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?『ブフフフフ、呑気に暮らしている奴等の驚く顔が楽しみでおじゃる』

 

?≪・・・時間は間違えるなよ。少しでも狂えばアレは木偶の坊だ≫

 

?「分かっているとも。ああ、ああ、分かっているとも。アレは未だに未完成だからな」

 

?【さて、我が同胞達よ。手は全て揃った。訪ねようじゃないか・・・お姫様の居る神の社に】

 

それは年の暮れの事

もうすぐ12月に入ろうとしていた時期だった

 

【蒼黒神社・外伝-影裏編-】

 

蒼麻「さーむーいーなー」

 

赤「これが終わったら焚き火でもしてやるから、悪態をつくなよ」

 

蒼麻「イモもよろしく」

 

赤「はいはい・・・」

 

藍「そういえば、わたし達は掃除しなくていいの?」

 

赤「いや、一般的な神社でいえば確かに巫女が境内の掃除をするんだが・・・コイツ暇だから」

 

影裏「最後ノ一言デ全テガ説明サレタナ」

 

蒼麻「弥生は何処行ったんだー?」

 

赤「頼子と一緒に買出しに出掛けた」

 

蒼麻「ひでえ、愛しの旦那がこのクソ寒い中境内の掃除を強制されてるというのに・・・」

 

赤「余程コレで殴られたいらしいな」

 

何処からともなく手甲を取り出し、右手にはめる赤

黒色をベースに赤い炎が刻まれた金属的な手甲

心なしか少し発熱している気もする

 

蒼麻「げ・・・何時も見てた気がするけど、ここ何年かは久しく登場してなかった謳牙じゃねえか!?」

 

カイザーナックル・謳牙

赤愛用の、主に蒼麻にツッコミを入れる時に使っていた手甲である

その破壊力は凡そ人体に使用すれば風穴が開く程度

蒼麻に使う時は何時もチョップで脳天破砕だったので頭蓋骨陥没程度である

しかし何という説明口調

 

蒼麻「程度程度と言ってはいるけどな・・・結構痛いんだぞ」

 

影裏「フム、マア自業自得ジャロ」

 

半ば涙目になりながら掃除を再開する蒼麻

と、神社の石段の隣りにある転送陣が光り輝いた

何時も参拝客はこの転送陣を介して参拝に来るので

別段不思議な事ではなかった

ただ、この時を除いては・・・

 

 

第壱界

 

 

蒼麻「ん?誰か来たみたいだぞ。よし、藍行って来い!」

 

藍「まあ、いいけどさ・・・蒼ちゃん掃除サボっちゃダメだよ?」

 

蒼麻「心配するな」

 

藍「一番心配な言葉だなぁ」

 

藍はテトテトと石段を降りていく

蒼麻は掃除を再開

数秒後、石段の下方が何やら騒がしくなる

 

蒼麻「何だ、揉め事か何かか?藍を行かせて正解だったな」

 

影裏「サラリト酷イナ、オ主」

 

しかし次の瞬間三人は驚く事になる

石段の下方が一段と輝いた数瞬後

藍が何段あるのか数えたくもない石段の下方から吹き飛ばされて来た

 

蒼麻「真島クン、吹っ飛ばされた!」

 

赤「キャ○翼!?」

 

影裏「漫才シトル場合カ!藍、何ガアッタノジャ!?」

 

?【無駄ですよ。縛鎖の術式を使いましたし、同胞の一人が楽しみ過ぎてしまいましたからね】

 

?「何とも、おお、何とも滑稽だったぞ。只の小娘かと思えばその身に蛇を宿しておるとはな・・・」

 

?『ブヒャヒャヒャヒャ、ちょーっと触ったぐらいで腕がポッキリ折れるなんてひ弱でおじゃるなあ』

 

?≪斯様に弱き者が居る此処では、我の力は発揮出来ぬやもしれん≫

 

藍は苦痛に顔を歪ませながらも身動き一つ取れない

縛鎖の術式とは対象を縛り行動不能にするモノ

術式自体扱える者はそうそう居ない

ではこの四人は一体何者なのだろうか?

