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―――砕けた時計は直せない。

 

話し声が聞こえる

先輩を含めて三人の声

一人は天木先輩、もう一人はそのメイドさん

確か名前は瑞華さんだったかな

学校の中にメイドさんが居る事に最初はビックリしたけど、今では感覚が麻痺したのか受け入れている

教室の戸締りなんかをしていた所為か、生徒会室の前に着く頃には先輩達はひとしきり話を終えていた様だった

 

斎「(うぅ・・・何てタイミングの悪い)」

 

それもこれも窓の一つが閉め難かったからだ

レールでも錆び付いてたんだろうか?

肩を落としていると、不意に天木先輩が声を出した

 

琴音「あの子って、結局何者なのですか?」

 

天木先輩は疑問を押し出した様な声で尋ねている

それに先輩は答えないでいる

当たり前だ、私は先輩の彼女で、先輩とは恋人同士で、だから・・・

だから、私に正体なんて無いのだと。立川斎は何の変哲も無い少女だと

 

遼亮「斎は・・・アイツは、クローンなんです」

 

言ってくれると思っていた

私の大好きな先輩

心から愛している人

この身を捧げた大切な、

 

琴音「クローン人間に人権は・・・」

 

遼亮「この話については触れない様に・・・」

 

先輩は一体何処で知ったんだろうか

私に話さない様にと言っているし、それこそ何日、何週間も前から

そんな事も知らずに私はのうのうと暮らしていたんだろうか

何も知らずに笑顔を先輩に向けていたのだろうか

 

琴音「その人の全てを愛したいというのなら、その人の全てを受け止めなければいけないと私は思います」

 

全てを愛したいというのなら、その人の全てを受け止めなければいけない

・・・ああ、そうか。そんな簡単な事だったんだ

だったら私は、私のやり方で、先輩を愛してあげればいいんだ

どんな手段よりも手っ取り早くて、誰にも邪魔されない方法を、私は知っているのだから

 

生徒会室のドアが開く

中からドッと疲れた表情の遼亮が出て来る

 

琴音「城戸さん、分かっているとは思いますが、突然そういう話を振ったら逆効果ですからね?」

 

遼亮「それは十分理解してますよ」

 

その日から、俺は学校で斎を見掛ける事が無くなった

今思えば、この時の自分はあまりにも軽率だった

そして、釈明も出来ない程に愚鈍だったんだ

 

 

第七十三話

「人の心とは、何と弱き事か」

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