top of page

それがどんなに難しい事か

この場に邪狼が居れば詳細に説明してくれただろう

 

秋「刀剣の生成?」

 

千里「そう、この神社の結界の構造を知ってるわよね?」

 

秋「だからそれはコアが・・・」

 

千里「そうじゃなくて、もっと根本的な。いわば最も初期の」

 

秋は思案する

最も初期の結界

それに該当するのは何時か蒼麻に返還を求めた剣の事

五本の神剣聖剣魔剣を支柱とする事で

神秘の盾でもって防ぎ守る

 

千里「剣の所在については蒼麻や天星神から聞いてるわ。だから貴方には新たに支柱となる剣を二振り生成して貰いたいの」

 

秋「ちょっと待った!それこそ、そういうのは神である邪狼の役割だろう?!」

 

千里「あの方は今この次元にいらっしゃらないから貴方に頼んでいるの」

 

秋「そんなのやった事もないんだけど・・・」

 

千里「簡単よ、想いと剣のイメージを思い浮かべればいい。きっと具現化してくれる。それを成すだけの力が貴方にはあるもの」

 

秋は躊躇った

そんな神の代行の様な行為を自分如きが行っていい物かを

しかし、確かに今此処に邪狼は居ないし

自分にそれだけの力があるのなら、例え駄目もとでもやってみる価値はある

そうして行き着いた答えをその身に刻む

覚悟は決まった。これでも神の端くれ、やって出来ない事などあまり無い筈だ

 

秋「・・・・・・分かった、やってみる」

 

千里「それじゃあ、時間が無いからすぐに始めるわよ」

 

まず剣の形状をイメージする

刀剣にも様々な形状がある

尖っている、先が丸い、刃が潰れている、片刃、両刃・・・

次に付加する能力

力ある剣にはそれ相応の能力が備わっている

秋は考える。どんな能力が最も必要かを

一振り目には「必要な時以外では全く切れない」という特徴を持たせた

二振り目には「悪を以って正義を成す」という理念を植えつけた

最後に想い

その刀剣に込める想いが強ければ強い程

発揮される力は何よりも強い

 

秋「・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・出来た・・・」

 

千里「これが・・・貴方の創った剣」

 

想像以上に苦しい

全身からは汗が噴き出し服を濡らす

手は震え、焦点は定まらない

創造された刀剣は二つの神秘

妖刀・不知火。使い手の意思に共感し、その身を振るう真っ直ぐな刀

呪刀・零文。完成にして未完成、使い手によってその身を変える禍々しく反った刀

今、五刃と呼ばれた結界の支柱は甦り

再びこの神の社をその力で守り抜いていく

 

秋「・・・はぁ・・・は・・・ぁ・・・・・・」

 

倒れる

心身ともに疲れ切ったのだろう

彼はやりきった

大事な家族を守る為に

目の前に居る母親に成長した自分を見せる為に

 

千里「まったく・・・ちっとも変わらないわね(苦笑)」

 

彼の顔には喜びが張り付いている

幼少時に自分の事を最も理解してくれた母親の言葉

それは彼にとって最高の褒め言葉である

 

 

第弐拾壱界

 

 

境内から奥の道場までを澄んだ空気が広がっていく

浄化作用のある空気だ

これが発生している空間では

どんな異常でもたちどころに除外されてしまう

 

竜胆「俺の自慢の息子はやってくれたみたいだな」

 

疲弊しきった表情で言う

あれから一時間以上が過ぎた

もう少し早く機能が復旧するかと思っていたので

完全に力の入れ所を間違えたらしい

逆に蒼麻は力を溜めている

浄化作用のある空気が発生し始めたといっても

充満するのに時間は掛かる

その隙間を埋める為に自分が動くのだ

大きく息を吸い、吐き出した直後に走る

 

竜胆「あ、おい、蒼麻!」

 

竜胆は油断している

前述した通りまだ充満しきってはいないのだ

気味の悪い姿になっている赤が、その変わり果てた拳を繰り出す

突き出すと同時に衝撃波も出している

頬を風の刃が裂いていく

血が出ても気にしない

もとより傷付く事なんて気にしていない

 

蒼麻「超天動っ!!!!」

 

