俺の生き方に目標なんて無い
ただ殺して殺して殺しまくる、そんな生き方
その考えは変わらないし、変える気も一切無い
切り刻んで、突き刺して、圧し潰して、かち割って
焼き殺して、溺れさせて、打ち砕いて、消し炭にして
殺す事こそが俺の生き甲斐
それが俺の全てだった
だから・・・それがみんな無くなったら如何なるのかなんて
その頃の俺は知らなかった
「ちぃとばかしヤベえか?」
男の名はスレイド
その所業から『血風』、『紅鬼』等と呼ばれている
出自は不明、何処からともなく現れ死を振り撒いて行く
周囲から危険視されていたそんな男、だったが
スレイド「しっかし、此処は何処だよ全く・・・」
腰に手を当てて唸る
全方位一切の隙も無い闇
暗闇は慣れているが、如何せんここまでの闇は未経験だ
何故こんな所に居るのか分からない
本当に分からないのか、脳みそが理解したくないのか
原因という物がサッパリ分からない
スレイド「コイツは完璧に困ったぞ。せめて何か目印でもあれば・・・ん?」
視界の端に何かぼや~っとした物が見えた気がした
じーっと目を凝らして見てみると其処には
スレイド「・・・・・・女?」
冷たい目をした女が立っていた
第一転
「闇との邂逅」
完
女だ
見紛う事無き女だ
細いラインとなだらかな曲線
何処からどう見ても女にしか見えない
スレイド「(あー・・・頭でもイカれちまったかな?)」
なんで光が無い所でこんなにハッキリと人間が目視出来るのか解らない
なのでこれは夢だと、スレイドはそう結論を出そうとした
しかし女が口を開き、こちらに対して問いを投げ掛けてきた
女「世界の加護でも受けたのか?」
スレイド「は?」
言ってる意味が解らん
えらく透き通った声音だが、その表情は冷徹その物だ
俺が答えないのも無視して女は続ける
女「貴様は数少なき同胞となるのか、それとも物言わぬ虫ケラとなるのか。どちらだろうな」
スレイド「いや、言ってる意味解んねえし。そもそもお前誰だよ、此処は何処だよ」
女「この闇に在ろうと自我を保っていられるというのなら・・・貴様は前者なのだろうな」
スレイド「お前は人の話を聞く気があんのか。いや無いな、絶対無い」
女は笑う
だがその目は笑ってないし
そもそも視線自体が冷たい気がする
背中を冷や汗が流れていく
別に恐怖を抱いた訳じゃない
何つーか、こう、薄ら寒い物を感じただけだ
スレイド「此処は何処かって聞いてんだよ。十秒以内に答えねえと、その真っ白な体をバラバラに分割して犯しちまうぞコノヤロー!」
女「地獄を越えた場所だ」
即答かよ
第二転
「冷笑を浮かべる女」
完
地獄とは大きく出たモンだ。しかもそれを越えやがった
地獄の最下層であるトコの永窮冠獄は無視ですかそうですか
スレイド「んで、なんで俺がそんな所に居るんだよ?」
女は静かに笑い、平然と言ってのけた
女「死んだからだ。それ以外に此処に辿り着く術は無い」
スレイド「・・・・・・」
口を開けたまま俺は停止した
死んだ?誰が?俺が?!
いや、待て待て待て。一回落ち着こうぜ俺
落ち着いても先程の言葉が頭の中で延々ループしてしまう
スレイド「いつ死んだ?何処で死んだ?誰に殺された?何やってる時に死んだ?死んだのを知ってるって事はお前は死神か?!」
早口にまくし立てる
女「お前の場合は自然死だ。そしてその問いは同時に答えでもある」
俺は再度口を開けたまま停止
いや、まあ、いつか死ぬだろうなとは思ってたが、まさか自然死とは・・・
予想外にも程があるだろ、オイ
そして死んだって事はつまり
スレイド「殺すモンが無いって事じゃねえかよ・・・」
盛大な溜め息を一つ
殺す事だけが俺の生き甲斐
じゃあ殺せなくなったら?
生き甲斐を失った俺は如何なるんだ?
