パン!
両の手の平を合わせた時の様な音が響いた
闇は深く広大なのでよく響き、反響する物が無いのですぐに止んだ
斐綱「な、何だ?」
リィス「あれは、まさか・・・」
最初に気付いたのはリィスだった
彼女の見つめる先に居たのは一組の男女。長身の青年と年端もいかぬ少女
青年は胸の前で両手を合わせており、どうやら音を鳴らしたのは彼の様だ
「こんなトコで油売ってないでさ、お祭の会場はもうすぐソコなんだから羽目を外すのはそれからでもいいんじゃない?」
妙に軽快な口調で青年は言う
その言葉に誰とはなしに「お前は誰なのか」と問うた
「僕はゼル=レイ。君達と同じ死神にして超ド級の新人さ、マジよろしく!」
効果音としてはキャピキャピ♪
そんな印象の、早い話がなり立ての超ホヤホヤだった
黒音「ふざけるな、そんな死神の仕事のしの字も知らないガキに説法を並べられる権利は【僕】には無い!」
あまりにふざけた態度に昔の自分が飛び出す黒音
今なら威圧感で天使も地に墜とす事だろう
しかしそんな物は何のその、ゼル=レイと名乗る青年は何処吹く風と話を進める
ゼル「まあまあ、いいじゃないの。今日はお祭なんだし先輩後輩とか忘れて大いに楽しもうよ!あ、それと隣の上司ね」
凄いぞんざいな紹介の仕方だった
それでも少女は意に介さぬかの様に無表情であり続ける
感情など何処かに忘れて来たかの様な顔。最早人形のそれである
黒音「貴様、死神に親愛の情が無いとはいえ、仮にも上司の死神にその様な無礼を・・・」
リィス「やめろ黒音、この方にはお前の想いは元々届かん。言うだけ無駄だ」
黒音「姉さん、ですが・・・」
リィス「貴女様とお会いになるのは、我が夫の魂の為に此処に帰って来たあの時以来ですね」
リィスは片膝を立てると頭を垂れて会釈した
あの冷笑の死神とまで呼ばれた女がである
その姿に何かを感じ取ったのか、それまで口を閉じていた少女が言葉を発し始める
「その後は相違無いですか。アレは闇の塊から削り出した物、魂との相性が悪ければ自壊も已む無しでしたが」
リィス「私の隣に居る者を見て貰えれば解りますが、あれから一度として変容はありません。お心遣い痛み入ります、エルミア様」
黒音「エルミア!?その名はまさか、最初に闇から産まれたといわれる・・・」
リィス「そうだ、彼女こそ原初の死神。我々の先達となったモノ」
ゼル「だ~いせ~か~い!でもでも僕からしたら必要な事以外な~んにも喋らない可愛げの欠片も無い女の子なんだよね~」
ぶーぶーと悪たれるゼル
見れば右手でエルミアの頭を乱暴に撫で回している
アナカリス「おいおい、待て待て待て!ちっこいナリしてるとはいえテメエの上司だろうがよ?!ンな不逞な態度でいいのかよ?!」
朱鷺江に下僕同然に扱われているアナカリスが言うと物凄い説得力がある
リィス「コイツの言い分も尤もだ。私からすれば大先輩であり恩人にも等しいヒト、貴様の行為到底許せる物ではない!」
リィスは言うが早いか自身の最も得意とする魔導を展開
シングルアクションよりも早いソニックスペルは呪文を省略する事で即座に発動させられる
彼女が使ったのは「閃」。数多の剣が対象を撃ち貫く魔導
かつて彼女に襲い掛かったモノ達を葬った技
だがしかし、
リィス「馬鹿な・・・なり立ての貴様に防ぐ手などある訳が!?」
そう、全て防いだ
その手には何も持たず、魔導を行使した様子も無く、構えすら取らずに
ゼル「我に死神の魔導など効かん。お前達が持つ技は全て我の後より出でし物、獄焉の劫火も最終零土の氷風でさえも凌いだ我には頬を撫でる微風にも劣る」
斐綱「何だ、様子がさっきと違う?」
朱鷺江「それにエルミアという子も消えた?」
ゼル「何を言う?此処に居るではないか。ゼル=レイの魔導「異心合心」によって我等は融合したに過ぎん」
一同「な、何ぃっ!?」
未完