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人類がその文明をさらに昇華させ、母なる星を捨て他の惑星に繰り出した時代

地球ではそれまで影を潜ませていた魔族が、捨てられた星の上で暮らす様になっていた

しかしそんな彼等にも畏怖すべきモノがあった

確かに有史以前から人類の敵は存在していたと云える

ソレは人に寄生し、宿主の自我を貪り食らう

そして果てはその人に取って代わる魔生物

世界はソレを「セスト」と呼んだ

 

【Se-sT】

 

懐から取り出した煙草にライターで火をつける

ライターなんて前時代的な物を持っているのはかなり珍しい事だ

そんな物を使う位なら一式詠唱(シングルアクション)で火球でも出した方が燃費が良いだろう

長い耳が風の流れが変わったのを感じ取る

 

「北西寄りからの風か」

 

腰掛けていた石から離れると、器用に絶壁を降りて行く

荒野を走る馬車が見えた。他には何も無い

周りに遮蔽物は無い。その方が自分にとっては都合が良い

 

「このまま並走してもいいな。その方がロマンがあっていい」

 

口端を吊り上げて、本当に面白そうに笑う

と、馬が声を荒げて急停車した

それを見て表情を戻すと、一足飛びに馬車の近くまで飛んだ

馬車の中には男が一人蹲って必死に何かに抗っていた

男の近くには仲間であろう者が何人も倒れている

そのどれもが深い引っ掻き傷を体に刻んでいる

 

「たす、け・・・」

 

「それは無理だ。セストが覚醒したら終わり、授業で習わなかったのかい?」

 

あくまで冷静に、あくまで冷酷に告げる

男の両目からは涙が流れ、それが床に零れ落ちる頃にはその容姿は大きく変わっていた

見ようによっては蜘蛛の足が背中に生えているとも取れる

 

「テメエに掛ける言葉は一つきりだ」

 

腰のホルダーに手を伸ばす

銃弾は十全

情けは一欠けらも与えず

その瞳は赤く燃え

ただ一つの願いをこの胸に

 

「焼けろ、蛆虫野郎が!」

 

この時、この瞬間に

彼女の、青徒景火の物語が始まった

 

 

第一片

「プロローグ」

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