何不自由なく暮らし
温かな家庭があって
友達が沢山居て
そんな当たり前の世界が欲しかった
【第十一話】
木漏れ日の差す住居群
影の出来た芝生
空気が澄んだ空間
居辛いと思えない
それは此処が人外を受け入れている所以故
元来、人間と人外が一つ所に共存するという事は
何かしらの争いを生む
だが此処はソレすらも無い
―――真に人外だけの世界
そう言ってもいい位だ
街を見渡していると人影が目に留まる
その姿を【僕】は知っている
彼女は・・・【僕】を救ってくれた
厳密には魂を、であり肉体ではないが
「―――姉さん、此処まで来ましたよ」
静かなる怒りを内に秘め、【僕】は彼女を見据える
その横には――――――怒りをぶつける為の相手が只々浮いていた
それでも【僕】はぶつける事が出来ない
当初の目的を忘れていた訳ではない
只・・・只、姉さんがあまりにも静かに佇んでいたから
―――【僕】にも見せない様な幸せな顔をしていたから
何故か涙が出てきて・・・とても、心が洗われた様だった
第十一話
「再会」
完
【僕】に気付いて下さい
貴方の目で見て下さい
貴方の世界に【僕】を留めて下さい
私に名前を下さい
【第十二話】
涙が溢れる
それは大粒で
まるで心を凍らせていた氷が溶けた様だった
傍らに居た男は気付いて頭を撫でる
「大丈夫か?どこか痛い所でもあったのか?」
男は気付いていない
肝心な所が解っていない
それが何故だか“あの人”と被ってしまう
優しい口調
温和な笑み
それでいて何処か飄々としていて
男は何故だか“あの人”とブレて映って・・・
また涙が流れてきた
男は只静かに【僕】の頭を撫でる
それがとても温かくて
とても身に沁みて
何かが解けていく様な感覚に囚われて
白き狼に言われた言葉を思い出した
「お前の涙は全てを溶かすだろう」
その意味がちょっとだけ分かった気がした
だから・・・少しだけ勇気が持てたのかもしれない
氷は溶けて
水が流れて
堰き止めていた物は流れ出し
本当の想いだけが表に現れた
「――――――また、逢えた。姉さん、貴女は全て分かっていたのですか」
彼女は素知らぬ顔で
ただ笑みだけを浮かべた
【僕】は涙を目尻に残しながら
笑顔を作ってこう言った
「私に・・・名前を下さい―――それが海神斐綱が受け継いだ事。そして【僕】の終点であり、私の始まり」
闇から生まれて十四年
―――私はこの時、生まれて初めて笑った
第十二話
「Ein Lacheln(笑顔)」
完
【闇本・求-Ich sah wieder-】
神よ、貴方の御手を逃れし先に何があるのか。
天と地は離れ、鳥は空を降る。
露は頬を伝い、実りを大■■と与■る。
ならば神よ。
何ゆえ貴方は、手を差し伸べるのだ。
背きし我らを救いて何の為になる?
■き■■は何ゆえ世■■■えし■を討■のだ?
私■■う。
■■ュトスがそうであった様に。
私は願う。
■き雄羽と白き雌■■持ちて、鐘を鳴らす君よ。
どうかこの世の終わりを退けてくれ。
子の無事をこの目で見■■■、我らは死する事は出来ない。
書物を閉じる
それは神話の時代を歌った物
所々が破け読めないが
これは後世に伝える物だとその時の私は思った
刻は旧生暦七十八年
彼の名はタツヒ、神事を研究する学者だった
神の住まう場所
“其処”でこの書物と一匹の黒猫を見付けた
黒猫は最初牙を剥いたが
私の事を認めると、体をすり寄せるまでになった
しかし彼はその翌年・・・原因不明の病でこの世を発った
これはその直前に彼が残した言葉である
「私は其処である物を見付けた。
それは紀元前かそれ以前の時代の記録であり、
後世に残すべき物である事が伺える。
黒き体を持つ神の絵が描かれてある壁画。
古代の人々は生と死を胎児で表しており、
片方を猫、片方を狼としており、
私が保護した黒猫はそれに倣って、
神として彼らに崇められたのだろう。
それは時として暴虐の対象にもされたと云える。
しかし彼女にはその痕が見られない事から、
別の対象がいたという事が見受けられる。
私の命は残り少ない。
誰でもいい、どうか彼女の世話をしてやって欲しい。
それがタツヒ=イーキライトの最後の願いだ。」
その後、彼は丁重に墓に葬られたが
遺言にあった黒猫がいなくなっていたという
黒猫が居た場所
そこは旧時代の言葉で
「Ich lache uber Leben」と書かれていた
―――生を愚弄する
なれば彼女は・・・・・・
闇本/...閑話
完