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2017年正月
・・・から、結構日にちが開いた頃

 

蒼麻「ぶぉはっ!」

 

藍「あ、出て来た。赤ー、蒼ちゃん出て来たよー!」

 

赤「おー、まあ蒼麻は心配しなくても出て来るだろうと思ってたが」

 

蒼麻「うえぇ、口ん中砂まみれ。腹はゴロゴロ言ってるし・・・小石何個か飲み込んだかも」

 

赤「腹を割いてやろうか?」

 

蒼麻「いい、自分でやる」

 

言って右手を強引に腹にブッ刺すとそこから腹をガバッと開いた
中から零れ出る数個の小石と血にまみれた臓物臓物臓物
吐き気を堪えながら隅に引っ掛かった小石まで綺麗に取り除く
一連の作業を終えて一息吐く頃には見事に割腹の痕は消えていた

 

蒼麻「うぅ・・・まだ若干血が戻って来てない・・・」

 

赤「悪いが休んでる暇は無いぞ。今すぐ土中に戻って貰わないといけない」

 

蒼麻「それより今の状況教えろや!去年の変異虎の時より爆発デケえぞ!!」

 

藍「いやでも蒼ちゃん、弥生さんが」

 

蒼麻「おう、そうだ。弥生は如何した?あいつは無事か?!」

 

藍「まだ土の中に」

 

蒼麻「やよーい!?」

 

赤「だから休んでる暇は無いって言っただろ」

 

慌ててザッカザッカと手掘りを始める蒼麻
いかに弥生が一度死んで黄泉還って死に難くなってるとはいえ、流石に土中はシャレにならんのである
人間の形態をしていれば自ずと肺で呼吸をしてしまうものなのだ
土中に埋まっていると呼吸が出来ないのは誰でも分かる事だ
まあ例外が無い訳ではないが一般的には無理である

 

蒼麻「どおおおおりゃああああああ!!!!」

 

赤「いやスコップ使え」

 

蒼麻「掘ってて間違えて腕とか足とか頭とかにスコップが刺さったら嫌だろうが!!」

 

赤「いやまあ、分からんでもないが」

 

蒼麻「藍、弥生を最後に見たのはどの辺だ!?」

 

藍「えっと、蒼ちゃんから見て右斜め前方5mってトコかな」

 

それを聞いた蒼麻は静かに右掌を地面に当てると一言

 

蒼麻「接続〈■■■・■■■■〉」

 

何かを呟いた様だったが赤はおろか藍すらも言葉を認識出来なかった
そしてその直後、蒼麻がおもむろに地面を掘りかえすと弥生が発見された

 

藍「弥生さん!」

 

赤「(何だ今の・・・?兄貴は一体、今、何をした?聞き取れなかった訳じゃない。言葉が認識・・・出来なかった?)」

 

赤は怪訝な顔で先程の状況を整理しようとするが、どうあっても理解が追いつかない
否、むしろ理解する事を、理解しようとする行為を制限されている様な
そんな錯覚に陥っている

 

赤「(検閲か?だが、それとも違う様な・・・何だ、この拭い切れない違和感は!?)」

 

蒼麻「よかった・・・体内に砂も泥も小石も入ってないみたいだ。咄嗟に口元を腕で覆うとか普通出来ねえぞ」

 

藍「う~ん、流石は弥生さん。蒼ちゃんの奥さんになるだけはある」

 

蒼麻「どういう意味だ」

 

藍「人間が出来てるって事だよ」

 

蒼麻「なに目線の人間だお前は。いや人間じゃあねえのか」

 

赤「兄貴」

 

蒼麻「ん、如何した?眉間に皺なんか寄せてると子供に嫌われっぞ」

 

赤「さっき、何をした?」

 

蒼麻「何って手掘りで弥生を助け出しただろ」

 

赤「違う、その直前だ。右掌を地面に置いて何か言ってただろ」

 

蒼麻「はあ?俺そんな事してねえぞ」

 

言われた蒼麻はちんぷんかんぷんといった風に頭の上に?マークを浮かべる
藍にも確認を取ろうとするが、

 

藍「そういえば何か言ってたね。えっ・・・と、あれ?そういえばノイズが混じった時みたいに聞こえ難かった様な・・・」

 

蒼麻「お前までなんだよ。と、とにかく俺はなんも言ってねえって!新年早々怖え事言うなよ」

 

言い終わると同時に弥生を抱えて影裏の所に向かう
治療が出来るのは神社で影裏ただ一人なのだ

 

赤「どういう事だ?」

 

藍「う~ん、赤も何か違和感を覚えてるんだよね?」

 

赤「ああ。検閲にとても近い感覚なんだが、不思議と恐怖は感じない。むしろ死とは逆の様な気がする」

 

藍「確かにそうかも。でも蒼ちゃんが覚えてないのはどういう事?」

 

赤「単純に無意識でやった事なのかもしれん」

 

邪狼「あんまり深く追求しない方がいいぞ」

 

赤「親父、なにか知ってるのか?」

 

本殿正面の障子を開けながら登場した邪狼は賽銭箱に肘をつきながら座ると、階段に素足を投げながら言い放った

 

邪狼「昔まだ大神に成り立ての頃にな、今の同僚であり友人である男に忠告された事がある」

 

邪狼「曰く、『検閲が次元における秘奥ならば、時空における秘奥とは如月蒼麻という一人の男が無意識に紡ぎ出す言葉』だとよ」

 

赤「待て、待ってくれ。オレ達を創ったのは他でもない親父だろう。別の次元世界から素体を持って来て創った」

 

邪狼「ああ、そうだ」

 

赤「親父が大神になったのはオレ達が創られるより遥かに以前の筈だ。なのに何故」

 

「なのに何故、如月蒼麻という個人名を知っているのか。という事か?」

 

いきなり男が現れた
気配も何も無かった
まさに唐突に現れた

 

邪狼「アオバ、あんまり息子を驚かせてやらないでくれ。あんたのソレはあまりに唐突過ぎる」

 

アオバ「呼ばれた気がしたのだ」

 

邪狼「まったく呼んでない」

 

赤「なっ」

 

なんだ、この既視感のある男は・・・
後頭部で縛った黒髪はそれでも尚肩まで伸びており、
爛々と輝く青い瞳はその奥に邪気など含んでいないかの様で、
その口調は全く似ていないにも拘らず兄のそれと響きが似ており、
つまり目の前のアオバと呼ばれた男は何処までも如月蒼麻と共通点が多かった

 

アオバ「まあ、当たらずとも遠からず。似ているといえば似ていない。我は識っているが彼は知らない。そして君には何も話せない、これは我々の問題であるからして」

 

赤「・・・」

 

赤は何も言えなかった
別段何かを言うつもりは無かったが、ノドは呼吸も出来ない程に圧迫されてしまい言葉のこの字も出なかった
出せなかった、と言うべきなのか
出してはならないと己が本能で理解していたのかどうかは分からないが
ただ一つだけ
兄と自分は双子として生み出されたにも拘らず、
決して共に生きていけない存在だと既に分かっていたというのに、
どうやっても兄に肩を並べる事は出来ないのだと、
思ってしまった
解ってしまった
そんな日だった

 

終わる

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