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―白帝サイド―

 

ガリョウ≪娘よ、名を名乗れ。仮令死にゆく者であろうと、名を聞いておかねば武士が廃る≫

 

白帝「豊神・竜胆が実子、白帝。その自信・・・我が剣で斬り伏せましょう」

 

ガリョウ≪我が名はガリョウ。何の因果かは知らぬが、面白き死合いとなる事を望もうぞ≫

 

両者が弾ける様に離れる

距離は重要な事だ

死角から斬り放つか

敢えて目視出来る距離から斬り結ぶか

それは幾通りもあり

それは幾通りもの死があるという事

 

ガリョウ≪(ほお・・・若いと思ったが中々の洞察力。いや剣士ならば当然の事か)≫

 

白帝「(隙があまりにも無さ過ぎる。これでは逆に誘われている様だ。懐に飛び込むか?いや、それでは罠に掛かったようなもの・・・)」

 

試合というものは単なる遊びの延長に過ぎない

反面、死合いというものは殺すか殺されるか

次の手を読み、如何に立ち振る舞うかの取捨選択である

騙されたとして口が訊けないのであれば意味が無いだろう

死合いというのは事実何をしてもいいのだ

許される、許されない、ではない

命が掛かっているのだから全てが承認の範囲内だ

 

ガリョウ≪(この腐敗した世にこれ程の猛者が居ようとは・・・)此度の死合い、そなたと打ち合える事感謝するぞ!≫

 

白帝「(この様な殺気を放てる者が居るとは・・・世界は広いという事なのですね)私もです。お互い、悔いの無い死合いになる事を望んで・・・」

 

両者の得物が打ち合わさる

火花を散らす剣劇

汗腺から熱気を帯びた汗が噴き出す

蒸気になって、まるで湯気の様だ

ガキィッ

まただ、また火花が散る

玉鋼から姿を変え

鍛えられた鋼の得物が互いを打ち鳴らす

 

ガリョウ≪・・・・・・ふっ・・・≫

 

白帝「・・・・・・くっ・・・」

 

上から、下から、袈裟から、右から、後方から、左から、前面から

繰り出される剣のその多くは命を刈り取る為の術

知識ではない。経験からくるものだ

何処を如何突けば致命傷になるか

何処から如何斬れば足手まといになるか

如何にかわせば逝き遅れるか

彼は最早剣士という範疇ではなかった

剣は既に己の手足であり

体はそれを扱う為の付属品である

頭があればよかった

考える為の脳があればガリョウという個体は存在出来た

そうだ、彼は剣士ではない

―――“剣”そのものなのだ

 

ガリョウ≪この時間はとても充実するが、流石に長過ぎる。もう終わりにしては如何だろうか?≫

 

白帝「いいでしょう。もとはと言えばそちらが始めた事、拒む理由は此方にはありません」

 

ガリョウが静かに剣を構える

初めてだ。死合って初めてこの男は構えを執る

見る者が見れば、それは抜刀の様だと言うだろう

ソレは独特な構えだった

鞘を片手で持ち、それに平行する様に抜き身の剣を持つ

位置が違ったとしたら確実に鞘の中に在るだろう

 

対する白帝の構えは一般的なもの

否、剣先が違った

刃先は上を向き、これでは峰で相手を打つ事になる

左手は柄に届くか届かないかの位置

両手持ちの白帝からしてみれば、それは何の意味を成すのかが分からない

 

地が揺れた気がした

駆けたのはどちらが先だったか

遠かった距離もあまり意味が無かった

二、三駆けた所で後二メートルと無い地点で

 

ガリョウ≪―――克、逸穿斬≫

 

白帝「神剣技・神羅鬼―――!!」

 

何もかもが爆ぜて見えた

 

 

第陸界

 

 

―影裏サイド―

 

シジマ「ふむ、ふむふむふむ、見事な、実に見事な展開だよ。蛇と人との融合体に魔界の姫とは・・・実験用のサンプルとして持ち帰りたい位だよ」

 

影裏「ソノ口ヲ閉ジロ」

 

シジマ「私の持っている機械人形では精密な動作は難しくてね。君達の様な素体があればヤツラの100倍は働いてくれるだろうなぁ」

 

影裏「ソノ口ヲ閉ジロト言ッテイル!」

 

影裏が激昂する

人の命を何とも思わない輩に対して

己が最も愛するモノに対しての侮辱に対して

彼女は魔界の者

その根本を正すならば彼女は魔物だった

人と魔物は相容れぬ存在

それでも彼女は人を愛する事を選んだ

見返りなんて求めていない

触れ合って少しでも笑ってくれたらいい

それが彼女の進む道

それを壊すというなら

彼女は喜んで魔物に戻るだろう

 

