top of page

闇の中で自己の存在が確定するのを理解した
この闇の中
生まれてくる同胞は約二割
その多くは
無になり
闇の一部になり
果ては零となる
僕と姉さんは完成された個体
躰があり
魂があり
そして・・・

 

「偏にあの男が原因でしょうな」

 

そして僕には憎しみがある
姉さんを僕から奪ったあの男を
僕は絶対に許さない
例え
姉さんに嫌われたって!
僕はあの男を
―――海神斐綱をこの世界から消してやる!!


己が道を踏み外した事を知らず
若き死神は憎しみを抱きながら旅立つ
その心に去来したのは
未だ見ぬ男への激しき怒りと
一欠けらの想い
時として孤独は闇を引き寄せ
心は昏きを求める

 

『僕を置いていかないで――――――』


闇本・求
第零話

 

 

 


本来死神には感情は無い

そんな物は不要だから

でも、そうなると

―――この憎しみは何処から来ているのだろうか?

 

【第一話】

 

目が真っ赤に充血する
それは赤ではなく
紅の鮮血色
死神としての本業を全うするならば
僕はこれから狩りをしに行く
『それ』専門のブローカーは居るのだが
それは最後まで取っておく
まずは見合った人間を選ぶ
判断基準は二つ
喉元が血管が浮き出る程に白い
自己に何も施していない
有るか無いかで全てが狂う
でないと魂が不味いからね

姉さんは僕の憧れだったんだろう
そんな感情は無かったけど
僕にとっては特別だった
死神にとっての親は
自己が確定した闇であり
兄妹なんて有る訳が無かった
狩りの仕方は確定した時から解っている
誰も教えてはくれないし
教える事も無い
相容れないし
そんな気も無い
僕等は最初から
・・・独りだったのかもしれない


第一話
「孤独=世界」

 

 

 


頼る者が居ない事がどんなに辛い事か

自分は痛い程解っている

姉さんはそんな事すら気にしていなかった

【僕】はそれが何だか不満だった

 

【第二話】

 

昏い泥の中に居る
貴女はもがき苦しみ
それでも抜け出せず
段々意識は薄れ
貴女は幻視する
あたたかな家庭
仲の良い友達
開け放たれた門
人生には幾つもの逃げ場があった
走馬灯の様に
グルグルと頭の中を回り
貴女は手を伸ばす
届く筈の無いソレは
―――確かに誰かを掴んでいた

 

服の裾を掴まれた気がした
見ると“ナニカ”の右手が在った
“ソレ”は血塗れだったけど
とても・・・直視出来るモノじゃなかったけど
【僕】は大地に横たえてあげた
片目は穴で
髪は恐怖で白くなり
発声器官は無かったけど
美しいと感じた
狩る側なのに
綺麗だと思ってしまっていた


第二話
「貴女は何だ?」

 

 

 


本を読んだ

それは極ありふれた物語で

苦悩する青年の行動を記した物

結末は描かれていなかった

 

【第三話】

 

始めから無い事を
有ると説明するのは
自分にとっては酷な事であり
それは酷く滑稽な事である
クリアになる脳とは逆に
何時までもドロドロと
黒い靄が立ち込める心の中
自分の根元は一体何で出来ているのか
虚偽?
空想?
夢ばかりを見て
現を直視出来ない
否、見ようともしない
目の前の事を必死に否定し
違う方にばかり逃げる自分
気持ちを曝け出す方法は分かっているのに
その一歩が踏み出せずにいる
ああ、何て愚かなのだろう
一人じゃ何も出来ないくせに
孤独を求めて立ち止まる
皆が道を歩いているのに
自分はソレを外れて蹲っている
未来を考え
過去を振り返り
現在を生きて
ああ、自分は何て愚かなのだろう・・・
誰だって欠陥を抱えているのに
何かに縋ろうと手を伸ばす
―――何も掴めないのに


第三話
「愚かなる原因は何ぞ?」

 

 

 


網膜に焼き付いているのは

何時なのかも忘れた風景

ソレは走っていて

とても自由だった

 

【第四話】

 

無とは何かを語ってみようか
何も無い事
失ってしまった事
生まれなかった事
零とは違う存在
零というのは数字であり個体
簡単に言えばデジタルの世界
0と1が端から端までを流れる世界
始まりと終わりが見て取れる
でも無は違う
有体に言えばモノクロの世界
白か黒かはハッキリしているけど
カラーでは楽しめない世界
導き手が居ない世界
高知能有機生命体も
無起動生物も
第三者創造具現物も
時空間航行者も
神様の様な超存在さえも
無には無い

先に述べた様に
何も居ない、もしくは何も無いという事は
始まりも終わりも無いという事である

この説は『ローレウル十三廻廊』が一柱
雪血華のソフィア=シュタインブルーが挙げた物で・・・
 

ページはそこから先が破り取られていた
まるで何処かの宗教じみた文章
これがかの有名な奇怪生命達が棲む幻想の国の事
そこの貴族の言葉とは・・・

 

「でたらめ過ぎて、喜劇にもならないよ」

 

でたらめなのは仕方が無い
ソレがその国の基盤
髑髏やら狼やらが闊歩する国
人間が人間を愛さない処
ソレが日常であり根本

 

「―――苦しまない世界があの時あれば・・・・・・(【僕】もこうならなかったのかな?)」

 

死神は一人昏い夜空を覗き見る
今宵も静寂が支配しそうだ

 

第四話
「番外」

 

 

 


楽しそうに走っている子供達

その輪の中に入りたいと思ったのは

一度や二度じゃない

それでもその願いは叶わなかった

 

【第五話】

 

日の下を歩くのは
これが初めてではなく
それでもずっとそうして来た訳でもなく
如何も曖昧な記憶が
【僕】を苛む
人間が猿の成れの果てだというのなら
死神は何の成れの果てなのか?
そう考えてしまう時がたまにある
自分が死神である事を
誇りに思うのなら・・・それは
間違いであり
気の迷いであり
考えてはいけない事だけど
何故か思ってしまう
―――死神になる前の自分を

 

第五話
「果ての前」

bottom of page