top of page

大晦日を二週間後に控えていた昼下がりの午後
蒼黒神社の境内には関係者である男女三名の影があった
無表情を湛える謎の女の子約一名を添えて

蒼麻「・・・つまり、大晦日の手伝いに立候補してくれたのが彼女って事か?」

 

白帝「はい、そうです。以前から巫女會である程度の親交を結んでおりまして」

 

赤「み、みこかい?あー・・・オレの知識不足かもしれんが、その巫女會というのはなんなんだ?」

 

白帝「正式名称は『全国巫女合同報告會』でして。全国にある神社から代表として集まった巫女により、神社毎に行われている祭事や試みを発表形式で報告し合い、神社同士で連携を図ろうという催しです」

 

赤「ほお、そういう催しがあるというのは初耳だな。確かに宮司は管理者だからあまり神社を離れられんし、巫女が代表として行ってくれるのなら願ったり叶ったりだ」

 

そうでしょうとも、と白帝はふふんと鼻を鳴らして胸を張った
しかしそこに鶴の一声

 

蒼麻「いや待て、そもそもウチの弟子は巫女業を全然してねえぞ。俺が言うのも何だが、こいつは大晦日までの三日間コミケに付きっ切りで、巫女が一番忙しいであろう大晦日に全く寄与してねえ」

白帝「うぐっ」

白帝に言葉のつるぎが突き立った!

 

赤「確かに。嫁入りした藍は除くとしても、弥生や影裏、頼子や嘆きでさえ、時間があれば巫女として表に立つというのに」

 

白帝「おふっ」

 

まさかのコンボ発生
白帝に二本目の言葉のつるぎが突き刺さる!

 

白帝「・・・うぅ、その件は後日何らかの形で償わせて頂きますのでご勘弁を。今は彼女の紹介をさせて下さい・・・ぐふぅ」

 

実際につるぎを突き立てられた訳でも無いのに、致命傷の様な顔で悶える白帝
言葉の暴力は時として精神を著しく抉るのである
若干蒼白めいた表情で白帝は隣に立つ女性に話を向けた
今すぐ矛先を変えねば、このままでは頓死してしまいそうだ

 

???「えっと、では自己紹介を。私の名前は神薙詩音(かんなぎ しおね)と申します。特技は薙刀術と符術と殺人術です」

 

蒼麻「・・・・・・あ、これ巫女じゃねえな?」

 

詩音「いえ、恰好からも判る通り、巫女をやらせて頂いております」

 

蒼麻「特技が殺人術の巫女なんて居る訳無えんだが?単純に怖いんだが?」

 

詩音「巫女の殺人鬼・・・も居ると思いますが?」

 

蒼麻「いや居ねえし聞いた事も無えわ。大体何処の神社が殺人鬼を懐に置くんだよ」

 

白帝「彼女の所属団体名は『斬殺祭推進委員会』です」

 

蒼麻「名称が物騒過ぎる!いやヒトの事言えないけど。・・・全然言えないけど!」

 

知り合いの蜘蛛娘が笑顔で手を振っているのが容易に想像出来た
以前所属していたのは一応傭兵組織だったので、神々からの指令で行動していたという大義名分があるのだが
正直やってる事は大体同じなので、否定しつつも同意している様なものである

 

赤「まあ、百歩譲って巫女という事にしたとして。一つ疑問なんだが、何故君の着ている巫女服には鎖帷子が縫い込まれているんだ?」

 

詩音の二の腕辺りを指して怪訝な表情で赤は訊ねる
一見ただの網目状のデザインにしか見えないが、その実よく見ると確かに金属製である
その真っ当な疑問に詩音は一拍置くと静かに言った

 

詩音「夜道とか危険じゃないですか」

 

赤「それはどっちの意味にも取れるな」

 

蒼麻「おい殺人鬼」

 

白帝「それに関しては私もちょっと・・・攻撃速度落ちません?」

 

蒼麻「ツッコむの、そこじゃねえんだわ」

 

詩音「私の殺人術には速度はあまり関係ありません。対象との距離は薙刀で補えますし、逃げられても符術で拘束出来ますので」

 

蒼麻「というか、殺人以外で他に取り柄は無いのか?大晦日の単発バイト扱いだから、薙刀とか符術とかの戦闘能力は必要無いんだが」

 

詩音はそうでした、と忘れていたかの様な顔を見せると、少し思案してから言い切った
相変わらず無表情で

 

詩音「仲間内では憑依型演技系だと常日頃から言われてますので、即応的な笑顔対応とか出来ますよ。巫女さんって基本的に笑顔で接客しないと駄目なのでしょう?」

 

蒼麻「へえ、俺と同じタイプか。まあ、終始仏頂面よか遥かに良いからな。ならまあ採用かな」

 

赤「そうだな。此処に来てからずっと無表情だから不安だったが、演技とはいえ笑顔で接せるなら問題無いだろう」

 

詩音「採用有難う御座います。万が一暴漢が来ても自衛出来ますのでご安心下さい」

 

蒼麻「いや、そっちは別に心配してねえわ。殺人鬼名乗ってる奴を護衛してくれって意味不明だし、俺もそんな依頼出したくねえわ」

 

白帝「殺人鬼の護衛って共犯の片棒を担ぐ事になるんでしょうかね?」

 

蒼麻「だからツッコむの、そこじゃねえんだわ」

 


大晦日に続く?

bottom of page