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熱風が頬を撫でる

炎と風の術式を紡いだ

これで倒れなかった者は居ない

だから、大丈夫だと思った

思ってしまった

 

影裏「・・・・・・グ、ブッ・・・」

 

え・・・?

確かに焼け焦げていく姿を確認した

ブスブスと音を立てる黒焦げの死体が

確かに目の前にある、筈なのに

 

シジマ「いやいや、危ない所だった、本当に死ぬかと思ったなぁ」

 

影裏「ア・・・グッ、貴様・・・何故・・・・・・」

 

踏ん張る

ここで倒れてしまってはいけない

回復の術式を練る

徐々に塞がっていく傷口

胸の右側は無く、後ろの景色が見える

そう、穴が開いているのだ

大きな大きな風穴が

 

シジマ「ああ、ああ、そういえば言っていなかったなぁ。先程見せた三匹の人形と私はリンクしていてね、私が生命の危機にあったら自動的に身代わりになってくれるのだよ」

 

大仰に身振り手振りを加え説明してみせる

灰色の瞳の奥に狂気が垣間見えた

 

シジマ「そういえば、君は先程私を滅ぼすと言ったかな。だが、ああ、だが現実を見てみたまえ、君は傷を負い私は無傷だ。これでは真逆になるなぁ」

 

クツクツと笑う

まるで心の底から楽しんでいる様な笑い方

それが神経を逆撫でする

 

影裏「ホザケ!貴様如キ、コレ位ノハンデデ十分ジャ!!」

 

シジマ「・・・・・・痩せ我慢は止めた方が身の為だと思うがね?それに言っただろう?人形は私とリンクしていると」

 

だからこんな事も出来る、とシジマが手をかざす

白衣の下から何本もの触手が這い出て来る

表面はぬめっていて、てらてらと輝いている

ソレが影裏の腕に、脚に、体に巻き付いていく

慣れない感覚に全身が拒否反応を示す

丁度大の字に固定された影裏の体を舐める様に見回した後

シジマは腰のベルトからメスを取り出した

 

シジマ「おやおや、今から何をされるのか分かったようだねぇ」

 

影裏「ヒッ!?・・・ヤ、止メッ・・・!!」

 

シジマ「ハハハハハ、止めろと言われて素直に止める者が居ると思うかね?自信を持ちたまえ、君の体は最高のサンプルだ。良かったじゃないか、人の役に立てて・・・」

 

シジマが手に持ったメスを振り上げる

その顔は狂気に彩られ、最早正気を失っている

そして、振り下ろされる直前

紅の大輪の華が咲いた

 

シジマ「・・・何故かなぁ、何故私の心臓がこんな所にあるんだろうなぁ?何故だ、何故だ、何故、何故、何、・・・・・・」

 

目の前の異変が理解出来ない

突然シジマの胸から心臓が飛び出たかと思うと

急激に痩せこけていったのだ

まるで血液を抜かれている様なそんな光景

ふと、横から声がした

 

「それは流石に子供とかには見せられないよ、おじいさん」

 

影裏「オ主・・・気ガ付イタノカ?」

 

「ひどいな~、意識はあったけど立ち上がれなかっただけなんだけど・・・(苦笑)」

 

藍だった

確かにそうだ

別に意識が昏倒していたとかでは無かった

人形には元から血液という概念が無かったのか

それともまとめて抜かれたのか

死体はシジマ本人の物だった

 

影裏「オ主、意外ト強カッタンジャナ・・・」

 

藍「意外は余計だと思うんだけど・・・(苦笑)」

 

取り敢えず敵は倒した

宿主であるシジマが死んだ為か触手も掻き消えた

しかし粘液は影裏の全身の所々に付着しており

目のやり所に困る状態になっていた

 

影裏「・・・風呂ニ入リタイノオ」

 

切実である

 

 

第拾壱界

 

 

