top of page

むぎゅる
そんな音が何処からか響いた
それは当人からすればとんでもない事であったが
それを行使した者にとっては全てが都合良く行くので問題無かった

 

【大晦日2016+17】

 

蒼麻「はぁ・・・さむ」

 

吐く息は白い
澄み切った空気の所為か吸った大気はノドを冷やす
暖を取ろうにも境内に設置した焚き火には、既に人の山が出来ていて如何する事も出来ない
そもそも神社関係者なのでそれよりも仕事である

 

蒼麻「今年はなんか層が低いな」

 

例年通りなら高齢者の数が若干多い
天神町は他の街の例に漏れず高齢化の一途を辿っている
それでも小学校等が存続しているのだから、やはり子供の数も多いのだろう

 

蒼麻「みんな人外なら年齢なんて問題無いのにな・・・」

 

確かにそれはそうである
人外というのは人間で換算した場合の成人を迎えると内外共に年齢が止まる
人間よりも種族として特化している故にこうなっているのだが、それはそれで問題がある
例えば天神町の総人口2万人を人外に置き換えたとしよう
恐らくものの数分で全滅するか共食いを始める
人外だけではバランスが取れないのである
シーソーは片側だけに乗っていては釣り合いが取れないのと一緒である

 

藍「凄い人の数だね。子供が多いのはアレの所為かな?」

 

藍が指差すのは甘酒のテントの隣にあるお汁粉のテント
これがホント美味しいのなんのって
味見をした俺が言うのだから間違い無い
問題は理想の味に近付ける為だとかで味見を何百回とさせられた事だろうか
一週間甘味が食べられなくなった程である

 

ノエルティア「去年来た人達がtvitterに投稿したのがキッカケらしいですね」

 

白帝「tvitterは情報の拡散には非常に便利ですからね。私もtvitterのフォロワーから色々同人誌の情報を頂きましたし・・・」

 

ちなみに白帝はコミケから走って帰って来たばかりである
ものの数十分で。両手に痛紙袋の大漁バズーカ添えで

 

秋「ねえ、蒼麻ちょっと来てくれるかな!」

 

鳥居前で秋が呼ぶ
その傍らに一人の少女。迷子か?
だがそれで俺を呼ぶのはなんなのだろうと思いつつ、少し足早で近付いた
近付いた、のだがなんかおかしい
何がおかしいのか詳しくは解らないのだが、なんか首の後ろがチリチリする
虫の報せとかああいう類だ。妙な違和感と言うべきか

 

秋「この子なんだけど・・・“見覚え”あるかな?」

 

蒼麻「見覚えは無い。が、“識っている”気がする」

 

少女は薄く笑う
いや、よく見たら諦観したかの様な笑顔だった
違和感と得も言われぬ焦燥感を覚えつつ少女に問うた
君は何者だ?
少女は小さな口を開けてただ一言

 

「真理」

 

と、人外が聞いたら卒倒しそうな名前を呟いた
マリではない、シンリである
つまり彼女は、紛れも無い真理である
そうして自らを真理と名乗った少女は続けて一言呟いた

 

真理「お腹減った・・・」

 

切実である
聞けば封印中の自分の所に妙な男が一人現れこんな姿に変え、
更に強制的にこんな姿にされたのでそれまで備わっていなかった空腹感という物に翻弄され、
たまたま通り掛かった建物から美味しそうな匂いが漂って来てたので此処まで上って来た
でも空腹感の所為で石段を上る度に体力が持っていかれ、
鳥居の前まで来た所でダウンしてしまった。と、そういう事である

 

蒼麻「そりゃあ大変だっただろう。お汁粉飲め」

 

真理「・・・!?、美味しい。・・・ヒトの体も悪くないかもしれません」

 

蒼麻「今年のお汁粉は絶品だからな。ところでいつからそんななんだ?」

 

真理「お汁粉はマイフェイバリットに登録ですね。いつから、ですか?ヒトの暦を拝見しましたが2016と書いてありました」

 

蒼麻「去年じゃん」

 

秋「去年書いてないから改竄に巻き込まれた感じだね」

 

真理「私が何をしたというのでしょう」

 

蒼麻「難儀な・・・」

 

真理はその後、甘酒や雑煮を食らい邪狼の紹介で何処かへ引き取られて行った

 

蒼麻「大丈夫なのか?クラスで言や真理って神より強いんだろ?」

 

邪狼「ヒトの体を得ている上に封印中の状態より弱体化してるみたいだから、規格外にも劣るという結果が出た。問題は無いだろう」

 

蒼麻「ふーん、妙な男ってのは?」

 

邪狼「分からん。空主羽のレーダーにも引っ掛からなかった。可能性は低いが古空が介入した線も大いに有り得る」

 

蒼麻「真崎さんなら何か知らねえかな」

 

邪狼「やめておけ。今天界は先日の泥棒騒ぎでみな疑心暗鬼になっている、火に油を注ぐ様な物だ」

 

蒼麻「さいですか」

 

終わる


邪狼「ところで、俺様まだお汁粉飲んでないんだが」

蒼麻「あー・・・・・・真理が全部飲んでった」

邪狼「なん・・・だと・・・」

bottom of page