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―――元はといえば、それがキッカケ。

 

ギチッギチッギチッ
壊れかけの、錆の浮いたハサミが鳴く
こんな物で切られたら痛い以前に血中が錆で犯されるという物だが
それは今の彼女にはとても似合っていて
今の心の形を表すには最適な解だった

 

斎「~♪~~♪」

 

鼻歌を交えて道を歩く
先輩は今日は何処に居るだろうか?
もう学校に行ってるかな?それともまだ家に居るかな?
あの喫茶店でケーキを食べてる?月子ちゃんと登校してる?

 

斎「ふふっ♪」

 

楽しげに笑顔を浮かべて道を歩く
笑顔の数だけ幸せになれるらしい
笑顔を浮かべた頭を並べれば幸せになるとか
笑顔を貼り付ければその人は一生幸せなままだとか
なら、笑った顔の先輩の首を持っていられれば私は幸せなまま一生を過ごせるだろうか?
そこまで考えて前方の人影に気付く
見知った顔が見飽きた制服を着て立っていた

 

「探してるよ」

 

斎「そう。何処に行けば逢えると思う?」

 

「人気の無い所かな。その方が誰にも見られる事は無いから」

 

斎「そう、か。そうだね。誰かの目には触れさせたくないからね」

 

「斎にゃん」

 

斎「なあに、月子ちゃん」

 

月子「・・・私は最初から知ってたよ、斎にゃんが他とは違う事」

 

斎「そうなんだ。でも月子ちゃんなら許してあげる。親友だもん」

 

月子「今の貴女の状態を見たら、猫で例えたのは間違いじゃなかったんだって心から思うよ」

 

中央イフリカに位置するタナジアのカグル族では、猫の愛液を邪術の材料に用いると考えられている
つまり邪術を成立出来るだけの魔性的能力が備わっているという事である
要約すれば、猫とは魔性の生き物
心の移り変わりが激しく、また人を虜とする魔女の様な存在

 

斎「月子ちゃんの言う事はいつも難しいな。でもさっきのアドバイスは嬉しかったかな。ありがと♪」

 

クルッと来た道を引き返し、笑顔を浮かべながら去って行く
その背中をひとしきり眺めてから月子は学校へと歩を進める

 

月子「中々に厳しそうですね。言語能力は正常の様ですが、言葉の端々に違和感を覚えます。即物的な感覚に囚われていると仮定して、あれでは出遭った瞬間に刺しかねません」

 

月子「出来れば穏便に元に戻さなくてはなりませんが、一介の女子高生である所の私に何処まで出来るか。・・・・・・ふむ、大元に協力を募るのが一番ですかね」

 

言って携帯を取り出す
普段使っている方ではない
仕事関係、もしくは人脈関係の方である
そうして出た声の主に静かに言葉を放つ

 

兄の死は看過出来ないので、ルートAに戻す為に協力をお願いしたい。

 

つまり、彼女は、最初から、そちら側だった


第七十八話
「既知の事象」

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