女「そうだな。殺害する為の方法も材料も失った貴様は、フェイクゴースト以下だな」
スレイド「よく分からんトドメあんがとさん。絶望越えて逆に清々しいよ」
ホントはすっげえ泣きてえけどな
第三転
「死の原因」
完
オーケー、目の前の女が死神で俺が死人だって事は解った
しかし重要な事をもう一つ聞かなきゃならねえ
多分それは最初に聞かなきゃいけねえ事だった筈だ
スレイド「で、その死人の俺に何の用なんだよ?」
女「貴様は此度で死神に生まれ変わる権限を手に入れた。喜べ」
スレイド「喜べって・・・」
そんな冷たい笑顔で言われても嬉しくねえよ
例えクラッカーとかケーキとか用意されてても素直に喜べねえよ
女「これから貴様は死神として行動して貰う。心して聞け」
スレイド「いきなりやれって言われて「はい、分かりました」って言うと思ってんのか?」
女「死神には主に二つの仕事がある。首から上を狩る死神と、人間に憑り付き人生を破滅させる死神だ」
スレイド「だから人の話を聞けっつーの。お前の首掻っ切って首姦してもいいんだぞ」
女「私は前者を行っている。首から上を狩る場合、対象となる人間は容姿の良し悪し、男女の区別に関わらず全てだ」
スレイド「それともアレか?ヘソから指突っ込んで内臓を犯されたいか?俺としては眼窩姦が一番好きなんだが・・・」
女「後者の場合は幾多もの世界から一つを選び、その世界に存在する人間を選び憑り付く。前者よりも手間は掛かるが、過程を楽しみたいであろう異端のお前にはよく似合っていると言える」
スレイド「全裸に亀甲縛りでボールギャグ付けて、目隠しの上首輪して、衆人環視の中で犬の散歩ごっこでも俺は構わな・・・って勝手に決めんじゃねえ!あと誰が異端だ!?」
自分の願望を話していて気付いていなかった
いや、最後のは結構譲歩した話だったけど
衆人環視の中、見られているという状況に対して感じるメス豚なんて、探せば何処にでも居るしな
取り敢えず話が逸れたんで質問してみた
スレイド「選択肢はその二つしかねえのかよ?」
女「ああ、それしかない」
俺はガックリと肩を落とした
人間の全身を殺すのならまだしも
首だけ狩るなんて芸当、俺には出来ねえしな・・・
そうなると俺が選択するのはやっぱり
スレイド「オーケー、了解だ。後者を選ばせて貰う」
心の奥底ではげんなりしている俺が居る
第四転
「噛み合わない会話」
完
スレイド「・・・ああ、そうだ。死神ってやつは外見が変わったりすんのか?」
女「身体には特に変化は無い。死神化の特長は魔力の保有を許可する承認だ。上界で魔導と呼ばれているものの発動が出来る様になる」
スレイド「魔力?魔導?んなファンタジーじゃねえんだから」
その言葉に女は目を閉じ、一言〈灼〉と紡いだ
直後、暗闇が照らし出された
その光源は女の手の平。そこに出現した火柱だった
俺は驚きと同時に喜んだ
これが魔力か。これがいわゆる魔導という物か、と
女が拳を握ると火柱は最初から無かったかの様に消えた
女「今のは低出力で顕現させた物だが、並みの出力ならば人体を発火させる事も出来る」
スレイド「それ、俺にも出来るのか?!」
俺の目は爛々と輝いている
死んで殺す手段が無くなったと嘆いていた所にこれだ
興奮しない方がおかしい
女「使用出来る魔導にも制限はある。私の場合、生前の特殊性に起因した魔導だ」
スレイド「む・・・自由に選べねえって事か」
いや、だが待てよ?
それはつまり、トンでもねえ能力が付加されるかもしれねえって事じゃねえのか?
その確率も大いに期待出来るな・・・
いや、でもな。クソの足しにも使えねえ能力が使える様になっても嫌だしな
あーでもない、こーでもないと悩んでいる俺を放って女は告げる
女「ふむ、珍しいな、貴様は特異存在らしい。世界の構築者自らの指名だ」
スレイド「いや、でも・・・ああ゛?今なんつった?」
女「転移先は第239多次元世界「天星」。其処に居る『吐々貸 朱鷺江』という人間が憑依対象だ」
スレイド「は?そこは選択制じゃねえのかy・・・って、俺の腰から下が無えっ!?」
女「幸運を祈る」
スレイド「死神に言われたって嬉しくな」
最後まで言わせて貰えなかった
女は一つ息を吐き、暗闇を歩く
首から上は観賞用
目玉は宝石散りばめて
首からぶら下げ弄ぶ
嗚呼、愛しの貴方は今何処に居る?
