るのは何時なんだと私は訊いているんだぞ。知らないのなら仕方無いが・・・」
天木「お姉様?」
ここに来て漸く私の疑問が解消された
炎馬先生は顎に手を添えて「水斗にも訊いてみるか・・・?」等と呟いているが、今の私には何の興味も無かった
ただ私の興味を引いた言葉は・・・
天木「私に、お姉様なんていらっしゃったのですか?」
詰まる所私は、何も知らなかっただけだったのだ
何も、知らなかっただけなのだ
第五十八話
「私の知らない私の家族」
完