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―――自ら破滅へと足を向けてしまった。

 

斎「・・・ん」

 

目を開ける

机に預けた自分の体を起こすと、教室には私しか居なかった

如何やら何時の間にか眠ってしまっていた様だ

桜花祭から数日が経ち、元の日常に戻ってもたまにこうして気が緩んでしまう

平和ボケというか何というか・・・

そんな自分の状態に苦笑する

 

斎「ふぅ、それにしたって一声掛ける位してくれればいいのに」

 

ここには居ない友達に愚痴る

ただ彼女等が部活に入っている事は知っているので、そこまでキツくは言えない事も分かっていた

運動部だと言っていたし、練習に遅刻する訳にもいかないのだろう

 

斎「・・・というか、私ってばちょっと寝過ぎた、かも?」

 

窓の外に目をやれば太陽は地平線に没しようとしていた

夕暮れ、黄昏、宵の口

その言い方は様々あれど、その中でも一際異彩を放つのが逢魔ヶ刻

前に妹がその時刻に全く違う世界に紛れ込んだと話していた

お姉ちゃん曰く「それが神隠しと古来から言われているものの正体だ」と言っていた

私は夕方が何となく好きになれない

朝でも昼でも夜でもいいけど、夕方は如何やっても好きになれそうにない

それは多分夕闇に続く時間だから

あのどっちつかずの不安定な暗さが、母親を探す迷子の様な寂しい気持ちにさせる

そこまで考えて私は溜め息を吐く

 

斎「変な事考えてないで早く帰ろう」

 

言ってカバンを持って扉を開けると、今まさに三階へと上って行く先輩の姿が見えた

その顔は何処となく暗く見え、私の事なんて見えていないのか立ち止まる事無く階段の向こうへ消えて行った

何故か、そう何故か。とても嫌な予感がした

今まで予感なんて感じた事は無かったのに

そうして私は引き返す事の出来ない悪夢への一歩を踏み出してしまっていた

この時やめるべきだった

先輩が生徒会室に入って行くのを見て、そのまま帰ればよかった

後悔しても過ぎ去った時間は帰って来ない

そんな事は分かっているのに

 

 

第七十二話

「ルートC」

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