第五転
「しばしの別れ」
完
そして時は流れた
正直、この十年は長かった気がする
転移してからの十年じゃなく、憑依してからの十年だ
環境が違う所為か、俺も性格が随分丸くなっちまった
今じゃ殺しが如何のなんて、頭の隅でホコリかぶってる位だ
スレイド「あー・・・なんで此処ってこんなに落ち着くのかねえ?」
闇だ
前回の時と変わらず完全な闇
何つーか、こうも変化が無いと逆に変化が欲しいトコではあるが
スレイド「無理言っても仕方無えしなあ・・・」
頭をポリポリと掻く
最近は何かと忙しかったからか、ボーっとする機会も無かった訳で
暗闇では何かをするという気力も湧かない訳で
つまり早い話が「来た意味全く無し」という事だ
腕を組んで突っ立っていると、前方から誰かが歩いて来た
スレイド「あ」
「む?」
女だ
どっかで見た様な女が歩いて来た
背格好は変わっちゃいるが、正真正銘どこから如何見てもあの女だ
スレイド「てめえ、なんで此処に居やがる」
女「・・・ああ、お前か。久し振りだな」
前回と同じ受け答えをする
若干口調が柔らかいのは気の所為だろうか?
スレイド「お前、なんか雰囲気変わってね?」
女「まあ、あの後私にも色々あってな」
スレイド「何だあ?男でも知ったとかか?」
冗談交じりに言う
それに女はしれっと
女「ああ、掛け替えの無い者を手に入れた。娘も出来たしな」
マジかよ
俺は口を開けたまま停止した
何かデジャヴってるが今は気にしない
スレイド「おいおい、娘ってお前、死神ってそういうのも許されんのかよ」
女「いや、まあ、色々あったのだ。それと私の名前は「お前」ではないぞ?」
スレイド「つかお前、名前名乗ってねえし」
リィス「む、そうだったか、すまん。私の名はリィスだ。改めて今後ともよろしくな」
スレイド「何その仲魔になるから発言。根本的なトコ変わってねえし」
リィス「お前からすれば、私を如何にかする選択肢は無くなった訳だしな」
スレイド「かなり萎えましたとも。ホントだったら再会した時点で四肢切断して、二穴をガバガバになるまで犯し尽くしてただろうに・・・」
マジ残念だよ
その言葉を聞いてリィスは静かに言った
リィス「先に言えばよかったな」
スレイド「ああ゛?」
リィス「実は今回同行して貰っている」
あ?
そいつは一体如何いう意味なんだろうなあ
何か冷や汗みてえなモンが背中をダラダラ流れていってるんだが
その原因はすぐ其処に居た
『詳しく話を訊かせて貰おうか』
こめかみに青筋立てた男がリィスの傍らに浮いていた
冗談は抜きにしろよ、オイ
第六転
「口は災いの元」
完
冷や汗が頬を流れる
こういう展開はあっちで嫌って程体験したが、それでも一向に慣れないモンだ
スレイド「旦那が一緒に居るなんて聞いてねえぞ・・・」
リィス「だから今「先に言えばよかった」と」
スレイド「前回もそうだったけど、言うの遅えんだよ!」
目の前に浮いていらっしゃる方からは視線を離さず抗議する
ん、浮いて?
よくよく見れば体が透けていらっしゃる
霊・・・体・・・?
何で霊体が自分の意思で喋ってるんだよ、オイ
男「何か言いたい事は?」
スレイド「申し訳ありませんでしたorz」
ああ、駄目だ
ここ十年の習慣が身に染み付いて離れなくなってやがる
土下座か土下寝か謝罪の言葉ばっかだった様な・・・
何で俺、死神やってるんだっけかなあ
そんな俺の状態に相手は怯んでいる
そりゃそうだ
さっきまであんな態度でエロティック(一般的には犯罪チック)な言葉乱発してた奴が土下座してるんだからな
誰だって怯むだろうさ
「あー・・・反省してるんならいいんだけどな」
遂には相手が折れた
つくづくあっちでの生活は俺に対して不利益しか与えてくれてねえ
まあメンタルは強くなったかな、うん
リィス「うむ、斐綱がこう言っているのだから頭を上げてもいいぞ。スレイド」
スレイド「なんでお前が偉そうに言ってんだよ」
下げていた顔を上げながら言った
なんなんだ、こいつのこの態度は。十年会ってなかっただけで人間ここまで変われる物なのか?
いや、まあ、俺達人間とっくに辞めてるけどよ
斐綱「なんというか言動はアレだけど、アンタも苦労してるんだな」
斐綱と呼ばれた男が苦笑しながら言う
こういうのを同情っつーのかな?
