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私は光のある方向を見据えて歩き出す
ドアに添えていた右手を離す
ドアが音を立てて閉まる直前
誰かが私の腕を引っ張って引き寄せた
誰かの胸に抱かれている
その感触を私は知っている
そうだ、この温かな胸のぬくもりは・・・

 

千影「・・・統夜先輩?」

 

七紙「久し振り、千影ちゃん」

 

見上げるとあの頃と変わらない笑顔がそこにあった
その笑顔を見ると何故か両目から涙が引っ切り無しに流れてきた
統夜先輩はそんな私に微笑みかけると静かに抱きしめた
ああ、先輩、ずっと会いたかった
あの頃から、ずっと、ずっと、この日が来るのをどんなに待ちわびた事か
そして私は涙が枯れるまで泣き続けた
泣き終わった時に気付いた
何で先輩が此処に居るのだろうと
だって私は最後の部屋にまだ辿り着いていない
なのに私の願いは叶っている
流石にすぐに願いが叶うなんて事は普通はあり得ない
その事を聞こうと口を開こうとしたら

 

無名「よお、兄弟。間に合ったみたいだな!」

 

仮面の男が片手を挙げながら立っていた

 

七紙「やあ、無名。顔を合わせるのは久し振りだね」

 

無名「ま、前回からずっと寝てたしな」

 

七紙「それよりも君は少しばかり先行し過ぎだよ。僕を起こしてからでも良かったんじゃないかい?」

 

無名「警告を促すだけなら早めの方が良いだろ?」

 

七紙「・・・の割には結局足止めしか出来ていない様だけど?」

 

無名「初対面の時の兄弟みたいに殴られたからな。何で俺ってばいつも殴られんの?」

 

いきなりこちらに質問を投げ掛けられた
今までの会話に私は全然入れなかったから、それは嬉しい事だけどなんと言っていいのか

 

千影「何でって・・・」

 

七紙「あのね無名、ドアを開けていきなり目の前に仮面が居たら誰だって殴るよ」

 

無名「兄弟の場合は二回目蹴りだったろうが!この女なんかカウロイだぞ?!あり得ねえ!!」

 

仮面差別だー!と叫びながら抗議してくる
まあ確かに仮面の下の顔を知っていたら、カウロイは仕掛けなかったかもしれない
物事はいつも後々分かる物なんだよと諭してみる
残念、仮面には効果が無かった

続く

 

 

 


そんなカオスな会話をしている私達の元に一人の青年がやって来る
優しそうな顔つきの青年
でも何処か神秘的な物を感じる

 

フミカネ「はじめまして、八咫千影さん。私はフミカネ、曼荼羅魔刃フミカネ、部屋を管理する者です」

 

千影「あ、どうも。・・・・・・部屋を管理?」

 

はて?
さっき似た様な単語を聞いた様な・・・
記憶を掘り返そうとしたが、ソレを言った当人が目の前に現れた
というより突き出された

 

千影「あれ、さっきのオモガネ・・・さん?」

 

後ろの方が疑問系になったのは彼の目つきが悪かったからだ
しいて言えば悪役。もっと言えば小物臭のする悪役
そして私の方を見ると思いっ切り不服そうに吐き捨てた

 

オモガネ「八千八百八十九回目っつー新記録になる所だったのに回避しやがって、このクソアマがっ!」

 

滅茶苦茶口悪っ
という事はさっきまでのは猫を被っていたのか、そうなのか
フミカネさんによるとかなり前から勝手に部屋に住み着いているらしい
しかもそれだけでは飽き足らず、部屋を巡る者にちょっかいをかけては不必要なループをさせていたらしい
つまり私はまんまと騙されたという事だ
しかも八千八百八十八回という途方も無い回数をだ
これは問答無用で殴っていいんじゃないかと思えてきたので殴ろうとした

 

ツバキ「父上、カエデを回収しましたのでとっとと帰りますよ」

 

突然現れたツバキに阻止されたと同時に仕置き役も取られた
うへぇ、往復ビンタ十連発とか・・・
口許から血を流しながらぐったりとしてしまったオモガネを引きずって退場するツバキ

 

千影「ご、ご愁傷様です?」

 

七紙「ところで千影ちゃんは如何して此処に?」

 

千影「先輩が私を置いて行ってしまったので、追い掛けて来たんです!」

 

七紙「そうなんだ。神凪ちゃんと牧衛ちゃんは一緒じゃないの?」

 

千影「っ・・・私だけじゃ不満なんですか?」

 

七紙「え?・・・・・・ああ、いや違う違う。ほら君達って継承存在だからさ」

 

千影「関係無いですよ。私は!先輩が好きだから!追い掛けて来たんです!!」

 

統夜先輩は私の剣幕に押されてタジタジ
でも満更でもないのか頬を赤らめながらこんな事を言う

 

七紙「いいの?終わりの見えない恋になるかもしれないよ?」

 

千影「大丈夫ですよ。だって私達不変の存在じゃないですか」

 

不変は退屈だと言った事があるけど
それはつい昨日までの話
今日からは違う
だって隣には大好きな先輩が居て
周りには祝福してくれる人達が居るんだから

 

幻想識零本/弐

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