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獣は自らを制御出来ない

其は壊れたラジオだ

ノイズを撒き散らし不快にさせる

だから叩いて直す

それがキッカケとなればいい

直る要因は些細な事だ

何時だって

―――事象は唐突に現れ、そして消える

 

蒼麻「うお゛っ!?」

 

地響きと共に何か大きなモノが上空から飛来する

如何にか人の形を留めている物体

 

赤「aaaa・・・guaaaaaa・・・・・・rrrrrrrr」

 

蒼麻「お前、戻化(れいか)してんじゃねえか!何があったんだよ?!」

 

くすんだ金色だった瞳は

穢れた血を浴びた所為で赤黒く変色している

そこに正気等無い

ソレに自我等無い

獣は初めから獣だ

それが呼び起こされただけ

 

ヒヅチ【スキが多過ぎるぞ、如月蒼麻?!】

 

蒼麻「っ!?」

 

蒼麻にとっては最大の失敗

それはスキを作ってしまった事

ヒヅチにとっては千載一遇のチャンス

それは相手がスキを作った事

第三者にとっては決められた行動

それは“割り込んで来た者を葬る”事

 

ヒヅチ【づ、ぐっ・・・何を・・・して・・・、人形ごと、き・・・がっ・・・!!】

 

「俺はただ定められた事を守っただけだ」

 

蒼麻「お、やっぱ操主はソイツか。これも立派な呪詛返しだし、只じゃいられないぜ?」

 

赤から目を離さずに言い放つ

こちらからは見えないが笑っている事だけは確かだ

「他人の不幸は蜜の味」って言うし

 

蒼麻「それはそうと、漸く元に戻ったみたいだな竜胆」

 

竜胆「視界だけは最初からオールグリーンだからな。まったく・・・操られているからって、お前も外道過ぎるんだよ」

 

蒼麻「俺は何時もと変わらないぜ?♪」

 

竜胆「あー、こういう時如何いう反応すればいいんだ?」

 

蒼麻「笑えばいいんじゃないか?♪」

 

竜胆「何つーギリギリアウトな発言・・・本当変わってないな、お前」

 

蒼麻「振ったのはオマエダケドナー」

 

竜胆「ハッ、違えねえ」

 

そこまで言い合って目の前の問題を直視する

一人の男

いや、この状況からすると一匹の獣か?

 

蒼麻「如何するよー?」

 

竜胆「お前等って確か殺しても再生するよな?」

 

蒼麻「おう、塵になっても完全再生可能が最大のウリだ」

 

竜胆「んじゃあ、正気を取り戻すまで、殺して、殺して、殺しまくる!」

 

蒼麻「うへぁ、容赦ねぇ発言だこと。でも乗った、多く殺した方が天神焼き奢るって事で」

 

竜胆「いよぉーし、言ったな?この勝負俺の完封勝ちだぜ!」

 

蒼麻「そういうのはパワーアップした俺の蹴り技を見てから言うんだな!」

 

二人して駆け出す

この二人からしてみれば

例え世界の破滅だろうと、弟分の暴走だろうと些細な事

むしろ賭け事の対象である

まぁ、それもこの二人の間でだけなのだが・・・

 

 

第拾陸界

 

 

竜胆「渾身の一撃ぃぃるあああぁぁぁぁっ!!」

 

竜胆「怒涛の衝撃ぃぃぃぃぃっ!!」

 

竜胆「ぜえ、ぜえ・・・今必殺の!完璧なまでに死角からのローキッぐぶろあぁっ!!!?」

 

ゴロゴロと転がっていくバカ一名

反撃を許さない程の連続攻撃

しかし、それは全て防がれている

 

蒼麻「・・・操られた所為でバカに拍車が掛かったのか?」

 

竜胆「手術で能力上昇に失敗したみたいな言い方すんじゃねえよ・・・」

 

ほら、某パワ○ルプロ野球みたいにさ

やった事無いけど

 

竜胆「しっかし、何だよこの耐久性の高さはよぉ?何処の世界に玉鋼を砕く蹴りに耐える奴が居るんだよ?」

 

蒼麻「クソジジイによると、理論上どんな金属よりも耐久性があるらしい」

 

竜胆「そういうの矛盾って言うんだぞ、知ってるか?」

 

金属と人体の構造は違う

そもそも比べる対象がおかしいのだ

つまりはそういう事である

 

蒼麻「まぁ、俺もそう思って「理論なんて戦いに関係ねえ」って言ってやったがな」

 

竜胆「んで、無駄話してる間に第二段階に進んでるみたいだが?」

 

赤「aaa・・・GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

 

雄叫びを上げる

筋肉は見る見る内に硬質化していき

肩から、二の腕から、手の甲から無骨な骨が突き出す

肉の下にある骨ではない

全く別の有り得る筈の無い赤熱した骨

 

蒼麻「おかしいな、あんな姿見た事無いんだが・・・」

 

竜胆「其処に転がってる奴の所為じゃないのか?」

 

蒼麻「それは無えよ、此処の『特異性』知ってんだろ?」

 

竜胆「あー・・・・・・領域内の常時浄化だっけか」

 

蒼麻「そ。つー訳でバッドステータスは完全無効」

 

人差し指をピッと立てて説明する蒼麻

そうなると何が原因でこうなっているのだろうか?