何か救われた気分になった。これで女だったら恋に落ちてる。人妻なら寝取ってるレベルだ
第七転
「その表現は如何なんだ」
完
リィス「そういえば、憑依先の人間のその後は如何なのだ?」
斐綱「もぐもぐ」
俺達、未だに闇に居ます
しかも弁当食ってます、重箱サイズの
作ったのは斐綱らしいです
味は結構イケます。この出汁巻き卵なんかプロの域なんじゃないかと・・・
スレイド「もぐもぐ・・・ごくん・・・ああ、それなんだけどよ」
おっとと、ノドに引っ掛かるトコだった
スレイド「俺の魔導、宿主に権限ごと取られちまってな。あ、そこのピーマンの肉詰め取ってくれ」
斐綱「よく分からないけど、魔導って他人が如何こう出来る様な物なのか?ああ、これな、何個?」
スレイド「二個。俺の宿主が暮らしてる町は何かしら能力持ってる奴が居てな。別に珍しい事じゃないんだと」
リィス「能力者をそんなに密接させていていいのか?抑止存在は何をしているのだ・・・もぐもぐ」
スレイド「抑止存在って何よ、それ俺初耳なんだけど。・・・って人の皿からわざわざ大好物を持っていくな!」
リィス「ほお、昆布巻きが大好物とは地味な奴だな」
スレイド「地味で悪かったな!!」
斐綱「いや、昆布巻きって地味か?というか今全世界の昆布巻き好きを敵に回した気がするぞ」
言いながら味噌汁を啜る
「少し薄かったかな」とか零しながら
完全に主夫です、この人
リィス「抑止力に関しては説明は要らんと思うが、あれはいわば世界に根付く防衛機構。熟達した機能を持つ星なら自ら選定して任命する。だが原始段階で成長が止まっている様な未熟な星ではそもそも抑止力が生まれる材料は無いに等しい。・・・故に、別の星・次元などから抑止力となり得る存在を派遣するのだ」
スレイド「今就職氷河期だから大変だろうな。俺も忘れねえ様にメモっとこ」
リィス「現在は第三時空にある浄罪戦城と呼ばれる場所に抑止候補が数万人程収容されているとの事だ。ん・・・斐綱」
スレイド「俺、冗談で言ったんだけど。つか人前でいちゃつくな、お前等」
斐綱「あーん・・・もぐもぐ・・・ずず・・・いや、すまん。いつもの癖で」
毎日の習慣かよ
俺は心の中で「リア充、爆発しろ」と百回叫んだ
第八転
「料理が出来ない訳ではありません」
完
弁当を食べ終わり、一息つく俺達
ホント何しに来たんだか
リィス「先程の話から気にはなっていたんだが・・・」
スレイド「んー?」
リィス「お前の魔導は結局なんだったんだ?」
一呼吸
スレイド「対象の生死選択権」
リィスは目をぱちくりさせて驚いている
お前、そういう顔も出来たんだな。すげえ新鮮だわ
リィス「それはつまりアレか。真にお前に起因していた魔導だった訳か」
スレイド「まあ、そうなる訳だな。今の俺からすりゃ「若き日の過ち」とか「薄れ行く青春時代」みてえなモンだが・・・」
リィス「何だその意味不明な中二病発言は」
スレイド「しばくぞ、てめえ」
リィス「まあ、確かにそれ程までの魔導をいち人間が使用出来るとなると、また見方が変わってくるな」
スレイド「俺は現在進行形でお前に対しての見方が変わって行ってるよ・・・」
リィスは「如何いう事だ?」と全然解ってない風に訊いてくる
スレイド「まさかあの、人の話も聞いてくれない死神が人間になってるとは思わねえだろ」
スレイド「しかもだ、娘まで出来てるとか・・・斐綱はこいつが死神って分かってて結婚したんだろ?」
斐綱に訊ねる
すると意外な答えが返ってきた
斐綱「死神っていうのは後で知ったかな。式挙げた時もう俺死んでたし」
眉をハの字に苦笑する
確かにそんな事をさっき言ってた様な気がする
苦労してんだな、こいつも
リィス「・・・そろそろ良い頃合いだな」
スレイド「おう、帰るか?」
斐綱「家族が待ってるからな。娘の子守も見て貰ってるし」
スレイド「そか。んじゃまた機会があったら酒でも呑もうぜ」
リィス「スレイド・・・今の生活は楽しいか?」
前と変わらず冷たい笑顔で訊いてくる
それに俺はサラッと言ってのける
スレイド「人殺してるよか何ぼか楽しいぜ」
リィスは満足そうに「そうか」と頷いて、斐綱と一緒に闇を歩いて行く
俺はまた一人
ポツンと一人闇の中に居る
肩をすくませて一つ溜め息を吐いて
闇の中を歩く
スレイド「帰れる場所があるのは、まだ良い方だよなぁ・・・」
そんな言葉も闇は黒く塗り潰す
終転
「死神アナカリス」
完