シジマ「ハハハハハ、これはこれは・・・言ってはならぬ事を言ってしまった様だな」

 

影裏「貴様ハココデ滅ボシテクレルワ!!」

 

シジマ「ハ、ハハハハ・・・面白い、実に面白いなぁ。私に牙を剥くのか、歯牙に掛けるというのか。良いだろう、君の力を見せてみたまえ!」

 

シジマは本当に楽しそうに笑う

笑う、嗤う、哂う、叫ぶ(わらう)、啼く(わらう)

狂気染みたその眼は最早相手を人として見てはいない

ただの実験対象だ

一つの研究材料だ

だから、容赦等しないだろう

だがその方が好都合だ

影裏にとっては

彼女にとっては化物と戦った方が心が痛まない

 

影裏「業魔回路、フルドライブ―――」

 

シジマ「轟け、ザース!蠢け、ヒダルア!!犇け、デュネマ!!!」

 

影裏「―――魔ヲ以ッテ魔ヲ征ス。貴様ノ居テイイ世界ハ此処デハナイ」

 

 

第漆界

 

 

それぞれが各自の役割を果たしているこの時

残った二人はただ静かにその場に立っていた

周囲はまるで時間でも止まったかの様に無音

 

蒼麻「殺り合う前に一つだけ聞きたい」

 

ヒヅチ【何でしょう?】

 

蒼麻「羊水炉を使って何をする気だ」

 

ヒヅチ【魔界の征服ですよ】

 

蒼麻「嘘だろ、それ」

 

ヒヅチ【何を根拠にその様な事を?】

 

蒼麻「別に・・・あんだけ強い部下が居るんだから、そんな小せえコトで満足しねえと思っただけだ」

 

ここにきて初めてヒヅチの眼が微動する

図星、というやつか

 

ヒヅチ【なら、何だと思いますか?】

 

蒼麻「知らねえよ。リヒトだけで終わるとは思わねえが、あれ以上っつーとスケールの幅がデカ過ぎるからな」

 

ヒヅチ【・・・成程。一つ謝罪する事があります】

 

蒼麻「あん?」

 

ヒヅチ【貴方を過小評価していました。まさかここまで鋭いとは・・・】

 

蒼麻は鼻を鳴らしそれに答える

 

蒼麻「はっ、それはこっちの台詞でもあるぜ。少数精鋭で乗り込んで来るなんてバカの極みだからな、相当なマヌケかと思ったんだが・・・再評価する必要がありそうだ」

 

ヒヅチ【貴方にその様な事を言って頂けるとは、最高の名誉ですね】

 

静かに構える蒼麻

自然体からの構え

無駄な力を入れず、重心も安定させ

普段猫背気味な背骨も真っ直ぐに正し

正面で相手を捉える

 

蒼麻「だけどな・・・それとこれとは関係無え。テメエはここで潰す!」

 

ヒヅチ【こちらもこの様な所で足を止められている暇は無いですからね。失礼ですが、貴方はここでご退場願います!】

 

強烈な力の波動

足の裏から

指の先から

頭の頂から

腹の底から

体の芯から

幾種の力の波動が溢れ出る

両者共最強の位

だが、忘れてはいないか?

―――彼は、銀狼は、人を超えた存在だという事を。

 

 

第捌界

 

 

火花が散った

それも目に見える程に巨大な火花が

刀身が空を舞う

月夜に反射して銀色に輝いた

舞ったのはどちらの剣だっただろうか?

 

ガリョウ≪・・・見事だ≫

 

“剣”は笑う

少女は何も出来ず、それでも尚、呟いた

 

白帝「『mourn blade』――――――set,up.」

 

それは如何なる奇跡か

刀身を失った先程の剣ではない

黒き刀身を持った黒き躯の剣

それは、神話の時代に魔剣と云われた物

 

白帝「神剣技・始音」

 

ザクッ、と不快な音がした気がした

それは肉を斬る音

ギチッ、と不快な音がした気がした

それは骨を断つ音

“剣”の右腕が消えた

否、目に見えない速さで斬り飛ばしたのだ

動作は一瞬

迸る血液すらも持っていく

抜き放った時、それは鞘に納まる時だ

 

ガリョウ≪・・・・・・ああ、実に見事だ。これで我も漸く・・・≫

 

