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―――珍しい事に今回は長い。

 

目の前にある教室のドアを見詰める

生徒会室。中には俺を呼んだ人が居るのだろう

外は黄昏時へと進んでいる

俺は一度だけ深呼吸をすると、意を決してドアを開いた

 

琴音「お待ちしていましたわ、城戸さん」

 

何時もと変わらない対応だった

いや、以前とは確実に違う点がある

俺の顔を見ても頬を緩ませなくなったのだ

微笑む事はあっても子供みたいにはしゃぐ様な事は無くなった

 

琴音「瑞華、城戸さんに飲み物を」

 

瑞華「はい、お嬢様」

 

遼亮「あ・・・どうも」

 

天木先輩の対応が変わっても、瑞華さんの対応は変わらない

この人は元々メイドという役職だから対応が変わらないだけなのかもしれないが・・・

瑞華さんの淹れてくれた紅茶は適度な温度と適度な甘みで美味しかった

俺が紅茶を飲んで一息吐いたのを見計らってか、先輩は静かに訊ねて来た

 

琴音「城戸さん、貴方を此処へ呼んだのは如何しても訊ねたい事があるからです」

 

心臓が跳ね上がった気がした

さっき自分で答えに辿り着いたというのに、未だにそれが只の思い過ごしだと言いたいのか

如何しようも無く意地の悪い奴だな、と客観視点で見詰める自分が居た

 

遼亮「それは・・・如何いった内容の・・・」

 

琴音「単刀直入に言います。立川斎さんとは一体何者なのですか?」

 

思い掛けない単語が飛び出した

予想していたのは斎の性別について

祭の最中に行為を見られたと仮定して導き出した結論なのに

何故、過程ではなく根本に辿り着いたのか

それが疑問だった

 

遼亮「何者って、斎は俺の彼女だよ」

 

普通の声音で言えただろうか?

声が震えていなかっただろうか?

ノドが何だか異様に乾いている様な感覚だ

目は泳いでいなかっただろうか?

 

琴音「申し訳ありませんが、こちらで少し調べさせて頂きました。第一に、市役所に出生記録が届けられておりませんでした」

 

琴音「第二に、これは祭の最中に見た事なので不可抗力なのですが・・・」

 

その次に続くであろう言葉を俺は待っていた

こんな話をしているんだ。遅かれ早かれ何時かはそういう話に辿り着く

 

琴音「斎さんは男の方なのですか?」

 

遼亮「ああ、そうだ」

 

自分でも疑問に思ってしまう程言葉は自然に出た

声が震える事も、ノドが異様に渇く事も、目が泳ぐ事も無かった

むしろその事実を誇るかの様に真っ直ぐ先輩の目を見詰めていた

何だ、あんなに深く考えていた自分が馬鹿らしいじゃないか

俺の心は頭よりも段違いに賢いと見える

 

琴音「それが、その事実が、一般常識の上では異常だという事を解っていますよね?」

 

これには流石に言葉に窮した

あの先輩に一般常識を問われるとは思っていなかったからだ

でも昔の俺とは違う

あの時幟月さんに似た様な事を言われて声を荒げた自分から少しは成長出来ていると思う

だから言った。時間が掛かってもいい、自分の本心を伝えた

 

遼亮「俺は・・・俺は、それでも斎の事が好きなんです。付き合い始めたキッカケは自己満足の様な物だけど、一緒に過ごす内にアイツの全部が愛しく思えてきた。アイツの為なら俺は何だって出来るんです」

 

琴音「それは・・・全てを敵に回しても、という意味ですか?」

 

遼亮「勿論。それ位の覚悟が無いと、いざって時に守ってやれないですし」

 

それを聴いて琴音は遼亮の目を見詰め返した

それは堅い決意を秘めた瞳だった

だからか、無性に羨ましかった

ここまでの事を言って貰える立川斎という存在がだからこそ、私の恋は成就しそうにないなと諦めがついた

 

琴音「解りました、ではこの件はこれで終わりとしましょう。嘘に聞こえるでしょうが誰にも言いませんよ。・・・あ、でも最後にこれだけは」

 

意外と簡単に引いてくれるんだな、と遼亮が思ったか如何かは定かではない

定かではないが、その提案は正直助かると思った事は定かであった

生徒会長というポジションにいらっしゃる天木先輩が一人に話すと、それはもう全校生徒に知れ渡るという事だからだ

かなり誇張表現ではあるが、事実先輩の非公式ファンクラブとかに売りつければ明日を待つより早いかもしれない

 

遼亮「な、これ以外にも何かあるんですか?」

 

琴音「ええ、それなんですが・・・・・・あの子って、結局何者なのですか?」

 

忘れていたかの様にサラリと重要な質問をしてきた

 

 

第七十話

「天木先輩の本気(マジメ.ver)」

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