 

影裏「ヒヅチ・・・」

 

ヒヅチ【おやおや、我等がリヒトのお姫様がこの様な所に居られるとは・・・】

 

蒼麻「何だ、こいつ等知り合いか?」

 

影裏「妾ノ故郷・魔界リヒトデ、父上ノ宰相ヲシテオッタ男ジャ」

 

赤「過去形という事は」

 

影裏「反乱ヲ企テタ罪デ追放トナッタ筈ジャガ」

 

ヒヅチ【ええ、なりましたよ。ですがね、とある噂を聞いたので、こうしてこの様な所に来たのですよ】

 

蒼麻「こんな所とはひでえなぁ。確かに老朽化してガタはきてるけど、どっかの低予算建築よかよっぽどマシだと思うがね」

 

赤「お前、少し黙ってろ」

 

見るからに演技ですと言わんばかりにガクッと項垂れる蒼麻

無視を決め込む赤は話を促す

 

赤「とある噂というのは何だろうか?内容によっては協力出来るかもしれない」

 

ヒヅチ【シジマ、話してあげて下さい】

 

シジマ「ああ、ああ、話すとも。かねてより親交の深かった天星世界に、素晴らしき、そう、かくも素晴らしき装置があるというのだ」

 

赤「装置?」

 

シジマ「そう、そうだとも。一つの生命から何千何万もの生命を作り出す装置、確か“羊水炉”と言ったなぁ。それがあれば夢が、長年の夢が叶うのだよ!」

 

赤「何故羊水炉の事を・・・いや、それよりも夢というのは・・・?」

 

ここで赤が質問した事柄

これこそが今回の最大の懸念事項と成り得る事

そして羊水炉がいかに危険な代物か

改めて知る事となった瞬間であった

 

 

第弐界

 

 

シジマ「夢か・・・夢、そう、夢だ。私が長年試行錯誤し続け、その果てに必要な物が羊水炉だと分かった夢!そう、私は生命を作り出す事を結論としている。それもこちらの意のままに動く操り人形を!!」

 

赤「な・・・」

 

空間が凝結する

その言葉が何を意味するか

その行動がどの様な結末を示すのか

それは誰にだって理解出来る事だ

 

影裏「貴様、生命ヲ何ダト思ッテオルノダ!?」

 

影裏の言葉は正論だ

生命とは自我を持って行動する生き物

他人の糸で操られる人形ではない

 

シジマ「私にとって生命等借り物の器に過ぎんのだよ。中身が無ければ只のガラクタ。朽ちるまで使われる使い捨ての機械と変わらん」

 

それもまた事実だ

どちらかが正解で

どちらかが不正解等無いのだ

世界の法則に答え合わせは通用しない

 

蒼麻「それじゃあ何か?お前等は羊水炉を奪おうってのか?」

 

先程までガックリと項垂れていた蒼麻が話に割り込んだ

まあ、本当に項垂れていた訳ではないので心配する必要も無いのだが・・・

 

ヒヅチ【いえいえ、奪おう等ととんでもない。こちらは交渉をしているのですよ】

 

蒼麻「交渉だぁ?何だ、言ってみろ」

 

ヒヅチ【羊水炉を頂けるならば、我等はこのホングシとガリョウを引き渡しましょう】

 

蒼麻「そっちの黒髪剣士とデブか」

 

ホングシ『ブヒ!?デブとは何でおじゃるか!麻呂にはホングシという立派な名前があるでおじゃるよ?!』

 

蒼麻「うるせえデブ。・・・残念だが、黒髪剣士は足りてるんでね。あー、後肥満値が最初からMAXみたいな大豚は懇願されても要らん」

 

ヒヅチ【では交渉は・・・】

 

蒼麻「要らないって言ってんだから交渉も何も決裂確実だろ」

 

ヒヅチ【成程。・・・・・・後悔する事になりますよ?】

 

蒼麻「上等だコラ。蒼黒神社を敵に回して五体満足で帰れると思んなよ?」

 

冷ややかに微笑むヒヅチと

メンチきる様な表情の蒼麻

まさに一触即発という状況だ

果たして羊水炉を守れるのか?