それが疑問であり最大の問題である

 

 

第拾漆界

 

 

赤の変異は既に目に見えるレベルを超え

精神に支障をきたすレベルになり始めていた

 

蒼麻「・・・ぐぅ・・・っ!?」

 

竜胆「んだ、こりゃあ?!頭が割れるっ」

 

収束型螺旋音波、超音波の一種である

それは鼓膜を簡単に破り直接脳に届くというもの

まだこの二人は人外としての能力がズバ抜けて高いので頭が痛い程度で済んではいるが

他の者が彼等と同じ症状で済むという事ではない

一般的な人外でも両の耳から多量の出血を伴う

この音波から逃れる術は同じ領域内に位置しない事である

で、あるからして・・・

 

藍「あ・・・あぁ・・・」

 

影裏「ヅッ、ガ・・・ハッ・・・」

 

白帝「こ、これは・・・」

 

嘆き「我が主!お気を確かに!!」

 

耐性の無い者、一般的な人外は得てしてこうなる

これは例え地下に居ようとも関係が無い

無差別なのだ

 

蒼麻「!?、神社の影響力が落ちてやがる・・・まさか、コアが・・・」

 

神社の全ての機能を一手に引き受けるコアは生きている

生きているものは全て音波の餌食である

故に神社本来の影響力が落ちる事は必定

事態は徐々に悪い方に向かっていると言っても過言ではない

 

蒼麻「(如何する?!如何しろってんだよ、こんな状況で!!)」

 

「何をやってる、テメエ等っ!!」

 

大音量が響いた

怒気を含んだ叫びに蒼麻と竜胆は同時に振り向いた

石段の頂上に

鳥居の下に

その人物は居た

 

 

第拾捌界

 

 

橙に近い髪の色

相手を威圧するかの様に吊り上った目

そして怒りの表情

彼は本気で怒っている様だ

 

秋「人が町内会の集まりに行ってる間に、害敵を入れるわ、物は壊すわ、終いには神社の機能が無力化されてるわで・・・・・・ん?」

 

ふと、その一人に気が付いた

同じく橙に近い髪の色

襟足から伸びる一束

これまた同じく吊り上った目

そして自分に酷似しているが実際は驚いている表情

 

秋「親父・・・?」

 

竜胆「秋・・・?」

 

蒼麻「感動の親子の再会のトコ悪いが次の攻撃来るぞ、避けろ!」

 

容赦無く振り下ろされる一撃

先程まで立っていた地面を抉る

それは無骨にして兇悪

自我を一時的に失っているとはいえ

赤の一撃はあまりにも危険過ぎる

 

秋「ええい、一体何が如何なってるのか説明しろ蒼麻!」

 

蒼麻「何らかの事情で神社の浄化がストップでバッドステータス蔓延のうえ、抵抗力の低い赤が侵食されてる!」

 

秋「そういう事か、納得だ!」

 

竜胆「しかし如何するよ?このままじゃジリ貧だろ」

 

秋「一度殺せば侵食の活動は一定時間停止する筈。その間にコアを修復すれば或いは・・・」

 

秋は確信と憶測を入り交えて話す

彼はコアが如何いうものなのかを知らない

だからそんな事を簡単に言えるのだ

 

蒼麻「よし解った、コアはお前に任せるぜ。但し、どんな事があっても全部受け止めろよ?!」

 

蒼麻は懐から一つの鍵を取り出す

それは神社・コアへの扉の鍵

蒼麻の部屋の畳の下

空間を歪めて作られた秘密の入り口

鍵を受け取ると秋は足早に向かう

 

竜胆「いいのか?俺の息子にそんな重要任務を預けて」

 

蒼麻「遅かれ早かれ知る事になる。それなら深く考えないでいい、今で良いんだよ」

 

竜胆「はん、お前の考えは俺には理解出来んね」

 

蒼麻「一生無理だろうな・・・さて足止めといきますか!」

 

いわゆる臨戦態勢というやつだ

今の今まで攻撃して来なかった事は疑問だが

少しだけ自我が残っているのでは?という事にした

 

 

第拾玖界

 

 