静かに仰向けに倒れる

剣を凪ぐ

血糊を落とし、正面から見て彼女はこう言う

 

白帝「貴方も実に見事な剣士でした。また斬り結ぶ日を楽しみにしております」

 

男はその言葉に目を見張り

やがて静かにポツリと呟いた

 

ガリョウ≪本当に何処までも真っ直ぐな心を持つ剣士だ≫

 

死合いは其処で終わる

だが誰かが死んだ訳ではない

男は一人の剣士に戻り

少女は同じ道を行く同士を見付けた

これも又、一つの終わり方

 

 

第玖界

 

 

ホングシ『ブヒャーヒャヒャヒャ!麻呂の腕の中で死ねる事を誇りに思うでおじゃる!!』

 

脂ぎった巨躯に包まれるのはあまりにも不快だ

いや、最早不快を通り越して殺意すら覚える

これが頼子の体だったら・・・という考えを振り払い

赤は拳を突き入れる

ボグッ

妙な音がした

 

ホングシ『無駄ーでおじゃるよー。麻呂の引き締まった筋肉にはそんな攻撃効かないでおじゃるー♪』

 

嬉々とした表情にマジでウザったい喋り方が妙に怒りを募らせる

・・・コイツ、ここで■してやろうかな?

ああ、そうだな。こんな奴は見ていたくないからな

そうだ、■してやろう

■■にして、もう話が出来なくなる位に変えてしまおう

そうだ、それがいい

その方が良いに決まってる

そうだ、“俺”にはそれだけの力がある

 

赤「!?、くっ、今オレは何を考えて・・・」

 

先程までの自分が霧散する

冷たい感覚だった

体の芯に大きな氷柱を入れられた様な感覚

朦朧としそうな意識

だが目の前に居る奴が否応無く現実に引き戻してくれる

こればっかりはコイツに感謝しないといけないな

好きにはなれそうに無いが・・・

 

ホングシ『如何した、如何したーでおじゃるー!そんなに麻呂の抱擁は快感であったでおじゃるかー?ブーヒャヒャヒャヒャー!!』

 

マジでウザいな、コイツ

蒼麻じゃないが本当に潰してもいいんじゃないか?

そんな考えが頭をよぎる

だがそこまでの暴挙はしない

未だ人間としての思考は保っている

 

ホングシ『早く潰れるでおじゃるー。じゃないとあの建物を壊しに行けないでおじゃるよー』

 

・・・・・・コイツは今何と言った?

あの建物?

コイツの視界にある建物でそんなに距離が離れていないものは

―――社務所だけ

ぞわっと体中の毛が逆立った気がした

あの中には自分の大切な、頼子との間に出来た大切な、目に入れても痛くないとさえ思った娘、が

 

ホングシ『まったく、頑丈にも程があるでおじゃ・・・グペッ!?』

 

赤「aa・・・aaaaaaa」

 

ホングシ『何でおじゃるか?!目の前が真っ暗でおじゃるよ!?あ、あああ頭が!!麻呂の頭がー!!!!』

 

あの子に手を出すのなら

あの子を手に掛けるのならば

“俺”は一生貴様を許さない

ドクンと心臓が一際大きく高鳴った

久しく忘れていたこの鼓動

思い出さない様にしていたあの日の自分

まだ“オレ”が“俺”だったあの頃

 

赤「aaaaaa・・・・・・GAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

 

ホングシ『麻呂が、この麻呂が、こんな貧弱なヤツに・・・負ける筈が無いでおじゃるー!!』

 

必死に右手の圧迫から逃れようともがく

もがくがそれを由としない獣

目の前に居るのは何だ?

そんなに金色の瞳を輝かせて

こちらを見ているのは一体何だ?

獣だ。それは獣、標的を狩る獣だ

獣だ。それは獣、容赦無い自然の摂理

獣だ。それは獣、起こしてはならぬ災厄の根源

諦めろ、お前は切ってはならぬ封を解いてしまった

諦めろ、お前は言ってはならぬ言霊を吐いてしまった

諦めろ、お前はこの獣から決して逃げられはしない

十字を切って天に別れを告げろ

此処が、この時が、お前の最後の舞台だ

 

ホングシ『嫌じゃ、嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!こんな死に方は嫌でおじゃるー!!』

 

バキッ

骨が砕ける音がした

鮮血が滴る音がした

力無く垂れ下がる腕があった

天を向いたまま動かない瞳があった

―――血をその身に浴びた一匹の獣が其処に居た。

 

 

第拾界

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