―――合体したりする訳ではありません。
炎馬椿は今年の桜花祭で出す飲み物のリストを眺めていた
生徒会が行うのは場所のセッティングと当日の進行順序の会議
一方教師が行うのは料理や飲み物、機材のリストをチェックする作業
あくまで生徒側を優先する行事なので教師がそこまで出張る事は無い
椿「普通のと炭酸のジュースを数種類。職員用の酒は・・・おいおい、誰だ、スピリタスなんて物を要求したのは・・・」
毎年桜花祭の時に発注する店にはスピリタス位置いているとは思うが、要求した奴は如何やら喉を焼きたいらしい
スピリタスといえばアルコール度数96を記録した、世界最高純度の名に相応しい物だ
如何せん私は飲んだ事が無いが、その昔友人が飲んだ直後にあまりの痛さに悶絶していた
あんな物飲む奴は変な方向にイカれた奴か真性のバカだろうよ
まあ、それはいいとして・・・
椿「今年の料理担当は・・・・・・ほお、国際料理研究部か。今年の部長は過去最高らしいから期待が持てるな」
リストのチェックを一旦やめて休憩に入る事にする
机の上に置いてある水筒を傾ける
コポコポと音を立てて注がれた紅茶を一口飲むと一息吐く
椿「しかし、なんだなあ・・・」
職員室を何の気なしに見渡す
昼休憩に入ったというのにあまりにも教師が少ない
普段なら隣の机の教師と雑談しながら弁当を食べたり、五時限目で使う教材の準備をする者が居る筈である
だが今は片手で数えられるだけしか居ない
桜花祭が近くなると毎年こんな感じになり、リストのチェック等の地味な作業が残っている教師に回って来るのだ
さて、その残っている教師の一人が・・・
「炎馬先生、お紅茶ですかー?だったら、これ入れてあげますねー♪」
ポトリと妙に赤い物体が紅茶の注がれたコップに混入された
椿「って、おい、氷鹿!お前今、私の紅茶に何入れた!?」
氷鹿と呼ばれた女性は左手に持っているビンの容器を前に突き出して見せた
確かに紅茶にジャムを入れるルジアンティーとかいう飲み方があるのは知っている
だが本場ではジャムを入れて飲むのは下品だと聞いた
早い話が件の飲み方はこの国で派生分岐した物なのである
氷鹿「スイカジャムです!」
椿「スイカ!?」
予想の斜め上を3kmも行きやがった
普通スイカジャムなんて入れるか?!
というかそもそも何故スイカでジャムを作ろうと思った!?
氷鹿「季節外れのスイカを買ったので、ついでに作ってみたんですー♪」
ああ、分かったぞ
コイツ絶対食べ切れなかったんだ
だからジャムにしようとか訳の分からん事を思い付いたんだ
そうに決まってる
というか・・・
椿「氷鹿、お前先に飲んでいいぞ」
氷鹿「わ、良いんですかー?ご馳走になりますー♪」
氷鹿は私からコップを両手で受け取ると口をつけた
コクリと一口飲むと、それに合わせて喉が鳴った
直後コップから口を離して微妙な表情をしながら一言
氷鹿「何とも言えない味がします」
椿「全部飲めよ」
氷鹿「炎馬先生の鬼ー、恨んでやるー」
椿「お前が言うな」
涙目で訴えてくる氷鹿を視界の隅に、私はリストのチェックに再度取り掛かった
第六十二話
「凸凹コンビ」
完