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凍っている

心も体も、そして周りさえも

活気付いていた頃が懐かしい

そう・・・鬼であった時が

 

【陸の死】

 

地平線の彼方に吸い込まれそうになる感覚

中が窄まっていくトンネルの様

外から圧迫されていく状況の中、私は平然としている

相手は驚いている

当然だ――――――私を只の人間だと思い襲ってきたのだ

それは既に人としての理性を保っていない一匹の獣

 

「私を犯そうとでも思ったか、たわけが。貴様の様な野蛮な猿如きに私は組み伏せられる器ではないわ」

 

―――尖、と声を零し死神は其処を後にする

中空より数多の剣の群が飛来し、獣を串刺しにしていく

 

「―――人間とは実に愚かな物だ・・・簡単に自らを捨てるとは」

 

死神は嘲りとも哀しみとも取れる様な面持ちでその場を後にした

【漆の死】に続く

 

 

 


ため息が出た

如何してこんな事をしているのかと後悔する

それも非日常に身を置いた故

少しずつ楽しいと思えてきているので良しとしよう

 

【漆の死】

 

私は今地獄に居る

何故かと問われれば会う者が居るからである

根の役割をしていた者は既に次の生を送っている

しかしこちらはそうはいかない

闇に沈みし本―――高みを目指す為に闇に堕ちた物

その魂は者ではなく物

存在しているのではなく配置されている

居るのではなく在る

闇は奴の住処

ならば地獄は?

説明等不要だ・・・奴には闇でも地獄でも、ましてや暗黒でもいいのだ

自身を大きく塗り潰す黒き塊が其処に在るだけでいい

自己が見えなくなれば、視認出来なくなれば、確証出来なければ・・・・・・

――――――最初からそんな本は無かったのだと認識され、歴史という巨大な一ページにも記載されないからである

それは私にとっても、白き鋭毛の狼にとっても、漆黒の鳳凰にとっても、次の生を送っているシ■■イツにとっても同様の事である

それに記載される事は死よりも恐ろしく忌避なるものと何時か誰かが言っていた

【捌の死】に続く

 

 

 


前と後ろで意見が食い違う

それは何時もの事と割り切れている

只一回でいいから同じ意見を言ってみたい

それが鵺である前に前半身である自分の意見

 

【捌の死】

 

12月2日

私の生まれた日だ

只生まれたのではなく正式にはその日に存在が確立されただけなのだが

この日が毎年来ると記憶がおぼろげになる

死神とは元来記憶を受け継ぐものである

記憶を体の芯に染み込ませ離れられなくする行為

それを行っているにも拘らず私には不鮮明な時がある

その時にふと考える事がある

 

「私は何処から来て何処に至るのか」

 

気の迷いだと、些細な事だと首を振って霧散させてきたが

今になってそれは違うのではないかと思う様になってきた

何が私をそうさせるのか

私は無から来て何処かへ至る

その途中の道は関係無い

只結果が全てだ

だが同時にそれは何か意味を伴っているのではないかと思ってしまう

分からない、今の私には分からない

・・・・・・ん?

 

「――――――後の私なら分かるというのか?そう、思うのか?今の私は・・・」

 

理解出来ない自分への問答

霧がかかって見えない記憶の一欠けら

只知りたいだけなのに・・・その言葉が逆に己を縛り付ける

だが、その不鮮明な記憶こそ後の彼女に答えを与えるという事をまだ知れないで居た

【玖の死】に続く

 

 

 


地上に出てみたかった

暗い土の下に埋もれたままこのまま一生を閉じる

たったの一度でも日の光を浴びてみたかった

気付いた時には自身の目には光が燈っていなかった

 

【玖の死】

 

ミステリーサークルの様にグルグルと螺旋を描く竜巻を頼りにして

都市群を巡って謎を解く

何時か読んだ文庫本に書かれたその奇異な文章

嵌ったら二度と出られそうにないアリ地獄みたいに

探りを入れたら抜け出せなくなったこの血の殺戮場

鎌を持った死神がすぐ後ろに存在する

 

「舐めているな、この私に向かって紛い物をけしかけるか。中々に楽しませてくれる処だ」

 

カードや何かに封印されているかの様な時代遅れのフェイクゴーストに殺られる私ではない

―――閃と紡ぐ、剣群が飛来し偽りの者に刺さり四散する・・・かに思えたが

 

「目を見張るとは正にこの事だな・・・・・・殺るのなら殺れるだけの戦力を持って来いと言うか。たかが時代錯誤の亡霊が・・・いいだろう、後悔するなよ」

 

一式詠唱(シングルアクション)で投影を完了させる

哭という言霊で空間を歪曲させ、灼という言霊で炎柱を顕現させる

フェイクゴーストは自己の空間を捻じ切られ、炎柱に貫かれ塵となる

 

「――――――こうなっては只の矛盾存在と何ら変わらんな・・・せめて記憶の片隅にでも残しておいてやろう」

 

未だ・・・・・・『生命にとって大切な物』は見つからない

ただ、記憶だけは積み重なっていく

それが必要なものなのか不必要なものなのかは世界にしか分からない

【拾の死】に続く

 

 

 


吠えればいいというものではない

威厳もいるし、皆を引っ張っていく器量も持ち合わせていないといけない

獣王というものもあまり易しいものではない

―――ああ、トップにはなるもんじゃないな

 

【拾の死】

 

死体があった

未だ腐臭のするソレは

既に肉は残っていないものの

骨にこびりついていたものが周りに漂っている

風でも吹いたのか、亡骸には砂や葉が張り付いている

 

「・・・妙だ、この辺りには天敵である獰猛な動物は居ない筈」

 

なのに何故この様な所に死体がある?

しかも人間のなれの果てが・・・

魔術師の仕業か?

奴等は人魂を必要とする実験をするらしい、それが原因か?

だがそれではおかしい

この場には人為的な結界が施された形跡はないし、必要ならば閉鎖的でかつ多人数の場所で行う筈だ

それが全く当てはまらない

それではこれは何だ?

自害なのか?意味が分からない

そんな事をしても魂は救われんし、転生の妨げになるだけである

 

「――――――まさか・・・・・・それが狙いなのか?解らん、そんなものは無意味以外の何者でもない。輪廻を無限に回り続けるだけだ、一生メビウスの輪から外

れる事は出来んぞ?」

 

同じ道を同じ時、同じ世界で歩み続ける

それはあってはならない事、世界から改舅を受けるぐらいに・・・

【拾壱の死】に続く

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