それはあまりにも体に負担の掛かる技

だがそんなのは関係無い

生まれた時から、産み落とされた頃から、この世界に二人と居ない唯一無二の弟が苦しんでるのに

兄貴の俺が痛がってちゃ示しが付かねえんだ

苦しんでるってだけで心が傷んで仕方無えんだ

だから待ってろよ

今お前を苛んでる苦痛から解放させてやる

異形の体から抜け出させてやる

元に戻してやる

また一緒に笑おう

また一緒に馬鹿な事をしよう

また一緒に殺し合おう

お前の作る料理は美味しいから

お前の愛する人達が待ってるから

―――お前は俺が誇る事の出来る最高の弟だから

 

蒼麻「貫射っっっっ!!!!!!!!」

 

例えるなら暴風だ

螺旋状に集まった風の塊

その中を一筋の光が疾駆する

一点目掛けて

ああ・・・それは兄が弟にする最高の目覚めの一撃だ

主観者を置き去りにしていたこの舞台もそろそろ幕引きの時間

文字通り貫かれた体を見下ろす男の、何と優しい瞳か

 

赤「ああ、そうだった。・・・オレには帰るべき処が在るんだった」

 

蒼麻「やっと正気に戻ったかよ、愚弟」

 

竜胆「そうか、体を破壊して内側から浄化したのか」

 

蒼麻「お前にしちゃ上出来な考察だな」

 

感心した様にカラカラと笑う

その体の所々は技の反動で崩れている

もし・・・これは仮説であるが

もし、マギドライブ状態で貫射を放った場合如何なっていただろうか?

 

蒼麻「存在情報の消滅。皆の記憶に残されたまま、世界の記録から削除ってトコか・・・」

 

だから運が良かった

運なんて希望的観測未満にしか過ぎないが

それでも彼は非常に運が良かった

必要以上の力は身を滅ぼす

もし状況が違ったとしても、彼は迷わず使っただろう

己にとっても危険であるその技を

必ず・・・最愛の人の為に。そう、必ずだ

 

 

第弐拾弐界

 

 

事後処理が始まった

蒼黒神社を襲った集団の内三人が死亡

生き残った一人も片腕を無くした

この事件を見ていた、もしくは背負っていた主観者は一体誰なのだろうか?

主観者を放置し、やたらと客観者や第三視点者ばかりが取り上げられていた舞台

そんな物を見て観客は喜ぶだろうか?

物語に一貫性はあるものの、何時まで経っても主人公は表に戻って来ない

脇役ばかりが台頭するストーリー

これは大活劇でも夢物語でもない

そうだ、これは只の喜劇だ

ストーリーテラーの自慰だ

最後まで脇役だけが登場する三文芝居

 

影裏「マダ・・・終ワッテオラヌ」

 

ああ、主役はこうでないと

このまま引き下がれば面目丸潰れ

後が無い役者は窮地に立たされて諦め首を括るのだ

そんなハッピーエンドは要らない

それならバッドだ。バッドで良い

バッドなオブジェでハッピーを引き立たせる混沌とした舞台で良い

 

影裏「魔界ノ問題ハ妾ノ手デ終ワラセル。ソレガ、一番良イヤリ方ジャ」

 

三体の屍骸

静かに炎を点す

浄化の空気が屍骸から放たれる死臭を掻き消す

これで終わった

舞台の幕は切って落とされて始まり

役者が数名居なくなった事で終焉し

主役自らが全てを終わらせた

何て凄惨なのだろう

誰も彼もが三人の役者を覚えない

忘れてしまえばいいのだ

最初から物語の成立しない舞台なんて、壊して無かった事にしてしまえば良い

 

影裏「冬ガ終ワリヲ連レテ来ル。ソシテ悲シミモ連レテ行ク」

 

そうしないと春が来ないから

 

その日から影裏は、以前にも増して仕事に取り組む様になった

自分の愛する子供達を守る為なら

彼女は喜んで魔物に戻るだろう

これは、一人の女性の物語

主役を蔑ろにして、脇役達が場を引っ掻き回し、それでも主役は最後を飾った

これはそんな物語

 

 

外伝・影裏編

bottom of page