そして彼等の実力は如何に?

 

 

第参界

 

 

かくして両勢力は対峙していた

かくしてとか書くと、さも凄い様に見える

ははは、気の所為さ♪

 

蒼麻「何か頭の悪い文章が頭の隅を掠めた気がするが・・・気の所為だろうな、うん」

 

誰もツッコまない

当然だ

今はそんなお気楽な状況じゃない

故にスルー。むしろ誰も気付いてない

最強のボケ殺しである

 

蒼麻「気を取り直して・・・・・・赤、お前どいつの相手したい?」

 

赤「頭、と言いたい所だがお前がやるんだろ?なら、消去法でデブだろう」

 

ホングシ「ブヒー!だから麻呂はデブじゃないと言ってるでおじゃるー!!」

 

蒼麻&赤「黙れ、デブ」

 

二人して睨む

 

蒼麻「つーか、何で消去法でデブなんだよ。マッドで博士な奴がいんじゃん?」

 

赤「お前な・・・」

 

白帝「師匠、私をお忘れですか?」

 

離れの道場の方から白帝が歩いて来る

先程まで鍛錬をしていたのだろう、薄っすら汗をかいている

汗・・・いやいや、そこまで行くともう人として如何かと・・・

 

蒼麻「大丈夫なのか?鍛錬で疲れてるんじゃないか?」

 

白帝「ふふ、大事無いですよ師匠。これでも豊神の娘、体力には自信がありますので」

 

嘆き「それでこそ我が主です」

 

影裏「嘆キヨ、オ主ノ姉妹ニ協力ハ要請出来ヌノカ?」

 

蒼麻「あー、無理無理。嵐の奴だったら多分こう言うぜ。『わたし達が必要になる事態というのは、その様な些細な事ではないですよ?』ってさ」

 

その言葉を聞いてもヒヅチは反応しない

何処まで冷静なのだろうか、この男は?

ここまで無視されているのに全く動じないとは・・・

心が太いのか、はたまた唖然としているのか

本人にとってはどちらでも良かったのかもしれない

 

 

第肆界

 

 

私の狙いはあくまで羊水炉のみ

目の前でいたちごっこをしている馬鹿共には興味等一切無い

見据えるのは只眼前のみ

支配する力を手に

縛る異能力を手に

私は神の社に降り立った

崇めよ、愚者共!

私は貴様等を葬る慈悲なる断罪者ぞ!!

 

蒼麻「んじゃあ、まとめるぞ。赤はデブを、白帝は黒髪剣士を、影裏はマッド博士を、んで俺は頭(ヘッド)だ!」

 

一種の差別みたいな言葉を言って、蒼麻は再度確認する

頭(ヘッド)とか聞くの、某暴走族漫画以来だよ

そんな事は置いておいて

 

蒼麻「誰も負ける事は許さねーからな」

 

かくして戦いの幕は切って落とされたのである

 

―赤サイド―

 

ホングシ『寄ってたかってデブ、デブと・・・麻呂は本気で怒ったでおじゃる!』

 

赤「普段は人の短所を悪く言うのは控えているんだが・・・お前の場合はデブとしか表現が出来ない。気に障ったのなら謝る」

 

ホングシ『もう遅いでおじゃる!本気も本気、ブチギレでおじゃるー!!』

 

赤「一つ言わせて貰うなら、『本気』という言霊を作ってもそれは只の気休めであり、自己暗示にしか過ぎない」

 

ホングシ『ブヒャーヒヒヒ、今更何を言っても意味が無いのでおじゃる!お前は麻呂に押し潰されて死ぬのでおじゃるー!!』

 

赤「“ソレ”も含めて言わせて貰おう。貴様に一分の勝ちも無い事を、貴様はオレを知らなさ過ぎた事を」

 

ホングシ『そんなのやってみなければ分からないでおじゃるよー!!』

 

ホングシが走る

赤は只々静かだ

ホングシが笑う

赤の眼が爛々と

―――くすんだ金の瞳が一瞬だけ輝いた気がした

 

 

第伍界

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