それは凡そ人間には理解出来ない状況だった

『災害』『終焉』『創世』

どれかが当てはまり、どれもが当てはまらない

それだけ両者のぶつかり合う衝撃は相当な物だった

地を駆ければ砂埃は渦を巻き

互いの得物がぶつかれば衝撃波が周囲の物を破壊する

蒼麻が人外であろうと意味が無い

ヒヅチもまた人外なのだから

 

蒼麻「中々やるじゃねえか。その槍は見掛け倒しじゃねえって事か」

 

ヒヅチ【嘗めないでいただきたい。これでも魔界の宰相だった身、多少の荒事は経験済みですよ】

 

蒼麻「会う刻が違えば、美味い酒でも飲めただろうにな」

 

ヒヅチ【もし、等今この場には必要無い事ですよ】

 

蒼麻「・・・違えねえ」

 

蒼麻は手に持った剣を握りなおす

黒八代の影断ち

この剣の名はそう云う

蒼麻が所有する刀剣の一本にして数少ない魔剣

曰く、その剣は影を喰うと云う

 

ヒヅチ【勝っても負けても一本勝負、既に後退の文字は無い。貴方を倒して羊水炉を頂きます】

 

ヒヅチが手にする槍がこれでもかと言わんばかりに自らを誇示する

その槍の名は分からない

刃こぼれ一つしない名槍である事は見て取れるが

それとは別に只々純粋に素朴だった

これといって特徴というものが無いのだ

 

ヒヅチ【魔力充填、物体再構成、光子幾何力接続―――真槍『Aionys Haltz』】

 

ヒヅチの持った槍が緑色の光を放った後

その全貌を大きく変化させた

先端は三叉になりその大きさは本殿と同じかそれ以上

ソレが蒼麻目掛けて放たれる

回避:不可能

阻止:不可能

迎撃:可能。一件の該当あり

その、一つの可能性にかけるしか、方法は無い

槍が迫りに迫る直前、蒼麻は聞こえるか聞こえないかの声で呟いた

 

蒼麻「ヒヅチ、お前の敗因は一つだ。それはこの剣を使わせた事」

 

剣が唸りをあげる

そう表現するしかなかったのだ

まるで生き物の様に唸り声を上げ

徐々に自らの『領域』を拡大させていく

目に見える程の速度で周囲の物体を侵食していく

・・・それは闇だ

それは昏い闇

向かって来る者を全て飲み込むかの様な昏い闇

 

蒼麻「(あんま使いたくなかったんだけどな・・・)―――許可する、貪り食え」

 

剣が動く

しかし、それは担い手が振るったのではなく

勝手に動いたのである

刀身が獣の顎の様に大きく開き

槍を呑み込んだ

いや、正しく言えば“影”を呑み込んだというのか?

 

ヒヅチ【馬鹿な!真槍が無効化される等!?】

 

蒼麻「これがコイツの力だよ。どんなモノでもその影を食う事で無力化させる・・・まぁ、一回毎に眠っちまうけどな(苦笑)」

 

そこが面倒臭いんだよなぁ、と蒼麻は愚痴る

しかし形勢はこれで逆転

切り札を失ったヒヅチに勝利は無い

ヒヅチに勝利は無いのだ

 

蒼麻「諦めな、俺も手は減ったがお前程じゃない。大人しく負けを認めて・・・」

 

ヒヅチ【確かに私の切り札は無くなった。だが、『私達の切り札』は無くなった訳じゃない!】

 

蒼麻「何を負け惜しみ言って・・・!?」

 

足音がした

ジャリ、と境内の砂を踏む音だ

戦力は分散させた

一人見失っていた等ある筈が無い

だが居たのだ

その男は

―――確かに初めから其処に居たのだ

 

蒼麻「・・・・・・嘘だろ?」

 

 

第拾弐界

 

 

蒼麻「何で・・・何でお前が此処に居るんだよ・・・」

 