社務所の二階

階段を上って左に折れたすぐにある部屋が、蒼麻に宛がわれた部屋である

神社という領域に相応しい純和風様式

襖を開けた先にあるのは畳張りの床

桐箪笥、それに今ではあまり見ない土壁である

その方が落ち着くと言うので、改装の際に業者にそれとなく言っておいた

―――結果、壁が落ちるわ落ちるわ

掃除が半端じゃないと愚痴をこぼした事もあった

その部屋の畳の下に神社の中核がある等知らなかった

 

秋「神主暦は蒼麻より長いのにな・・・」

 

まさか空間を歪めて神社地下と間接的に直結させるとは

人外も千差万別と聞くが、これ程とは思ってもみなかった

というか、最早これは無差別に等しいだろう

神主だからといって、敷地を勝手に如何こうしていいものではない

そういうのは先ず土地の管理者に話を付けてからの方が・・・

そうやって考えていると、壁と壁の間にある柱に不自然な亀裂があるのに気が付いた

なぞってみると下方にスライドし、一つのボタンが現れた

 

秋「これがスイッチ・・・か?」

 

正直確信は無い

鍵を渡されて、入り口を開けるスイッチがあると手短に言われただけだ

このスイッチを押した事により、全く別の物が作動したとして自分に過失は無い

むしろちゃんと説明しなかった蒼麻が問われるだけだ

押すと畳の一部がせり上がった。間違い無かった様だ

畳を持ち上げると金属製の錠前付きの扉があった

鍵を差し込むと、難なく回る

その金属製の扉を押し上げた途端―――

 

秋「地下に通じていると言っただけの事はあるな」

 

―――とても澄み切った風が何処からともなく吹きつけた

備え付けの階段は無骨な切り出しただけの石

凸凹ではないにしろ歪んでいる訳でもない

全ての面が垂直に等しい鋭角で構成されており

決して自然に出来たのではないと見て解る

 

秋「何処までも闇だな。ヒカリゴケでも生えてれば少しは歩き易いんだが」

 

それは結局一般論だ

今でこそ例外だが、この地下の空間は本来外部との接点を無くし

誰からの干渉にも触れさせない様にしてきた代物

人は闇を恐れる、という理論を元に設計された石の道には

道標と呼べる物は設置されるべきではないのだろう

 

秋「・・・開けた場所に出たな。終点という事か」

 

秋「此処にコアがあるという話だが・・・」

 

「―――時期は最終段階に移行。冬が過ぎ行き、新たな春の到来を以って次の段階に進む」

 

中央から声が聞こえる

何処かで聞き覚えのある声

それは懐かしさを感じるもの

 

「神社の機能不全によるコアの異常。セントラルコアを守るオブジェが不能となった時、この神の社はその力を行使出来ない」

 

秋「誰だ?」

 

「私を誰と問う貴方は誰?この場所に至れるのは極わずかの者のみ。貴方は蒼き風?それとも昏き狼?」

 

秋「豊神・竜胆が嫡男、秋だ」

 

「そう・・・貴方は知ってしまうのね。私が此処に居る事を、私が此処から離れられない事を」

 

秋「何の事だ?アンタは何者なんだ?」

 

千里「私は豊神・竜胆が妻、千里」

 

秋「お袋・・・?」

 

千里「そうよ、貴方達の前から姿を消した原因はこういう事。神社の結界に取り込まれ、成すすべ無くコアとしての機能を受け持った哀れな女」

 

いまいち状況が理解出来ない

目の前に居る女性が自分の母親である事は確かだ

突然自分達の前から父親に続いて姿を消した事も正解だ

だが、何故今の今まで連絡を寄越さなかった?

結界に取り込まれたというのは如何いう事だ?

そして、何故蒼麻はこの事を黙っていた?

 

千里「蒼麻を責めないでね、黙認を課したのは私だから。貴方は知ればきっと切り離そうとするに違いないと思ったから」

 

秋「当然だ。自分の母親が近くで苦しんでいるのに、それを助けないなんて外道にも等しい!」

 

千里「でも、そうすると、この神社が押さえ込んでいるモノを解放してしまう。そんな事になるのなら私はこのままの方が良い」

 

秋「お袋は・・・お袋はそれで良いのかよ?!」

 

千里は静かに微笑を浮かべる

 

千里「それが私の運命、私が幾年月を経た上でそれでもいいと、ちゃんと考えて出した結論。だから、良いの」

 

秋「この事を親父は?」

 

千里「知ってるわ。こうなった数日後に蒼麻が連れて来た。やっぱり今の貴方みたいにひどく狼狽したけど受け入れてくれた」

 

秋「・・・・・・そうか」

 

千里「・・・此処から上の様子は大体分かるわ。時間が無いんでしょ?」

 

秋はその言葉を聞いて、思考を切り替える

現在陥っている状況が無かったら、彼はここまでの取捨選択は出来なかっただろう

親子の問題だ。そう割り切れる物じゃない

 

秋「如何すればいい?」

 

千里は話し始めた

 

 

第弐拾界

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