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手紙が届いた

使われる事の無かった郵便ポストを通じて

こういう時は例外なく何か悪いものだと思っている

そしてそれは本当に例外なく何時の間にか自分の後ろまで這い寄ってきているものだ

 

【壱の死】

 

闇に沈んだ本との契約が切れて早数ヶ月

今までの所業を蔑ろにするかの如く世界からの通達

 

「抑止力・・・動くのか、この様な小娘一人の為だけに」

 

笑う、自分で笑っているのが解る。笑っているが目は笑っていない・・・それが私の笑い方であるからだ

 

「殺るのなら勝手にすればよい、そこまでの価値がこの身にあるのか如何かは別だがな」

 

世界?だから如何したというんだ?世界が怖くて死神等やっていられるか

恐怖は人間の物だ、我等に宿るのは如何に死を運ぶだけ

それ以上の価値は無い、あるのならそれは相手を刈り取る狂った精神だけ

そんな折に届いた一通の手紙

 

「まさか一介の神と同等の世界の抑止力が手紙なんて送ってくるとはな・・・」

 

中身を見て世界の神経を疑った、それ程までに馬鹿らしいもの

 

「はっ・・・何が書かれているかと思えば、遂に狂ったか抑止力?」

 

狂った笑いが巻き起こる

吊り上げた唇が言葉を紡ぐ

目はギラギラと獲物を狙うかの様な血走ったもの

だがそれも分かる、手紙の中身を読み取れば簡単に綺麗に素直に直線的に

 

『一年の寿命と引き換えに生命にとって一番大切な物を探せ』

 

とても正気の沙汰とは思えない

とても容赦の無い世界の判断とは思えない

だが、ある意味それが最高級の判断であるともいえる

 

「闇に沈んだ本と同じ事を私にやらせるつもりか――――――いいだろう、その判断読み違えるなよ」

 

そうして始まる、神話が・・・

新たなる鮮血色の冷たい神話が

【弐の死】に続く

 

 

 


再び出逢った

変わらない中身と変わり続けている外見

記憶を零に戻した、けどその事を覚えている

彼女には言わないでおこう・・・その方がいい

 

【弐の死】

 

生命にとって一番大切な物・・・それが今の私にはよく解らない

そもそも何を表しているのかさえ理解出来ていない

だから既に成し遂げた者に訊く事にした

そう・・・闇に沈みし本に

還った街で、始まった日常に浸る彼に再び会う事になろうとは自分自身思っていなかった

そして私達はまた出逢った

彼は何も覚えておらず、私を見ても気にも留めさえしなかったが

体の内側に風穴が開いた様な感覚

求めても求めてもその穴から全て零れ落ちてしまうかの様な気持ちになった

 

「何だこの感じは?何かが足りない様な・・・それでいて大きな物を失ってしまった様な感覚」

 

それは本来この身には降りかからない災厄であり

決して理解出来そうに無いものである

世界が急かす

 

「それだけの価値があるというのか――――――いや、私が気に留める様な事では無いか」

 

それに絶対に解り得ない事なのだろうな・・・

お前もこの様な想いで進めていたのか?

―――なあ、■■■■■よ

【参の死】に続く

 

 

 


足で歩いてみた

歩き方を忘れている体を一生懸命動かす

頑張れば出来るもんだなと思う

出来るか出来ないかは日々の努力の違いか・・・

 

【参の死】

 

茫然自失のまま街から出る

いや違う、自分は失っていない

ただ羨ましかった・・・でもそんな事は今まで感じた事は無かった

この気持ちは何?この感覚は何?生命って何?大切な物って・・・何?

よく分からない感情が体中を駆け巡っている

感情は感じない筈、なのに何で心の底から羨ましいと思ってしまうのか?

己に親等存在せず、また信頼するに相応しい者も居ない

そもそもそれは信頼ではなく、信用である

信頼とは信じて頼る事らしいが、信用は真逆の意味で信じて用いる

同じ様な言葉でも意味を確かめれば天と地程の差

私は死神、魂を狩る様な半端者ではなく首から上を斬り取る高位の死神

首から上は観賞用、瞳は宝石散りばめて、首からぶら下げ弄ぶ

それが私という殻を支える根元の部分

私は死神という名の殻を被って冷たい笑顔を浮かべればいい

そうする事で私は私を補える

それが無くなれば私という殻は消え去り、私は私で無くなる

だから羨ましいとは思っていない

―――そんな物は今の私には不必要だ・・・

【肆の死】に続く

 

 

 


自分の息で喉が焼ききれるかと思った

それだけ思い切り走った

この時だけは鋭い体毛を疎ましく思った

それだけ自分は追い込まれていたのだ

 

【肆の死】

 

空は赤く染まり、私の道を鮮血色に塗り潰す

まだ星は輝いてはいない

未だ夜は来ていないが、もう夕暮れは失われつつある

目の前には街の宿

私に睡眠は必要無いが、上界で行動するにはしなくてはならない事である

上界・・・死神は通常下界よりも下の地下層に住んでいる

住んでいるというよりは存在している

其処に居るのが普通であるという事

扉を開け中に入る、家主が笑顔で迎える

指定の部屋に入る、何も無い部屋だ

寝具と机と窓―――なんて空虚に囚われた空間

すぐに眠りにつく、何故か眠れた

過去に眠った事等無く、私は初めての事である・・・・・・なのに何故?

何故――――――こんなにも穏やかな気持ちになるのだ?

窓の外は夕暮れと夜の狭間に揺れ、空は赤と黒の中間に晒されていた

【伍の死】に続く

 

 

 


夢を見た

まだこの大空を飛び交っていた頃の夢

そこに生き甲斐を感じ、それを良しとしていた頃

何時から失くしてしまったのだろう

 

【伍の死】

 

夜明けの時間が来た

外は薄暗くも息づいた風を伴っている

窓を開けると硝子に張り付いた露が落ちる

家々に光が灯り始める

私の紅い瞳にも鋭い光が灯る

息を吸う、何の無駄も無い空気

脳を正常化させ、宿を後にしようと歩き出す

部屋を出ると家主に出くわす

笑顔でこちらを見てくる

 

『行くのかい?どうせなら朝はウチで食べていきな』

 

拒絶する暇も与えず連れて行かれる・・・この人間は強引だ

目の前に出される質素な食事

食べる事すら私には意味の無いものであり、初めての事である

口にする――――――不思議だ、美味しいと思えている自分が居る

味覚等不必要な物であると思っていたが考えを改める必要がありそうだ

そうまで私は気付かず黙して食べていたのか、家主は言う

 

『そんなに美味しかったかい?そんなに涙流しちゃってまぁ・・・可愛い顔が台無しだよ』

 

そう・・・私は自分でも気付かない程、瞳から涙を流していた

それも私にとっては初めての事であった

【陸の死】に続く

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