光が晴れる
目の前に居るのは細身の男性
誰なのかと尋ねたら、透き通った声で言われた
『私はフミカネ。部屋という世界を管理する者』
そして此処は最後の部屋なのだと
最後という響きを胸の奥にそっと置く
来れたんだ、僕は来れたんだ。って
涙が溢れそうになる
たかだか三十の部屋を巡っただけなのに
僕はとても嬉しかった
『君の望みを聞こう、七紙統夜』
そうだ、僕は願いを叶えに来た
人は忘れられるよりも
親しい人に怖がられる方が辛い
だったら忘れてくれた方がまだマシだ
でも本当にそれでいいのだろうか?
忘れるのが最適なのか?
『迷っているのなら部屋を遡ってみるといい。考えが変わるかもしれないからね』
彼は一体何を言っているのだろうか?
此処で云う部屋は一方通行
後戻りなんて出来ない筈なのに・・・
なのに前の部屋に繋がるドアはゆっくりと開いて
≪ふむ・・・その判断も一つの策だな、フミカネ≫
先程見た風景の中でゲッコウがただ静かに佇んでいた
【最後の部屋・前】
完
開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだろうか
しばし唖然としていた僕は、我に帰りフミカネに尋ねた
「貴方は一体何者なんですか?」
『私はフミカネ、曼荼羅魔刃フミカネ。部屋を管理する者にして狭間を司る者』
僕は変われるでしょうか?
陰鬱とした想いを正常な物に変えられるでしょうか?
『七紙、正常も異常も考え方で変わる物だ。それを彼等が教えてくれるだろう』
会話を終え僕は前を向く
戻る事は決して酷な事では無いし
やってはいけない事でもない
考え方で変わるというのなら
”そうだ”という固定概念も壊せる
「行きます。僕は僕なりに自分の運命を変えてみせる」
―――彼がその後如何なったのかは知り得ない
変わったか否かなんて誰にだって分からないし
何時だって結果は変わり続ける
変わるのだから・・・歩み続けられる
【最後の部屋・後】
完