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墓参りに来た
盆には少しだけ早かったが、ウチの墓参りはいつもこの位の時期だった
俺は本当の母親というものを知らない
今の母親は義母の様なもので、父親に至っては消息不明と来たモンだ
だがこれといって不満は無い
母ちゃんも父ちゃんも良い人だ
爺ちゃんは家に居ない事が多いけどそれでも本当の孫の様に可愛がってくれる

 

紅葉「やはり神社の近くに作ってよかったな。共同墓地だと管理が大変でな、石田先生の墓も経年劣化で朽ちてしまったよ」

 

前を行く母ちゃんが愚痴る
共同墓地は町の外れにある。管理する寺も廃墟同然で跡取りも居ないとの事だ
突然ピタリと母ちゃんが止まった
何事かと脇から前方を見ると、

 

「・・・・・・」

 

墓前に見覚えの無い男が立っていた
腰まで届くだろう長い黒髪を風に揺らしながら、ただただ静かに立っている
俺達の気配に気付いたのかゆっくりとこちらに振り向く

 

紅葉「師匠・・・」

 

「暫く見ない内に大きくなったな。どうだ、剣の腕は千里を超えたか?」

 

紅葉「うっ・・・ぐすっ、ししょ~・・・」

 

「おいおい、子供の前だろ?大人なんだから少しは我慢しろよ」

 

言いながら手を広げる
母ちゃんは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら男の胸によろよろとしがみ付いた

 

「全く、仕方の無い弟子だな。だが今までよく頑張った、ありがとな」

 

男は涙と鼻水で服が汚れるのも気にせず、泣きじゃくる子供の頭を撫で続けた
俺はその光景を声も出さずに眺めた
そう、俺は理解したからだ
母ちゃんは口に出した事は無いけどずっと何かを待っていた
そしてそれは恐らくこの男で、同時に俺の本当の父親なのだろう

 

​終わり

 

 

「千年?!もうそんなに経ったのか?!」

 

紅葉「はい、この千年の間に能力者の数も増え宇宙の実体化も行われ、更に・・・人外もその数を減らされていき、もうわずかな数しか」

 

男はパクパクと口を動かすだけで言葉にならない様だった
人外というのは歴史の教科書にも載っている先住種族の事だ
曰く、強力無比の力を持って人間を脅かしていたので、今から五百年前に人外狩りが始まったとかなんとか
母ちゃんが言うには脅かしていたのは妖魔のハーフで、人外は人間達から半ば迫害されていたらしい
それが事実なら世界を脅かす害虫はどちらなのかは明白だ

 

「・・・あれ、蒼麻?うわ懐かしいな、とっとと帰って来いってんだよこのアホが」

 

蒼麻「笑顔でサラッと悪口言うな。秋、お前全然変わってねえな」

 

虹耀「いや、あれから僕も色々あってね。今は虹耀(こうよう)と名乗ってるんだ」

 

紅葉「ああっ、そういえばそうでした。私も母から剣神の名を譲られまして、今は紅葉(くれは)と名乗っています」

 

蒼麻「つー事は、完全に白雨に認められたって事か。流石は我が愛しき弟子、思いっ切り撫でてやる!」

 

紅葉「し、師匠~!?私もう大人なんですから恥ずかしいですよっ!!」

 

虹耀「の割には涙の跡がある所を見ると、蒼麻に逢えた嬉しさで号泣したとみえる」

 

紅葉「あ、兄上!」

 

父ちゃんに蒼麻と呼ばれた男はとても懐かしい物を見る様に、目を細めてその光景を見ている
そりゃあ千年振りなんだ、懐かしいだろうさ
三人を横目で見ていた俺にふと玄関の方から声が掛けられた

 

巴「奏覇奏覇、ちょ、ちょっと来て」

 

奏覇「お前何してんだ、そんなトコで。ってか、いつ来た?」

 

巴「さっきよ、さっき。そんな事よりあの人誰?アンタの親と仲良さそうに話してるけど・・・」

 

奏覇「ああ、あれ親父だよ」

 

巴「はあ?アンタのお父さんは虹耀さんでしょ?」

 

奏覇「違う違う、父ちゃんは育ての親。あっちの髪の長い方が本当の親父なんだよ」

 

巴「マジで?いやま、確かに顔とか似てるけど・・・年齢とかおかしくない?どう見たって二十代にしか見えないんだけど」

 

奏覇「そりゃ、親父は人外って話だから」

 

巴「じじじ人外!?人外ってあの!?」

 

ああ、そうか。その問題があった
さっきも説明した通り、歴史の教科書にも載ってる位人外は脅威の存在だ
簡単に言うとゲームの魔王みたいな存在
あれは部下であるモンスターも強いけど、魔王はそれよりも強い
勇者が居ないと魔王の脅威に震える事しか出来ない。まあ、つまりそういう事だ
人外は最早この星では自由に生きられない生物となってしまった

 

蒼麻「ん?」

 

親父がこちらに気付いた
巴はそれにビクッと反応し、肩を震わせて身を固めてしまった
ああ駄目だコイツ、普段は強気なのにこういう時使い物にならないんだ
親父が近づいて来る
巴は半分涙目になっている
親父は残り1mという所でピタリと歩を止めた

 

蒼麻「おい、白帝、秋。こりゃどういう事だ?なんでこの時代に・・・」

 

親父はありえない物を見る様な表情でポツリと呟いた

 

蒼麻「・・・京が居るんだ」

​終わり

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