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女は自分を助けてくれた男に問う

 

「何でこの蝕業を続けられるのかって?」

 

「そうだな・・・昔一度だけ一緒に戦った奴が居るんだけどな。ソイツの姿が左目に刻みついて離れねえんだ」

 

それに男はカラカラと笑って答える

この星に巣食うセストと呼ばれる魔生物は、その数を減らしてきたがまだまだ存在する

男は何時かの炎の祖と相対した時の事を話した

 

「ほとんどソイツが倒した様なモンだったけどよ、あの後探しても見付からなかったんだよ」

 

ホント何処行っちまったんだろうな、と男は空を仰ぎながら一人呟く

その横顔を見ながら女は再び問う

 

「あん?女だよ。別に好きとか嫌いとかの感情は無かったがな」

 

「一度きりの協力関係ってヤツかね。・・・・・・俺もアイツみたいになりてえなって思っただけさ」

 

男は目を細めて破壊された街を見る

それは何処か怒りを秘めた様な表情だった

そんな男の手を静かに取ると、女は優しく自分の手を重ねて握った

 

「おいおい、お姫様にそんな事される様な事を俺はやったつもりはねえぞ」

 

それでも、と女は感謝の言葉を男に言った

それは心からの感謝の言葉だった

どんな大きな王国だろうと一介のお姫様には如何する事も出来ない

戦う力も守る力も、ましてや強敵に向かって行く力も何も持っていない

だから女はこんな事位しか出来なかった

 

「・・・はぁ、こんな欠損野郎を前にして同情でもしてんのか?」

 

男の言葉は棘の塊だった

しかし女は意に介さず尚も感謝を捧げた

男はその剣幕に押されて、終いには折れていた

 

「お姫様、アンタにゃ戦う力も守る力も、ましてや強敵に向かって行く力も無えけどよ」

 

「押しの強さだけは誰にも負けてねえな」

 

あの日共に戦った女が消えて、男は一人生き残った

もうあの日の様な満足のいく感覚は味わえない

何かがスッポリ抜けた様な気がしていた。何か大切な物が

だがこの日、男はあの日と同じ何か大切な物を得られた気がした

それが何なのかは考えても分かりそうに無かった

 

「けど、まあ・・・」

 

「・・・感謝されるのも結構嬉しいモンだな」

 

男はカラカラと笑った

 

終わり

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