燃えるかの如く赤く鈍く輝く両の眼
鋭く鋭利な鮫の歯の如き牙
銀世界に似つかわしくない黒き体
そして他のセストにはない言語能力
風が吹く。熱を帯びた生温い風が
ケイカ「炎の・・・化物」
あの日見た異形の怪物
全てを飲み込み蹂躙した、私のトラウマ
炎の化物「この匂い、その瞳。久しいな・・・青き脆弱なる者よ」
自分の目と鼻の先にはヤツが居た
何時から居たのか分からないが、そんな事は些細な事だ
何時も悪夢として私の夢の中に現れる化物
この手で殺してやりたいと何度思ったか
血液が沸騰する様な感覚
目は血走り、銃を握る指は燃えそうな程発熱していた
炎の化物「憎悪の色が見える。我を殺したいか、我を裁きたいか」
銃を向ける
もっと身震いするかと思っていたが、如何やら私の体は案外怖いもの知らずな様だ
炎の化物「よかろう・・・我は七つが祖にして暴虐たる劫火の獣!戦士よ、貴様の名は何だ?!」
牙と牙の間から燃え盛るブレスを吐き漏らしながら怪物が叫んだ
怪物に礼儀を払う気は全く無かったが、敵を前にして名乗りを上げる事もまた良しとした
それもまたロマンだ、と私の中の何かが反応したからだ
こんな時でもロマンを求める等と一人心の底で苦笑した
ケイカ「誇り高き魔族の子、青徒景火」
両者共に大地を駆ける
どちらが速いか等と、どちらが強いか等と野暮以外の何物でもない
ただ、どちらが最後まで立っていられるか
それだけがこの場で一番必要な結論
ケイカ「遅いっ!」
炎の化物「中々やるではないか、我の爪撃を紙一重と言わず余裕を持って避けるとは。ならばこれなら如何だ!?」
相手の動きをよく見てかわす
それは何時もやっている事と何ら変わりは無く、祖といえどもその辺のセストと違いは無いのだ
と、私は慢心していたのだろう
次に放たれた攻撃を私はかわす事が出来ず、無様に銃身で受ける事になってしまった
ケイカ「ぐっ、あぁっ!」
衝撃が銃身から腕まで届いた
ビリビリと痙攣の様に両腕を駆け巡る衝撃を無理矢理押し殺す
見ると怪物はその場から一歩も動いておらず、逆に私は雪上を滑る様に5mも離れていた
先程から降り始めている雪の為か距離感が掴み難いが、目測で5mである。結構な衝撃を与えてくれた物だ
炎の化物「ほお、今のを受けきるとは貴様の得物も一筋縄ではいかんという事か」
感心されてしまった
正直その賞賛の言葉に反吐が出そうになるが、この場は一旦飲み込む事にする
そして私は再び怪物へと駆けた
第五片
「炎と炎」
完