木々の間から進み出て来た人物を目にし

蒼麻は震えた声で言った

その両眼に意思の光は灯っていない

それは正に操り人形だった

不適に微笑んでいるヒヅチを睨む

 

蒼麻「これは如何いう事だ、返答次第じゃ血を見る事になるぞ?!」

 

ヒヅチ【・・・というと?】

 

蒼麻「しらばっくれんのも大概にしやがれ!何で此処に“竜胆”が居やがる?!」

 

竜胆

それは目の前に佇んでいる男の事を言っているのだろうか

・・・そうだ、彼は確かに竜胆だった

蒼麻とは旧知の仲である竜胆だった

そして彼は豊神である

この意味が理解出来るだろうか?

 

蒼麻「お前、アイツが心配してたの知ってんのか?秋や白帝にだってお前が居なくなったの言ってねえんだぞ?!」

 

蒼麻「なのに・・・なのに、何でコイツ等の味方みたいな事してんだよ?!」

 

竜胆はただジッとこちらを見ている

その瞳に感情は無い

人形だから当然の事だが、蒼麻にはそれが信じられない

 

蒼麻「5千年前に約束しただろうが!何があっても裏切る事だけはしないって!!」

 

ヒヅチ【無駄ですよ、彼の自我は封印させて頂いています。正気に戻したいのならば、それ相応の代償が要りますよ?】

 

蒼麻「ヒヅチ!テメエだけは絶対許さねえぞ!!」

 

ヒヅチ【ふふ、私を殺しますか?しかし、それを彼が許すでしょうか?】

 

竜胆「・・・・・・」

 

蒼麻「くっ・・・竜胆・・・」

 

ジリジリとにじり寄って来る操り人形

その思考は無だ

それ故に最強の位

無とは何ものにも縛られないが故に最強なのだ

だが有限があるから無限もまたある

全ての事柄には裏表がある

そうだ、この世は表裏一体

どんな理不尽な事であろうと必ず意味はある

だから・・・

 

蒼麻「・・・いいぜ、何処からでも掛かって来い!お前のその能面みたいな顔ブッ飛ばして、嫌でも目ぇ覚まさせてやらぁっ!!」

 

だから・・・俺は拳を握る

全力でお前を殴り倒して、こう言ってやるんだ

悔しかったら俺を殴ってみろってな!

 

 

第拾参界

 

 

昔、そう大昔の事だ

まだクソジジイが人間を創っていなかった頃

俺とオレしかこの世界に居なかった頃

アイツが、竜胆が来たんだ

何を勘違いしたのか、出会い頭に一殴り

思いっ切りリズム良く床を何バウンドもしながら吹き飛ばされる俺

こめかみに青筋立てながらキレてる竜胆

突然殴られた俺は当然竜胆に掴みかかる

今思えば完全にアイツが悪いんだけどよ

その時は簡単に吹き飛ばされた所為もあってか

気付いたら二人して顔をズタボロにさせながら笑い合ってた

それがアイツとの初めての出会い

今となっては笑い話だ

 

蒼麻「・・・・・・」

 

竜胆「・・・・・・」

 

んで、これが現在の俺達

何を如何すればこんな状況になるんだって位の有様だ

ハッキリ言って止めて欲しい事この上ない

只でさえ俺と同等の能力を持ってるヤツとの一騎打ちな訳だよ

周りの被害を考えると気が失せるね

 

蒼麻「・・・でも、まぁやらなきゃいけねえんだよな」

 

腰を低く落とす

何時でも走れる体勢だ

正直言うと俺は拳で戦うよりも、主に足を使う方が性に向いてる

拳技においては弟であるアイツの方が秀でてたし

それに足技の方がリーチが長いしな

まぁ、そんな諸々の事情で俺は足を使う訳なんだが・・・

竜胆は如何いう戦い方だったっけなぁ?

かなり昔に戦った所為かまるで覚えてねえ

コイツも足だったか?それとも拳?

