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―――人を愛するとは他を憎む事である。

 

カーテンの締め切られた部屋で私は目覚める

ベッドから身を起こすと自分が裸なのに気付く

何故なのか等という疑問は浮上こそすれまた沈んでいった

己の肢体を眺めてみる

細い腕と白に近い肌、そして下肢にある女ではない部分

どんなに髪型を伸ばしても、どんなに可愛い服で着飾っても

私は私以外には・・・ましてや女の子には到底成りえない

 

斎「・・・・・・」

 

心と体の差異は元からある物

立川幟月に生み出された時から、私の体は女ではなく男であり、私の心は男ではなく女だった

ベッドから立ち上がり机の前に立つ

様々な小物や教科書が置かれている中で一際目を引く物

 

斎「先輩・・・」

 

先輩の写真が収められたフォトスタンド

正確には辰巳先輩や山辺先輩といったクラスメートの人達と撮った写真

それを手に取ると何時から持っていたのか、私は右手のハサミで切り刻んでいた

先輩だけが残る様に

先輩の姿だけが残る様に

そうしてバラバラに切り刻んで小さくなった写真を両手で優しく掴むと

 

斎「これからもずっと一緒ですよ、先輩」

 

躊躇無く口に入れ、一度として噛む事無く嚥下した

 

どれだけそこでそうしていたのか

余韻を楽しむ様に身動ぎせずに立っていた私は、ふと思い立ってクローゼットに向かう

制服は・・・別にもういいか。学校なんて行った所で最早何の意味も無い

今の私に勉学で何かを培おうという気は無いし、友達と会って友情を育む気も無い

そもそも友情なんて、愛情なんて、そんな目に見えない物に縋るなんて如何かしてる

私はわかったんだ、理解したんだ

結局人を愛する事に壁なんて存在しない

精神論なんて邪魔でしかない

世間が、憲法が、国が、世界が、私の恋路を邪魔しようというのなら

 

斎「そんなの、要らない」

 

誰かが先輩と私の間に入って来ようとしたら、ソイツは敵

誰かが先輩の隣に立とうとしたら、ソイツも敵

誰かが先輩と話しているのを見てしまったら、ソイツは敵

誰かが先輩の悪口を言っていたら、ソイツは敵

誰かが先輩をカッコ良いと言ったら、ソイツも敵

誰かが、誰でも、誰だとしても、ソイツ等は私にとって敵

 

私服に着替える

赤いシャツの上に前が開くパーカーを羽織り、黒のスカートを穿く

出来ればパーカーも赤が良かった。飛び散っても目立たないから

部屋を出て階段を下りると、お姉ちゃんに出会った

お姉ちゃんは「城戸少年が心配していたぞ」とだけ言うと台所に消えて行った

私はそれを脳内で巡らせ、口の端を少しだけ吊り上げると外に繰り出した

左のポケットに錆の付いた壊れたハサミ、右のポケットにナイフを忍ばせて

 

 

第七十六話

「奔る狂気」

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