―――部屋の中より、部屋の外にも注意を。
立川斎とは何者なのか?
先輩にとっては何でも無い事の様に訊いたのだろう
だが遼亮からしてみればソレはとても重要な事
出生記録とか性別とかじゃない
斎の正体はそれ等が如何でもいいと思える程の代物だ
でも・・・先輩になら言っても大丈夫かもしれないという、説明出来ない信頼性があった
普段の先輩をよく見ていた俺がこんな事を考えるのは正直笑えるが
遼亮「斎は、アイツは・・・幟月さんのクローンなんです」
何時だったか幟月さん本人から聞かされた事を言う
立川斎という個体に親は存在せず、その体は立川幟月という人間のクローン体であると
それを聞いて先輩は目を見開いて驚いた
琴音「く、クローンって・・・あの、クローンですか?」
遼亮「驚くのも無理は無いと思います。ヒトの皮膚や臓器の複製は許されているとしても、生物の複製は現在の法律では禁じられてますから」
云わば神の御技と呼ばれるもの
人間が人間を創造するのは出産を経て行う物だ
その過程すらもすっ飛ばして結論に行き着く等とおこがましいにも程がある
それは神への叛逆となるだろう
琴音「クローン人間に人権は・・・まあ、適用されるでしょうけど、彼女がそれを快く思っていないという線は?」
遼亮「この話については触れない様にしてるので、何とも」
琴音「その人の全てを愛したいというのなら、その人の全てを受け止めなければいけないと私は思います」
だというならやはり訊かなければならないだろう
斎は何と答えるだろうか?
クローンだからといっても一人の人間だ
人権だってあるしオリジナルとは違った考え方もする
そこに劣等感は持っていない、そう俺は勝手に思っているんだが、もしもそうじゃなかったら・・・
俺は斎の想い全てを受け止め、共に背負い、最良の選択をしなければならない
それは・・・それは別に苦しい事じゃない。辛い事でも断じて無い
人を愛するっていうのはそんな困難に真正面から立ち向かうって事だ
それを苦しいなんて、辛いなんて言ってたら、愛してやらない方がまだマシだ
琴音「ふふ、別に今すぐ行動に移せと言っている訳ではないですよ」
天木先輩は俺が考え事をしているのを見て苦笑気味に言う
ぐ・・・ま、まあ、確かにそうではあるんだが
琴音「頑張って下さいね、城戸さん」
遼亮「はい。・・・あ、取り敢えず口調戻してくれません?」
琴音「あら、城戸さんは何時もの私の方が良いですか?」
遼亮「まあ、出来ればそっちの方が話はし易いですし・・・」
琴音「もう、旦那様ったら照れ隠しが苦手なんですね(////」
遼亮「いや照れ隠しじゃないし、切り替わり早いし、旦那様じゃないし」
瑞華「一種の反動という奴です」
遼亮「真面目化の代償高いな!?」
因みにツッコんだ直後に即行で逃げたが、当然の様に瑞華さんに捕縛された
第七十一話
「壁に耳あり、廊下に・・・」
完