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―――君はあの子にとって救いであり、また破滅でもある。

 

一年生の教室に向かう

今日も斎は来ていないと返される

いよいよもってこれは只事ではないと確信する

二、三日程度では風邪かインフルエンザだろうと思われるかもしれない

それが一週間、二週間と続けば、それはもう異常の範囲内だ

 

辰巳「如何だった?」

 

遼亮「・・・駄目だ、昨日と同じだよ」

 

教室の扉を開けると辰巳と奈美菜が声を掛けてきた

二人は遼亮と同じ位斎の事を心配している

当然だ、斎は遼亮の彼女であり自分達にとっても大切な友達なのだから

 

奈美菜「でも、分かんないよね」

 

奈美菜がふと呟く

 

遼亮「何がだ?」

 

奈美菜「だってそんな感じは全く見せてなかったじゃない?別におかしな事も無かった訳だし」

 

辰巳「人間ってのは、失踪する前後に不可解な言動を取るってのがある。まあ、逆に普段と変わらなかった人間が忽然と姿を消すっていう例もあるけどな」

 

遼亮「前者は分かるけど、後者って確か・・・」

 

辰巳「十中八九、事件性がある物として処理されるやつだ」

 

奈美菜「で、でも・・・お姉さんは何時も通りだったんでしょ?」

 

奈美菜の言うお姉さんとは幟月さんを指す

家に行っても斎は居らず、対応してくれた千草さんにも冷ややかな目で見られた

そして帰り際に幟月さんに告げられたのが、

 

遼亮「斎は今酷い病気に罹ってるから、誰も近づけられないんだって言ってた」

 

辰巳「・・・にしたって、二週間も休む病気って何なんだよ」

 

奈美菜「何か重い病とかなのかな?」

 

辰巳「人を近づけられないって事は感染型のウイルスか?」

 

辰巳と奈美菜は互いに深く心配している様で、その言葉の一つからしても斎を労わる物だった

だが、と遼亮は心中で思う

先程自分の口から出た言葉は二人をこれ以上心配させない為に言った物

真実は違う。酷い病気というのも嘘だ

 

遼亮「(あの時、幟月さんは確かにこう言った)」

 

立川家の門柱を抜けてまさに帰ろうと背中を見せたあの時

廊下の奥から音も無く現れた幟月さんは、遼亮の背中に投げ掛けた

 

幟月「斎は殺戮人形(キリング・ドール)となった。直接ではないにしろ、あれは君の落ち度だ」

 

その単語を聞いてあの大学での話を思い出した

殺戮人形(キリング・ドール)

感情を排した理性だけで行動する血袋

手足はただの神経の延長線

頭蓋に理性だけを詰め込めた動く人形

それに斎がなった?

 

遼亮「あんた等、一体斎に何を・・・!?」

 

扉が閉まるその直前、それだけが聞こえた

 

「あの子をそうしたのは君だ、城戸遼亮」

 

 

第七十五話

「キリング・ドール」

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