そんな事を考えていると、目の前に拳が飛んできた

 

蒼麻「ぬあ゛ぁっ、危ねえ!!?」

 

ヒヅチ【戦いの最中に考え事とは・・・死に急いでいる様なものですよ?】

 

竜胆「・・・・・・」

 

ムカつく笑いと無機質な表情に板挟みになる俺

あー、本気でムカつく

早々に舞台袖に引っ込んだ奴に言われたくねえっつーの

アイツ、後で絶対首チョンパの刑にしてやる!

 

蒼麻「お前もそうだ、仏頂面引っ提げやがって。うぜえ程切り替えが早い百面相は如何したんだよ?」

 

竜胆「・・・・・・」

 

蒼麻「あ、てめコノヤロウ!無言で無視して次の攻撃モーションに移るとか鬼畜だろ、マナー違反だろ、罰金モノだろオイ!?」

 

俺の叫びを完璧無視して殴り掛かって来る

何したってヤツの心には響かない

俺は何つー無能なんだ・・・orz

って嘆いてたって始まらねえんだよ!

 

蒼麻「さっきは勢いで心にも無い事口走っちまったしな。今度は平たく優しく言ってやるから、よーく聴けよ?!」

 

蒼麻「今からお前をぶん殴る!待った無し、時間制限無し、助太刀無しの真剣勝負だ!!“何かが割り込んできたら容赦無く葬れ”・・・んじゃあ行くぞ、間抜け面ぁっ?!!」

 

竜胆「――――――!!」

 

取り敢えず怒りの感情は取り戻させれたかな?

あーあ、骨が折れるぜ全く

 

 

第拾肆界

 

 

蒼麻「(おー、おー、怒りに任せて殴って来やがる。これじゃあガキみたいなモンだな)」

 

ため息を吐く

それも竜胆に聞こえる様に大きくである

眉根を寄せる竜胆

まずまずの出来

こういった小さな事を続けていけば

何時かは自我を取り戻すだろう

だが・・・

 

蒼麻「(そんなんじゃあ、まどろっこしいにも程がある)」

 

座右の銘は「面倒臭いのは叩き潰す」だったりしたかもしれない

本当の所は知り得ないが今回は如何でもいい事だ

今言える事は一つだけ

地味な作業なんて面倒臭ぇからしねえ

 

蒼麻「んじゃ、俺式療法その1。お前の嫁に暴露、昔お前は手先が器用なのを生かしてクマの・・・うおっと!」

 

拳が飛んできた

それでも言うのをやめない蒼麻

 

竜胆「・・・・・・!!(////」

 

顔を真っ赤にしている所を見ると相当恥ずかしい過去の様だ

自我が封印されているとはいえ

特定の言葉には反応するらしい

些かひどい気はするが・・・

 

蒼麻「羞恥かー・・・んじゃ、俺式療法その2。お前の内面を抉る物をやろう」

 

そう言って懐から取り出した物を投げ渡す

 

竜胆「・・・・・・!?」

 

何かは分からないが相当内面を抉った様で

汗を流しながらガタガタ震えている

矢張り特定の物にも反応するらしい

かなり外道な気がするが・・・

 

蒼麻「恐怖かー・・・んじゃ、俺式療法その3。コレはとっておきなんだが・・・」

 

ヒヅチ【何をやっている、敵は目の前に居るんだぞ?!早急に片をつけろ!!】

 

竜胆「・・・・・・!!」

 

言われて首を左右に振る竜胆

如何やら一喝が効いたみたいだ

再度こちらに向き直る

小細工はもう通用しない様だ

学習能力高えな、オイ

 

蒼麻「あーあ、せっかく楽しんでたのに・・・。まぁ、急かされてるんなら要望に沿いましょうかねぇ」

 

茶番は終了

ここからが本番である

本当、三文芝居であった

 

 

第拾伍界

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