物心ついた頃からそうだった
いつも一人で過ごしていた子供時代
親も無く兄弟もおらず、親族すら居なかったあの頃
闇なんて怖いとも思わなかった
言うなれば、闇は最初に出来た友達だった
【闇の死神祭-サイドR-】
重箱を入れた風呂敷包みを右手に闇の中を歩く
隣にはこの数十年共に生きてきた妻
その後ろに今年二十になる実の娘と年齢不詳の義理の娘
どちらも黒髪がよく似合う子達だ
・・・ちょっと今のは親バカ過ぎたな、反省反省
夜深「お母さんの実家に行くのって初めてだね」
リィス「正しくは古巣だな。私の実家は死んだ後に取り壊されただろうし・・・」
黒音「ああ、そういえば母さんは生前は人間だったんですよね」
リィス「うむ、まだ女性とはいえない年齢でな。親に買って貰った文庫本をいつも大事に抱えていた」
斐綱「親・・・ねえ」
リィス「心配するな、親にはなれなくともこれから先も私はお前を支えて行くさ。唯一無二の伴侶としてな」
リィスはニコリと笑う
出逢った頃と比べれば、彼女はガラリと変わったと思う
斐綱「この場に他の奴らが居なくて良かったと思うよ」
ポリポリと頬を掻く俺に夜深は一言
夜深「お父さん、こんな所に来てまで惚気見せないでよ。恥ずかしいから」
斐綱「恥ずかしい!?・・・い、いや、俺もこんなトコ見られたら嫌だけど。ってか夜深、最近父上って呼んでくれないよな」
夜深「だって私もう二十歳だよ?そろそろ親離れの時期だと思うんだ」
ぐはっ!
ああ、そうだよな。いつかはこんな日が来るとは思っていたさ
産まれた子供が女の子だった時点で理解はしていた筈だ
だが、いざその瞬間に立ち会うとこんなにも衝撃が走る物なのか?!
これが思春期という物か!これが二十歳の娘の破壊力か・・・
黒音「あの・・・マスター?」
リィス「まあ、こうなる事は夜深が産まれた時から解ってはいたがな」
リィスは額を押さえながら嘆息する
この二人が一緒になったのは彼女が斐綱に恋心を抱いたからだ
まだ彼女が現役の死神だった頃にそんな事があったのだ
彼女は誰にも言った事は無いが、今にしてみるとほとんど一目惚れだったのかもしれない
・・・まあ、その事については取り敢えず脇に置いといて
リィス「斐綱、子供というのはいつか巣立つものだ。そこに男女の隔たりは無く、刻が来れば自ずとそうなる」
斐綱「・・・・・・ああ、分かっているさ、解っている、判ってるともさ。親と子は本を正せば別のモノ、だが愛を注いだ分だけ別れるのが苦しい」
かつて親すら知らない俺が、まさか未来に子を授かり親になる等と
あの頃の俺には皆目見当がつかない事柄だろうとは思うが
一つの別離の後にはまた一つの出逢いがある
斐綱「だから今は!納得がいくまで泣かせてくれ!!」
夜深「や、何でそうなるのさ」
ズビシッ!と、
泣きの体勢に入った俺を神速のツッコミで待ち受ける夜深
夜深「私は呼び方の変更を提訴しただけで、父親から注がれる愛情から全力逃亡を図った訳じゃないから」
斐綱「???」
流石に娘といえど言ってる意味がよく解らないので、頭の上には?マークが三つグルグル回転している
夜深「あー、えっと・・・その、お父さんの事は勿論今だって好きだし、甘えたいとも思ってる訳だけど・・・(////」
リィス「ふむ・・・つまりアレだろう」
黒音「ええ、本を正せば別のモノだとしても・・・やはり親子ですね」
クスクスと二人して笑う
それを不思議そうに眺めていると、後ろの闇からお声が掛かった